1年ほど前に、興味本位で購入した激安スポット溶接機(Docreate)を紹介しました。
電池へのタブ付けならそこまで難しくなかったのですが、これ以外の用途、針金とか金属薄板とかを溶接しようとすると、どうしてもうまく溶接できません。
試行錯誤の末、ようやくインサートナットをニッケルメッキのタブにくっつけられたのですが、これより厚みのある金属薄板はうまくつかず、結局、工作用途を探るというネタはお蔵入りになりました。
本来の用途以外で使おうというのがそもそも間違いだ、と言われれば、まあ、その通りなんですけど。……でも、やりたいですよね。
都合よく、FNIRSIさんがスポット溶接機「SWM-10」を提供してくれたので、電池タブ以外の溶接ができるのか、はたまた、前回同様難しいのか、試してみたいと思います。
¥8,599
(価格・在庫状況は記事公開時点のものです)
基本は同じでも、細かい部分が結構違う
とはいえ、過度な期待は禁物。まずはどのくらい仕様が違うのかを確認してみたのですが……あれ?これって中身一緒?っていうレベルで同じでした。ザックリ特徴を書き出してみると、こんな感じ。
0.25mmまでのスポット溶接
予熱→インターバル→主パルスという溶接手順
パラメーターは手動変更(簡易設定なし)
自動の連続溶接回数は5回まで
5V/2.1AのType-C充電
Type-Aで5V/2.1Aのモバイルバッテリー動作
押し当ててから溶接までの遅延を変更可能
溶接時の瞬間電流が表示可能
とくに、スポット溶接の手順やパラメーターの数値、設定範囲といった、基本性能部分が同じ。このあたりで、「やっぱ工作に使うのは難しそうかな……」という嫌な予感がしてきますが、ひとまず気にしないことにしましょう。
細かな部分を見ていくと、結構違いがあります。まずはSWM-10のいいところから。
PD対応充電器からでも充電できる!
手持ちのDocreateでは、PD対応のType-C充電器だと充電できなかったんですよね。地味ですが、結構大きな差です。あと、DocreateだとType-Aが光って眩しかったんですが、それがないのも地味にうれしいところ。
溶接ペンの先を交換可能!
交換可能というだけでなく、予備のペン先が1セット付属しているのもうれしいところ。ただし、追加入手の手段は不明。AliExpressでも見当たらないんで、自分で作るしかないかも。
テスト用と思われる0.1mmニッケルタブが大量!
幅10mmのニッケルメッキタブが付属していました。巻いてあるので総長は調べていませんが、お試しというには結構な長さ。テスト用だとは思いますが、思う存分気兼ねなく使えるのはうれしいですね。
内蔵のスタンドがある!
スタンドを開くと本体を立てられるので、画面を見ながらの溶接が大変やりやすいです。手持ちのDocreateでは寝かして使うしかなかったので(立てると倒れる)、かなり便利に感じました。
あと、操作ボタンが多いので、パラメーターを変更がしやすいというのもありますね。
続いて、SWM-10のほうが見劣りする部分です。
溶接ペンのケーブルが短い
日本語表示がない
パラメーターの目安が不明(マニュアルに記載なし)
言語変更などの設定ページについて説明がない
この中で、強いて残念な部分をあげるとすれば、ケーブルが10cmくらい短いことでしょうか。とはいえ、溶接に不便って程ではないので、そこまで問題ではないでしょう。
日本語表示がないのは見た目だけなので、実質問題なし。それより、各パラメーターの説明はあるものの、「0.1mmタブならこの設定」みたいな目安がないのが不親切に感じました。Docreateのマニュアルを参考にすればいいですが、普通、スポット溶接機を複数持ってたりしませんしね……。
あと、言語変更などを行う設定ページの表示方法は書いてあるものの、長押しするっていう一言だけ。設定ページそのものは紹介されておらず、ここも不親切に感じました。まあ、それでも項目名を見ればわかるので、困ることはないです。
実際に試してみたら……なんか強い?
それでは、溶接してみましょう。まずは基本として、電池のタブ付けから。使い古しのボタン電池(CR2032)にタブを付けてみました。
試してみたのはDocreateで一応溶接できた(強く引っ張ると剥がれることもある)、予熱5ms→インターバル5ms→主パルス10msというパラメーターです。
ということで、試したのがコチラ。タブに折れがあるのは、引っ張って剥がれないか確認した形跡です。
どちらもタブが溶接できていますが、左のSWM-10の方が、右のDocreateよりも円形の加熱跡が大きく出ています。また、タブのくっつき方も強力。Docreateは4つ中1つ剥がれましたが、SWM-10は4つとも剥がれる気配すらありませんでした。
もしかして、SWM-10の方が出力電流が高いのでしょうか。確認のため、溶接時の瞬間電流を画面でチェックしてみたのですが、DocreateもSWM-10も700A台前半と変わりませんでした。
他に差があるとすれば……溶接ペンですかね。残念ながら根元の径が違うため、差し替えテストはできませんでしたが、可能性としてはゼロではないでしょう。純粋に、Docreateが表示ほど出力がない、もしくは、SWM-10が表示以上に出力があるだけかもしれませんが。
どこまで主パルスを短くして溶接できるか試してみましたが、2msまで落としても、SWM-10ではタブがつきました。え、なにこれすごい。
調子に乗って金属薄板でテスト
こんなに簡単にタブが付くなら、工作用途でも使えるんじゃないか……そう期待するのも仕方がないですよね。
ということで、調子に乗って金属薄板を探してきました。まず手に入ったのは、ステンレスの0.15mm厚。これを適当に切って短冊にし、L字になるよう置いて溶接を試してみます。
土台にしたのは真鍮の塊(円柱のカット品)で、直径40mm、高さ10mm。この上に対象を載せ、上から溶接ペンを押し当てました。
パラメーターは、2ms→2ms→5ms。右の加熱跡が大き目なのがSWM-10で、ガッチリ溶接できています。これに対して左のDocreateは、すぐに剥がれてしまいました。電池のタブだけでなく、0.15mmのステンレス薄板でも同じような結果になりました。
ちなみに、Docreateはどのくらい主パルスを長くすれば溶接できるか試したのですが……最大の30msにしてもまともにつかず、簡単に剥がれちゃいました。SWM-10、強いです。
ここからはSWM-10のみ試していきます。
さらに厚みのあるステンレス板ならどうだろうと、1mmのステンレスプレートに0.3mmのステンレス薄板(機器分解用のツール)の溶接でチャレンジ。
さすがにこれは無理だろうと思ってたのですが、主パルスを最大の30msにまで上げれば、何とか溶接できることが判明。たまに剥がれてしまうこともあるので完璧ではないですが、複数回&複数ヶ所溶接することで、ギリギリ溶接できました。
仕様に最大0.25mmとありましたし、能力的にはここが限界なんだろうなというのが見えますね。
この成功に気をよくして、次はアルミの薄板を……と思うも、手元には一番薄いもので0.4mmしかなかったのでこれでチャレンジです。
結果は惨敗。というか、そもそもショートが検知されてしまい、まともに動作していません。設定でショート検知はオフにもできますが、怖いのでやめておきます。
材料ボックスをあさっていたら、0.25mmのブリキ板が出てきましたが、こちらは最大の30msでも溶接できませんでした。スチールやステンレスあたりが溶接に向いているようです。
1mm前後の針金を用意してテスト
薄板以外だとどうなるのかが気になり、いろいろな素材の針金を用意してみました。あまり太いと溶接できなそうですし、細くても使い道が難しいので、1mm前後で入手できたものを使います。
SWM-10のパラメーターは、予熱5ms→インターバル5msまでは共通で、主パルスを5msから30msまで、5刻みで変動させて試しました。
まず最初は、0.9mmのピアノ線。5msでもソコソコついてくれますが、指でつまんで揺するとすぐに剥がれてしまいます。また熱に弱いのか、主パルスを長くすると、軽く曲げるだけで溶接した部分から折れてしまうことも。
あまり溶接に向いていない素材のようです。
続いて、1.6mmのスチール針金。一般的な針金ですね。以前、クリップでそれなりに溶接に成功していたので、ちょっと太めですが結構期待していました。
主パルスが短いとダメですが、15msあたりから一応溶接できるように。ただし、ピアノ線と同じで軽く動かすと剥がれてしまい、強度は期待できません。主パルスをさらに長くすると強度は多少上がりますが、剥がれてしまうというのは変わりません。
これは1.6mmと太めだったのも敗因だと思ってます。
難しいだろうなと思いつつ、次にチャレンジしたのは1mmのアルミ針金。表面がコートしてあったので、紙やすりで削り取ってからのテストです。
20msまで試しましたが、溶接できたように見えても軽く触れるだけで剥がれてしまうため、溶接はできないと考えた方がよさそう。20msでやめたのは、火花が派手に出ていたので、怖くなってきたからです。アルミ薄板ではショート検知されてましたしね。
導電性が高い銅針金があったので、こちらも試してみました。太さは0.9mm。ショート検知はされなかったものの、20msまで試しても全く溶接できる気配がありません。加熱されたかのような色変化はありますが、それだけでした。
最後はステンレス針金。薄板での成功があるので、最も期待していたものです。ちょっと太めの1.2mm。
5msは無理でしたが、10msや15msあたりで溶接できます。指で揺らしていると最終的には剥がれてしまいますが、スチールよりも強度が感じられ、これなら工作で使えるかも、というレベルです。
ちなみに、20msで試したときに針金が溶接した位置から折れ、破片がどこかへ飛んで行きました。作業は長袖着用で、保護メガネを忘れずにつけましょう。
SWM-10なら工作用途での利用も視野に入る!
どんなものでも溶接できるような強さはないものの、0.25mm以下のステンレス薄板であれば、実用的な溶接が可能だというのが判明したのは収穫。
片方が薄板であれば、もう片方が1mmと厚手のプレートであっても溶接できるので、使い方の幅は広そうです。
一度は諦めていた工作用途での活用ですが、SWM-10であれば結構楽しめそうですね。ただし、今回試した感じだと、ステンレス薄板に限りますけど。