今日(12月14日)の朝方、iPhoneとiPadがカラオケになりました。iOSとiPadのOSがバージョン16.2となり、「Apple Music Sing」機能が使えるようになったのです。
iOS / iPadOS 16.2ではこのほかにグループウェアの「フリーボード」も導入されていたり、「ステージマネージャ」の改善が行われたりもしているのですが、それはひとまず置いておいて、筆者待望の「Apple Music Sing」を試してみました。
当初のAppleからの発表がふわっとしたものだったので、あれもできるかも、これもできたらいいな、という妄想が膨らんでいましたが、実際に使ってみることでわかった限界、制限があります。その辺をこの記事では記していこうと思います。
それでもこのカラオケ機能が素晴らしいのは間違いないことで、筆者は喜びを隠せない状態です。事実、夜が明ける前から5時間くらい歌い続けてしまっており、仕事がいっこうに進みません。
iOS / iPadOS 16.2にしたらボーカルキャンセルができるというわけではない
さて、筆者のメインマシンであるiPhone 14 ProをiOS 16.2にアップデートし、続いて初代10.5インチiPad Pro(イヤフォン端子があるのでいまだに使っている)を同じく16.2にアップデートしました。さらに、iPhone XS Max、iPhone 13 mini、iPad Pro 12.9インチ(先代)を最新版に更新。
しかし、この中にはボーカルキャンセルのためのマイク表示が見当たらないものがあります。音節単位での歌詞表示はできるものの、ボーカルレベルの調整ができないのです。
iOS / iPadOSのアップデート概要を見ると、「一部の機能は、地域やAppleデバイスによっては使用できません」とあります。これがそういうことなのでしょう。
ではボーカルキャンセルが使える対応機種は、Apple Musicの中のApple Music Singの紹介に書かれていました。
iPhone:iPhone 11以降およびiPhone SE(第3世代以降)
iPad:11インチiPad Pro(第3世代以降)、iPad Air(第4世代以降)、iPad mini(第6世代)、iPad(第9世代以降)
Apple TV:Apple TV 4K(第3世代)
12.9インチiPad Proについては記載がありませんが、筆者が所有する第5世代はボーカルキャンセルが使えました。
▲12.9インチiPad Pro(第5世代)では使えた
搭載されているSoCでいうと、M2、M1、A15 Bionic、A14 Bionic、A13 Bionic。ボーカルキャンセルが使えるのはA13 Bionic以上ということで、Apple TV 4Kの前世代はA12 Bionicだから足切りされているわけです。
▲iPhone XS Maxでは音節単位での歌詞表示はできるが、ボーカルキャンセルはできない
Spotifyのカラオケ機能はA10X Fusion搭載の10.5インチiPad Proでもボーカルが消えるので、足切りはしていないか、していても基準が低いものと思われます。
なお、現時点ではApple Music SingはMacでは利用できません。M1 / M2であっても対応していないのですが、音だけなら出すことができます。iPhone / iPadのミュージックアプリからAirPlayの出力先をMacにするのです。外部マイクを使ってMacでリバーブやAuto-Tuneをかけながら熱唱するのも良いでしょう。
▲iPhoneのApple Music Singから音声出力をMacにAirPlayする
ボーカルはどの程度消えるのか
Spotifyと同じ曲のボーカルキャンセルを試してみたのですが、さすが後出しジャンケンだけあってApple Music Singの方がよく消えています。スライダーを一番下にすると、ほとんど聞き取れないレベルまでボーカルが下がります。
Spotifyだと、オリジナルの3~4割くらいの音量でしょうか。Appleと比べたら「ぜんぜん消えてないじゃない、これ」となりそうです。邪魔にはならないレベルではありますが、Apple Music Singと比較するとちょっときびしいです。
音節で追随する歌詞表示は便利だが全曲が対応しているわけではない
Apple Musicでは、音節追随型歌詞表示がされていればボーカルキャンセルができる、というわけではありません。ボーカルキャンセルができるのに、歌詞表示は1行単位という楽曲が存在するのです。いずれ解消されるのでしょうか。
▲ボーカルキャンセルのスライダーは表示されているが、歌詞のリアルタイム表示は1行単位
音節単位でボーカルメロディーについていく表示はとても歌いやすく、複雑な曲であればあるほど役立ちます。早口でしかも自在にテンポを変えながら歌うシンガーの真似をしようとするなら、Apple Music Singの新しい歌詞表示は役に立つはずです。しかし、そういうのに限って音節追随方式になっていないように思えるのが残念なところ(ロバート・プラントとかフレディー・マーキュリーとか)。
この部分の入力は手作業になると思うので、アップル(またはパブリッシャー)がんばれ、という気持ちです。
ところで、長いイントロや間奏のところではいる「・・・」表示が意外と便利です。3段階でインスト部分の再生位置を知らせてくれます。昔の曲はギターソロとか長いのあったんですよね……。
「リードボーカルだけ消す」はできない
男女のデュエット曲であれば、男声のみを消して自分が歌い、女声パートとデュエットする、バックコーラスはそのままに、リードボーカルだけを自分が置き換える、というようなことができるのではと、プレスリリースでのアップルの書き方から想像していたのですが、そんな魔法のようなことはできないことがわかりました。
例えば、「エンドレス・ラブ」のライオネル・リッチーになりきって、ダイアナ・ロスと歌うといった高度なことはできません。
▲右寄せされた歌詞はダイアナ・ロスのパートだが、ボーカルキャセルするとライオネル・リッチーもダイアナ・ロスもともに消える
リードボーカルとバッキングコーラスも区別せずに一緒に消えます。例えば荒井由実「あの日にかえりたい」冒頭の「ダーダバダ……」を歌っている山本潤子のスキャットも消えてしまうので、ちょっと雰囲気が出ないですよね。その場合にはボーカル音量のスライダーをリアルタイムで操作する必要が生まれます。
▲リードボーカルが入る前のスキャット部分も一緒に消えてしまう
ただ、この処理はけっこう重いようで、iPhone 14 Proでもちょっとラグが生じます。M2 iPad Proならもっと軽く音量操作が可能なのかもしれません。
これは仕事にならない
アップルはとんでもないものを作り出してしまいましたね。今日はほとんど仕事になりませんでした。全世界の生産性をかなり落としてしまったのではないでしょうか。
ただ、対応していない楽曲がまだまだ多くあります。例えばロックの名曲「ボヘミアン・ラプソディ」も「ホテル・カリフォルニア」もボーカルキャンセルには非対応。この辺も本物の演奏をバックに歌いたいですよね。徐々に対応が進んでいくのを期待します。
学生時代にはカラオケにないようなロックのカバーをやっていて、今夜はそのバンド仲間とリモート飲み会をすることになっています。この話をしたら驚くだろうなあ。このApple Music Singはリアルなパーティなどで使うことを想定しているようですが、リモートでも一緒に楽しめるような場ができるといいですね。
▲Shure SM58に防音カバーを装着してApple Music Singを熱唱する筆者