先日、64GBくらいのUSBメモリーが必要になったため、適当に買おうとAmazonを見ていました。適当といっても、怪しい製品を買うつもりはありません。ちゃんと名の通ったメーカーで、USB3.2 Gen1に対応していて安いものを買おうと思っていたわけです。
そんな条件で探していて目に留まったのが、キオクシアの「TransMemory U301」という製品。この手の製品としては珍しい日本製で、しかも64GBで1280円(購入時)という、そこそこお安い価格です。
¥1,480
(価格・在庫状況は記事公開時点のものです)
これでいいかと注文する際、実はもう1つ気になる製品がありました。それが、キオクシアの「TransMemory U301」。なんだよ同じじゃねーか、と思われるかもしれませんが、そうです。同じなんです。ただしこちらは、中国からの並行輸入品。同じく日本製をうたっていながら価格は64GBで980円(購入時)と、日本版より300円も安いんですよね。
もしや偽造品なのでは!?……と一瞬身構えましたが、それなら、木を隠すなら森の中。足がつきやすいAmazonのマケプレなんて使わず、個人売買サイトを活用するほうがバレにくいでしょう。
また、ただでさえ安めのUSBメモリーを偽造しても、うまみはほとんどないでしょう。よく狙われるのは、高額な512GBや1TBのmicroSDXCカード。試しに個人売買サイトで検索してみてください。購入してしまった被害者が大勢いますし、しかも、ほぼバレてません。転売もそうですが、こういった偽造品も厳しく取り締まるべきだと思うんですけどね……。
ちょっと脱線してしまったので、話を本題に戻します。
300円安くても、うたい文句を信じるならば同じ日本製。単純に考えれば、中国に行って帰ってきたぶん輸送費がかかっているはずで、なぜ安くなるのか不思議です。もしかすると、同じ製品名でも中身が全く違う可能性も考えられます。
気になってしまったので確かめてみるしかありません。ということで、国内正規品(日本版)と並行輸入品(中国版)、両方買って比べてみることにしました。
パッケージや外見の違いを見比べる
まずはパッケージの違いから見ていきましょう。表面を比べてみると、日本版はよくわからない四角い模様、中国版はノートPCが背景に使われているのが大きな違いです。
中国版は、見慣れない中国語のパッケージなので、少々違和感があります。といっても、書かれている内容は日本版とほぼ同じ。「隼闪」は製品のシリーズ名ですし、「闪存盘」はフラッシュメモリードライブのこと。「铠侠」は、キオクシアの中国語表記です。
日本語のパッケージって、海外の人からはこんなイメージで見られてるんだろうなー、みたいな点に気づけたのが、ちょっとした発見でした。
続いて裏面を見てみましょう。
裏面に書かれている要素はどちらもほぼ同じですが、いくつか異なる点もあります。
まず気になったのは、右上にある保証期間。日本版では1年となっていますが、中国版ではなんと5年と長くなっています。同じ製品なのに、国が異なるだけで保証期間がこんなにも違うというのは、少々考えさせられてしまいますね。
なお、並行輸入品には保証がないので、日本国内においては5年どころか0年です。
キオクシアの公式サイトでも、
海外仕様の当社製品が並行輸入され販売されている例が見受けられますので十分ご注意ください。
並行輸入製品については、当社の保証対象外となります。また、購入時のトラブルにつきましても当社は対応いたしません。購入された販売店にご相談ください。
と明記されていますので、注意しましょう。
続いて気になったのは、対応OSの項目です。日本版ではWindows 10/macOS 11まで記載されており、中国版のWindows 10/macOS 10.15まで。比べれば日本版のほうが多少マシですが、どちらも現行製品としては少々不安があります。もちろん、Webで確認すればちゃんとWindows 11もmacOS 12も入っているのですが……。コピーライトの年表記は更新されてますし、どうせ更新するなら対応OSも更新しておけよ、というのが素直な感想です。
製造国に関してですが、どちらも「Made in Japan」の表記があり、パッケージまで日本で作られているようです。Amazonに書かれていた日本製というのは、どちらも正しそうですね。細かい製造表記ルールを把握していないので、もしかするとパッケージのみ日本製、みたいなものかもしれませんが。
ここまでは両方に共通する項目ですが、中国版にしかない項目もあります。それが、真贋判定用のQRコード。このあたりから、キオクシアが偽造品を警戒している、というのが何となく伝わってきます。
実際に試してみると、日本からでも真贋判定ができました。
外の紙のパッケージを破ると、中からプラスティックのパッケージが出てきます。これも見比べてみたのですが、リサイクルマークまでほぼ同じ。封をしている薄いビニールの溶着具合に差があるとはいえ、明確な違いと言えるものは見つかりませんでした。
同じ型番の製品で、同じ日本製。となれば、USBメモリー本体だって違いはないだろうと予想できます。でも、ちゃんと見比べてみます。
上が日本版で、下が中国版。予想通り、違いはわかりません。製造ナンバーがなければ、早々に取り違えていた可能性が高いです。
ここまで、主にパッケージとUSBメモリー本体の外見を見比べてみました。今のところわかったことは、
保証期間と真贋判定の手段が提供されている点が異なる
どちらも日本製で、本体は全く同じに見える
というところでしょうか。
外見が同じでも、性能まで同じとは限らない?
続いて、性能面での違いがないかを比べてみましょう。違いがわかれば十分なため、ベンチマークソフトの「CrystalDiskMark」(Ver. 8.0.0.4c)を使って簡単なテストを試してみます。なお、ここから条件を変えて複数回テストを行いますが、すべて左が日本版、右が中国版の結果となります。
まずはデフォルト設定となる、テストデータのサイズを1GiBとした場合の結果です。
リード性能は、どちらもほぼ同じ。特にシーケンシャルリードは130MB/sほど出ており、USB2.0の上限である60MB/sを余裕で超えている点から、USB3.2 Gen1らしい性能と言えるでしょう。
これに対し、大きな差が出たのはシーケンシャルライトです。速度の違いは1.3~1.7倍ほどあり、明らかに日本版の方が高速です。こうなると、見た目は同じでも中身が違う説の可能性が高まってきます。なお、ランダムライトはどちらも💩なので、横に置いておきます。
とはいえ、さすがにこのクラスのUSBメモリーに1GiBのテストデータサイズは、大き過ぎた可能性があります。ということで、データサイズを128MiBまで落として、再度試してみましょう。
中国版の速度は1GiBの場合とほぼ変わっていませんが、日本版ではシーケンシャルライトの速度が明らかに向上しています。なぜデータサイズが変わるとライト速度が変化するかといえば、これはUSBメモリーに搭載されているコントローラーの性能が大きく影響するからです。
データがコントローラーの持つバッファーメモリー容量よりも小さい場合、1つのデータを1回で受信しきれるため、速度への影響はありません。問題は、データがバッファーメモリー容量よりも大きい場合です。この場合、データの再送を何度も繰り返す、もしくは、何度も中断されることになるため効率が落ち、速度が低下していきます。
データサイズが小さくなっていけば再送や中断回数が減って効率が良くなり、速度は向上していくと考えられます。つまり、日本版の挙動はある意味期待通りなわけです。中国版の速度がほぼ変わってないのは予想外ですが、128MiBでもまだデータが大きすぎるということなのでしょう。たぶん。
ということで、さらにテストデータを小さくするとどうなるのか興味が出てきたので、64MiB、32MiB、16MiBでも試してみました。
64MiBでは期待通りシーケンシャルライト速度が向上していますが、それ以上の大きな変化となるのが、ランダムライト速度が大きく向上していること。これもコントローラーの性能によるものと考えられますが、それ以上に、NANDフラッシュメモリーの特性に寄るところが大きそうです。
NANDフラッシュメモリーは基本的に、特定のデータ長を持つページ単位でしか読み書きできません。また、ページ単位での消去ができず、複数のページをまとめたブロック単位での消去しかできないという特性を持っています。
例えば、あるデータを書き換える場合を考えてみましょう、NANDフラッシュメモリーは特定のデータだけを書き換えることができないため、まずはそのデータを含むブロックをページ単位ですべて読み出します。続いて、コントローラーのメモリー上で書き換えたいデータを変更。その後、ブロック全体を消去し、最後にページ単位でコントローラーのメモリーに読み出したデータをすべてNANDフラッシュメモリーへと書き込めば完了となります。
シーケンシャルでは連続したデータの書き換えをまとめて行えるため、まだ効率よく処理できます。これに対してランダムはデータが連続しないため、アドレスが変わるたびに何度も書き換え作業が行われることになります。1bitしか書き換えないとしてもブロック単位での消去と書き込みが必要で、むちゃくちゃ効率が悪いわけです。特にテストデータが大きいと散らばりやすくなるため、効率はさらに悪化します。
それが、テストデータが64MiBまで小さくなることで、多少なりとも効率が改善されたと考えられます。
ちなみに、高価なUSBメモリーであればコントローラーの処理性能が高く、さらにバッファー容量や内部メモリー容量も大きくなるため、同じNANDフラッシュメモリーを使っていてもより高速となります。
テストデータのサイズをさらに小さい32MiBにすると、日本版ではシーケンシャルリード速度が落ち、ライト速度が引き続き上昇してきました。リードはライトのような複雑な処理がいらず、素直にページ単位で読み出せるため、テストデータが大きいほど効率がよく速くなります。逆に小さくなるとデータ効率が少しずつ下がっていくため、速度も落ちていくわけです。
面白いのは、中国版ではシーケンシャル速度がほとんど変わっていないこと。ライト性能も大きな変化がありませんし、なんだか不思議です。
16MiBまで小さくすると、日本版のシーケンシャルリード速度はさらに落ち、ライト速度が上昇。そして中国版でもシーケンシャルリード速度が下がるようになりました。謎なのは、ライト速度まで落ちていることです。
性能面でわかったことをまとめると、
日本版はテストデータを小さくするほどシーケンシャルライト性能が向上
どちらも64MiB以下では、ランダムライトが改善する
中国版は16MiBで、シーケンシャルライト性能が低下する
といったところ。傾向が全く異なる……というか、テストデータサイズを変えた場合、日本版は予想通りの性能変化をしているのに対し、中国版はおかしな挙動をしているといったほうが正しそうです。つまり、中身が別物説が濃厚、ということです。
それならば、直接確認してやりましょう。そうです、分解です。
中身が違うと思って分解したけど……
ケースは接着されているとはいえ、そこまでがっちり固定されているわけではないので、分解するのは簡単。時計のこじあけを後ろ側から突っ込み、下側から開いていくと分解できました。
分解してみると、中身はどちらも同じ。違いがないように思えますが、細かく…細かーく見比べてみると、ほんのちょっとだけ違いがあることがわかりました。
ケースに製品名の刻印があった方を表面、製造ナンバーがあった方を裏面として、比較していきましょう。なお、写真はどちらも上が日本版、下が中国版です。
完全に間違い探し状態になっていますが、わかりやすい違いは、日本版ではNANDフラッシュメモリーのチップの刻印が「JAPAN」で「TC58LJG8T24TA09」となっているのに対し、中国版では「TAIWAN」で「TC58TFG8T23TA09」となっていること。
このNANDフラッシュメモリーの違いが知りたく、キオクシアにデータシートをもらえないか問い合わせたのですが、一般向け製品ではないことからもらうことはできませんでした。また、製品の違いについても返答できないとのこと。仕方ないので、型番から読み取れそうなことだけ読み取ってみます。
別のNANDフラッシュメモリーの型番を参考に、いくつか見比べてみたところ、この型番は「TC58 LJ G8 T24 T A0 9」といった感じに分割できるようです。それぞれの意味を調べてみると、
「TC58」 キオクシア(東芝)のフラッシュメモリー関連
「LJ」 不明(ロット、リビジョン、電圧といった情報で変化?)
「G8」 容量(G8は256Gbit)
「T24」 不明(ビット/セル構造、アレイ構造、ブロックサイズなどで変化?)
「T」 パッケージ(TはTSOP、BはBGA)
「A0」 温度特性
「9」 不明(ピン数違いなどのバリエーション?)
ではないか、という予想がつきました。
日本版と中国版で異なるのは2つ目と4つ目ですから、NANDフラッシュメモリー内部のアレイ構造、ブロックサイズなどが異なる可能性があります。もしそうであれば、性能に差があった理由になるかもしれません。
基板に違いはないかと見ていくと、どちらも「T025B」となっており、違いはなさそう。ただし、NANDフラッシュメモリーの左下と右下にある小さなコンデンサーっぽいパーツが、日本版では省略されていました。さすがにこっちは、性能への影響はないでしょうけど。
続いて裏面です。
こちらの面にもNANDフラッシュメモリーが載っており、それぞれ表面と同じ型番になっていました。面白いのが、コントローラーです。日本版では「KIOXIA」となっているのに対し、中国版では「TOSHIBA」の刻印。型番はどちらも「TC58NC2311G6F」ですし、製造国も「TAIWAN」となっているので、単純に製造時期の違いで刻印が変わっただけのようです。さすがに同じ型番で仕様が変わるということはないでしょう。
コントローラーの刻印がちょっと見づらいので、別途写真を貼っておきます。
ちなみに、このコントローラーのデータシートももらえませんでした。
それ以外のパーツでは、コントローラーの下、中国版では2つあるコンデンサーっぽいパーツが、日本版では1つに減らされているといった違いくらいですね。
ということで、中身を見てわかったことは、
日本版と中国版とで基本的なパーツ構成に違いはない
NANDフラッシュメモリーの内部構成に違いがあるかも?
といったところでしょうか。
せっかく分解したので、コントローラーにヒートシンクを付けて速度を測ってみました。もしかすると、中国版は熱のせいで速度が遅くなってる可能性があるのでは、と考えたからです。
結論を言うと、日本版も中国版も全く変化なし。確かにヒートシンクはそこそこ熱くなっていましたが、発熱量は速度に影響するほどではないようです。
日本版と中国版の違いは製造時期によるもの?
外見のチェックと簡単なテスト、そして分解して中身を比較した結果をまとめると、日本版と中国版でハードウェア的な違いはほとんどないものの、性能は日本版の方が上、となりました。
どうして性能差が出るのかというのはわからないものの、いくつか思いつくことはあります。
そのひとつが、NANDフラッシュメモリーのチップが異なること。例えばブロックサイズが違えば最適化方法が変わるため、同じコントローラーで同じファームウェアを使っていても性能差が出る可能性が高くなります。特に中国版は、テストデータサイズに対してシーケンシャルライト性能がおかしいだけに、最適化に失敗してる可能性が高そうです。
正確な製造時期はわかりませんが、パッケージのコピーライトを見る限り日本版は2021年以降、中国版は2020年以降。また、コントローラーのメーカー刻印も日本版がKIOXIAだったのに対し、中国版はTOSHIBAのままですから、日本版の方が新しいのは間違いないです。
この製造時期の違いでファームウェアが変更され、より最適化が進んだ結果、日本版では高速アクセスが可能になった……と考えるのが自然ではないでしょうか。つまり、性能差は日本版と中国版の違いというより、単なる製造時期の違いという考えです。
もちろん、中国版では不良ブロックの多いNANDフラッシュメモリーを使って低価格化している可能性もありますが、これを特定海外向けだけにやるのもおかしな話。そもそも低価格なUSBメモリーなんですから、やるなら国内外問わず全製品を対象にするハズです。
ということで、結論。想像も含めてしまいますが、基本的に日本の正規販売品も中国の並行輸入品も同じもので、より新しいものが出回りやすい日本版の方が性能面で有利になるかも……といった感じでしょうか。
今回手に入れた並行輸入品は正規品でしたが、場合によっては偽造品が紛れ込む可能性もあります。保証や安全性を考慮するなら、素直に国内正規品を購入するのがよさそうです。
¥1,480
(価格・在庫状況は記事公開時点のものです)