KDDIをはじめとする4社は、7~9月に実施した「みんなの夢をのせるeレーサープロジェクト」内で、脳トレーニングによる実車運転技術の改善が可能かどうかを調査した実験結果を発表しました。
この実験には20人のeレーサーが参加。うち半分の10人には約4週間の脳トレーニングを実施し、脳トレーニングなしの10人と実車およびシミュレーター走行でのタイム向上の差を確認しました。結果は、実車走行のタイムにおいては脳トレーニングをしなかったグループが2.9%のタイム向上を果たしたのに対して、脳トレーニングを実施したグループは6.5%もタイムを切り詰めることに成功したとのこと。
シミュレーター走行でも、脳トレなしのグループは0.13%のタイムアップだった一方、脳トレーニング実施組は1.7%ほどタイムを縮めることができており、タイム短縮率はそれほど大きくなかったものの実車と同様の傾向が見られたとされます。
レーシングシミュレーターは、eレーサーたちが普段から腕を競っているeスポーツで使われるゲームソフトと感覚が近く、参加者らはすでにある程度のスキルを持っている状況だったと考えられるのに対して、ドライビングの感覚を得るのにある程度の慣れを要する実車走行では参加者の伸び代が大きかったことが、脳トレーニングによるパフォーマンス向上にも現れた結果と言えるかもしれません。
では実際に「脳トレーニング」とはどういったことをしていたのでしょうか。資料によると、トレーニングメニューとしては「ニューロフィードバックと感覚運動トレーニング」、「ニューロフィードバックによる感情制御トレーニング」の2つが用意され、いずれもVIE STYLEのイヤホン型脳波計を使用して脳の活動状況をモニターしつつ、前者では運動学習の促進に有効な特定の周波数を持つ脳波成分の増強を実施、後者では個人の感情状態を推定する脳情報解読技術により、どのような場面でも冷静な判断力を保つ訓練を行ったとのことです。
なお、「みんなの夢をのせるeレーサープロジェクト」は、将来プロフェッショナルなカーレーサーを目指す人たちに、金銭的な負担の大きい実車走行経験の積み重ねによるステップアップではなく、シミュレーター、脳科学、ITを駆使することで実力向上の機会を提供できるようにしていこうという取り組みです。
eレーシングからリアルのプロレーサーになるというのは、簡単なようでいて実は非常に困難な道でもあります。シミュレーターは目から入ってくる情報がほとんどですが、実際のマシンに乗っての走行では、マシンの挙動を身体全体で感じ取り、微妙なトラブルの兆候をさまざまな要因から判断するセンスも必要になります。そういった部分は実車での走行経験の積み重ねが必要になるため、結局は小さな頃からレーシングカートをはじめている方が有利になります。
しかし今回のプロジェクトによって、脳科学やITを駆使したeレーシングドライバーがリアルのモータースポーツでも活躍できる可能性が増えるなら、これまでなら埋もれてしまっていた才能が、発掘されることもあるかもしれません。