2017年5月、最初のマストドンブームの時に世界最速のマストドン入門書が出版されました。それから5年が過ぎ、イーロン・マスクによる買収で揺れるTwitterからの移行先としてマストドンが改めて注目されています。SNS事情に詳しく、最初のマストドン入門書の著者の一人である堀正岳さんに、アップデートされた入門記事をまとめてもらいました。
イーロン・マスク氏によるTwitterの買収に伴い、従業員大量解雇や広告主の離脱といった混乱が連日報じられています。
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ワールドカップを見ている多くのユーザーのもたらす負荷が深刻な影響を与えるのではないかなどの推測もある中、今のところTwitterのシステムは大きな混乱もなくサービスを維持できているようにみえます。しかし今後を不安視したり、イーロンが利用規約違反で凍結されたアカウントを一律に復活させると発表したことに対する反発などもあって、Twitterからの離脱を考えるユーザーは急増しています。
そうしたユーザーの移行先として名前の挙がるミニブログサービス「マストドン」(Mastodon)が、月間アクティブユーザー数で初めて200万人を突破し、大きな注目を集めています。
そこで本稿では、マストドンに初めて登録して利用するまでの道筋と、どういった点がTwitterと異なるのかといった要点についてまとめたいと思います。
マストドンはTwitterの代わりになるのか?
Twitterが一企業によって運営されるSNSサービスであるのに対して、マストドンは世界中に存在する数多くのサーバが連合して生み出されるソーシャル・ネットワークです。この「数多くのサーバの連合」の状態を指して、マストドンは非(脱)中央集権(Decentralized)なサービスであるなどといわれます。
マストドンを開発しているのはドイツのオイゲン・ロチコ氏ですが、技術的にはW3Cの標準規格にもなっているActivityPubプロトコルを採用していますし、ソースコードがAGPLのライセンスで配布されているオープンソースのソフトウェアという特徴もあります。Twitterがイーロンに買収されたような形で、誰かがマストドンを買収したり一方的に支配できないのも、移行先として注目される理由です。
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では、マストドンはTwitterの代わりになるのでしょうか? これについては、現時点でマストドンがTwitterを完全に置き換えるのは考えにくいというのが現実的な回答になります。
マストドンは機能的にはTwitterに非常によく似ていますが、まだまだ全世界のユーザーが移行するにはサーバが足りなすぎますし、一般のユーザーにはわかりにくい点もあってハードルが高いサービスです。
また、Twitterの価値は過去16年にわたって積み上げられてきた世界中のユーザのネットワークであり、過去のツイートによるものです。大勢のユーザーが日常的に使っているからこそ、アプリを開いているだけで最新の話題やニュースやゴシップが流れてくる今のTwitterのような便利さを、現状のマストドンに期待はできません。
しかし、マストドンには進取の気性をもったこだわりの強いユーザーが大勢いて、多くのコミュニティが活発にやりとりをしています。そしてユーザーは大きく拡大しているところでもありますので、純粋に面白いSNSに成長しつつあります。Twitterが今後どうなるのかと関係なく、マストドンはマストドンで楽しい場所としてこれからも継続することでしょう。
マストドンに登録することは、新しい発見と出会いのある、別のSNSへの扉を開けることなのです。
マストドンに登録してみよう
いざ登録してみようと考えたとき、ユーザーからみるとTwitterは twitter.com のURLにいけば登録もツイートもできるのに対して、マストドンは複数あるサーバ(以前はインスタンスと呼ばれていた)から選ばないといけないのが大きな違いになります。
これが、Twitterが「中央集権的」で、マストドンが「非中央集権的」だと言われる理由です。マストドンはTwitterのように外から見て一つのウェブサービスなのではなく、複数のサーバによって作られている集合体であることを初めて意識する瞬間です。
でも最初はそこまで深く考える必要はありません。まずは mstdn.jp や pawoo.net などといった、日本人が多くいるサーバを選んで登録をしてみましょう。もしあとでサーバを変えたくなった場合でも、フォロワーとの関係を失うことなく移行する手段が用意されています。
登録にはユーザー名とメールアドレス、パスワードが必要になります。マストドンサーバにはサーバそれぞれのルールがありますので、こちらも確認しておく必要があります。
ログインすると、マストドンはほとんどTwitterとおなじように利用できるので戸惑うことはないでしょう。つぶやきのことは「トゥート」と呼びますが、これはTwitterの「ツイート」が鳥のさえずりのことなのに対して、ラッパなどの楽器が発する鋭い音を指しています。
トゥートはTwitterの140文字制限よりも大幅に多い、500文字まで書くことができます。写真などの添付ファイルも追加可能ですし、アンケートも取れるところはTwitterとまったく同じです。@ をユーザー名につければリプライがつけられますし、RTに相当するブースト機能、いいねに相当するスター機能もそのままです。
投稿欄の部分にある地球儀のマークと、CWはマストドンならではの機能です。地球儀のアイコンをクリックすると、投稿するトゥートを後述する公開タイムラインに掲載するのか、フォロワーだけに見えるようにするのか、DMにするのかを選択することができます。
CWは ”Content Warning” のことで、見る人が不快に思うかもしれない画像や映画のネタバレといったものについて、警告文を読んだうえでクリックしないと閲覧できないようにする機能です。
マストドンはTwitterのように専属の従業員がコンテンツを常に監視しているプラットホームではありませんので、ユーザーはサーバのルールを重んじて、物議をかもしそうなコンテンツについては自分で閲覧できる人や手段を制御することがマナーとして求められます。それを守れない人は、すぐに他のユーザーからミュート、あるいはブロックされてしまうことでしょう。
つぶやきを通してみるならば、マストドンとTwitterに大きな違いはありません。身の回りにあること、考えたことを軽快につぶやいてみてください。
最後に一点だけ。プロフィールを編集するついでに「プロフィール補足情報」にTwitterのアカウントや、運営しているウェブサイトの情報を入れておくようにしましょう。サイトにタグを追加すれば、あなたのマストドンアカウントが他人のなりすましではないことを間接的に証明することにもつながりますので、おすすめです。
ユーザーをフォローをして、見える世界を広げていこう
Twitterもマストドンも、他のユーザーをフォローしなければタイムラインは流れません。マストドンはTwitterに比べればまだまだユーザー数は少ないですが、情報に強い、こだわりをもったユーザーが数多くいますので積極的に探してフォローしていきましょう。
マストドンは複数のサーバにユーザーが分かれていますので、アカウントの表示のしかたは「@ユーザーID@サーバ」の形式で書かれます。たとえば私は「@meh@mstdn.jp」というアカウントですが、これは「mstdn.jp」のサーバにいる「@meh」のユーザーを意味しています。
ユーザーが同じサーバにいるなら、フォローボタンを押せばすぐにフォローすることができますが、往々にしてTwitterではみかけない次のような表示に出会うことがあります。
これは、フォローしようとしているユーザーが同じサーバにいないので、そのサーバにアカウントがあるならログインしてフォローするか、それとも自分のサーバからフォローするかの選択をしてほしいという意味の表示です。ふつうは後者ですので、「別のサーバ」のしたにある URLをコピーして、自分のサーバが開いているタブに戻ってみましょう。
そしてコピーしたURLを検索窓に入力すれば、アカウントが表示されますのでここでフォローします。ちょっと面倒ですが、マストドンが複数のサーバに分かれていることが感じられる瞬間です。
マストドンの3つのタイムラインを知る
フォローしているひとのトゥートは「ホーム」で見ることができますが、始めたばかりのときはまだフォローしている人も少ないので表示が少なくて寂しいと思います。
そこで見に行きたいのが、ホーム以外に存在する2つのタイムライン、「ローカルタイムライン」と「連合タイムライン」です。
ローカルタイムラインは同じサーバにいるユーザーの公開されているトゥートが流れていく場所です。すべてのユーザーの公開トゥートが流れていきますので、まるで大きな広場にでたように、膨大なつぶやきのやりとりを一望することができます。
もう一つの連合タイムライン(Federated Timeline)は、いまログインしているサーバから見えている、他のサーバのトゥートも含んだタイムラインです。この「見えている」にはいくつかのルートがありますが、基本的には自分のログインしているサーバのユーザーがフォローしている世界中のユーザーのトゥートが、サーバをまたいで見えていると考えるといいでしょう。
連合タイムラインには「世界中のサーバのすべてのトゥート」が流れているわけではないところに注意してください。少し分かりづらいですが、マストドンが「連合型のシステム」であることを理解すると、この意味は明快になります。
https://docs.joinmastodon.org/ より抜粋
こちらはマストドンのドキュメントにある図ですが、一番左が「中央集権的」、つまりTwitterのようなサービスだと考えられます。一番右にあるのは “Distributed” つまり「分散型のシステム」で、複数のサーバ間で情報がすべて共有されているタイプのサービスです。BittorrentやIPFS、あるいはマストドンと同じようなTwitterクローンを生み出せるScuttlebotプロトコルはこれにあたります。
これに対してマストドンは真ん中の “Federated” 「連合型のシステム」です。サーバ同士がゆるやかにつながっていて、場所によっては孤島のように切り離されているところもあります。電子メールや、現実の郵便や小包配送はこれに似ているといいでしょう。営業所同士のつながりが手紙や荷物を配達するものの、会社が違ったり連携していない領域は途切れているのに相当しています。特定のサーバからネットワークの全体が見えているわけではないものの、届く範囲においてはシステムはうまく連携して成り立っているわけです。
分散型システムの場合はサーバ群によってサービスが抽象化されているといってもいいですが、連合型システムであるマストドンは逆に強くサーバ間のつながりが意識されるのが特徴です。これは利点であり、欠点であるともいえます。
たとえばマストドンは自分のサーバにいるユーザーがフォローしているユーザーのトゥートを中心に表示しますが、それは逆にいえば自分のサーバからみて無関係なサーバに存在するユーザーのトゥートまでは取りにいかないということでもあります。このように、すべてのサーバのすべてのトゥートを全体に波及させる必要がないからこそマストドンは簡単な仕組みでスケールできる一方、すべてのマストドンサーバを横断して検索するといったことはできません。
先程、他のサーバのユーザーをフォローしたいときにURLをコピーしなければいけなかったのも、あるサーバにとって別のサーバのユーザーの情報は自明ではないからです。
この連合という仕組みが壁になることもあります。たとえば mstdn.jp ではサーバを選択する際に読むルールの項目の下に、メディアを拒否しているサーバの欄があります。
マストドンのサーバはそれぞれ管理者やポリシーも違いますし、違う国にあると常識が違うこともあります。特定のサーバからポルノや暴力表現などがあとを絶たないといった場合には、管理者の判断でこれらのサーバからの添付ファイルは拒否する、あるいはそもそもそのサーバとの連合を拒否するといったケースも出てきます。
このことはサーバ間で情報が連携されないという欠点をもたらすこともありますが、特定のサービスの利用規約にしばられない、独自のルールのサーバを立てる自由があることも意味しています。
このように、マストドンを利用しているとサーバ間の連合を意識することがよくあるのです。
非中央集権な未来はやってくるか?
以上で見たとおり、Twitterとマストドンはつぶやきやユーザー同士のフォロー関係で考えるととても似ていますが、中央集権的か非中央集権かという設計レベルで考えるとまったく異なる存在であることが見えてきます。
ユーザーにしてみれば、いつでも検索を通して世界中のつぶやきをみることができるTwitterの中央集権的な利便性は捨てがたいでしょう。しかしTwitterの利用規約がアメリカの法律に根拠付けられていて、なにが違反の対象になるのか日本のユーザーからみると不透明で恣意的に見えること、そうした不透明さがイーロンの買収によって高まったことはデメリットでもあります。
一つの中央集権的なサービスが全世界の人々の情報を担うというモデルに限界が来ている可能性もありえます。まだまだ不完全だとはいえ、マストドンはそれに対する一つの回答を試みたものといえるのです。
Twitterの未来が不透明だからこそマストドンはいま注目されています。しかしもっと注目されるべきなのは、ルールも異なるコミュニティ同士がゆるやかな連合によって生み出す非中央集権的なサービスに、本当に未来があるのかという問いかけでしょう。
そうした未来を感じ取るためにも、マストドンを試してみる価値はあるのです。