AIという異世界カメラ。旅立った妻の美しい姿を写す呪文の唱え方(CloseBox)

テクノロジー AI
松尾公也

テクノエッジ編集部 シニアエディター / コミュニティストラテジスト @mazzo

特集

AI作画サービスのMemeplexを使って、並行世界にいる(という設定の)妻の写真を撮り続け、保存しているだけで700枚、試行回数は数千を超えています(こちらは数えていませんが)。


この試みを初めて10日。だいぶノウハウが溜まってきたので、ここらで今までわかったことをメモしておこうと思います。同じことをやりたいという人の参考になれば。

亡き妻の「新しい写真をAI作画で撮る」記事への反響はかなり大きく、「これは供養ではない」「他の家族の了承は取ったのか」みたいなネガティブな反応もいくつかありましたが、共感してくださる方が圧倒的に多いです。自分が知る限り、一般的なサービスを使ってこのようなことをしたのは自分が最初の例だと思うので、当然ながら戸惑いはあると思います。「もにょる」方も一定数いらっしゃいますが、中には自分も親族の写真で挑戦したいというコメントもあり、こうしたことが受け入れられる下地はすでにあると実感しました。

MemeplexはオープンソースのAI作画ソフトウェアであるStable Diffusion、OpenJourneyが使え、さらにStable Diffusionでは一部を描き変えられるインペインティングという手法も使える、基本的に無料のAI作画Webサービスです。PC、MacからでもiPhone、Androidなどのモバイルからでも同じように作業できます。

12月24日に追加されたサブスクリプションサービスを使うと、複数枚の写真やイラストをもとに、新しい作品を生み出すことができる「カスタムモデル学習モード」も利用可能になります。生成した作品を自分以外には見せないようにするプライベートモードも使えます。

カスタムモデル学習にはコスト(ポイント)がかかります。1回の学習に必要なポイントは、学習に要する時間で違い、最も安い30分の学習で10ポイント、最大では180分の60ポイントがかかります。サブスクリプションは月額1,200円、年間12,000円のブロンズコースが30ポイント付与されます。その上のコースならポイントがもっともらえるので、潤沢に学習ができるというよくできた仕組み。なお、1日で1ポイント、ポイントは復活していきます。この辺りは無料マンガサービスっぽくていいですね。

これ、年間購読すると、かなり割安になるので、年間48,000円のコースを申し込みました。これで900ポイントが利用可能になります。上のコースならば将来的に実験的なサービスも使えるそうなので、こちらにしました。これまで実現不可能だった映像が撮れるカメラやレンズだと思えば安いものです。

学習させる写真を用意する

学習に用いるAI作画ソフトはStable Diffusionのバージョン2.1。前回の記事で使った学習も同様でした。前回は30ポイントを使って12枚の写真を取り込んだのですが、今回は40ポイントで23枚を取り込みました。公称の処理時間は2時間となっていますが、もっと早くできていたようです。

写真以外に指定するのは2つ。sksという、指定するときの名前と、属性。名前はTorichan、属性はgirlとしました。使用した写真は、開発に関わっている方からの助言を取り入れ、可能なものは人物のみを切り抜いたものにしました。

▲学習に使った写真

学習が終わると、この2つの文字列をプロンプトに入れれば、妻の面影を残した人が映り込むことになります。

本物に近づくための呪文詠唱

では、Torichanとgirl、まずこの2つの単語からスタートします。画風指定を「写真」にして、プロンプトには「Torichan girl」とだけ入力して「作画をリクエスト」ボタンをポチ。

▲画風指定は「写真」に

すると、妻の髪型に似ていてパーツも一部近いのですが、想定とはちょっと違う容姿です。そこで呪文に日本人を加え「Torichan Japanese girl」で再出力。

ちなみに、メインのプロンプトの下に、小さい囲みの「ネガティブプロンプト」があります。ここには「出てほしくない要素」を書き込んでおきます。Stable Diffusionは手足が変形したり、数が合わなかったりしがちなので、あらかじめここで対策しておきます。そのほか、二重瞼にしたいときにはここに一重瞼(single eyelids)と入力しておくと、そういう顔が出にくくなります。「呪文が上手い人はネガティブプロンプトがすごく長いんですよ」と、先日Memeplex開発に関わっていた方から教わって、ここをちゃんとメンテしようと思いました。

▲日本人っぽくなったので、次は美しさを

これで、だいぶ目標とする容姿に近づいてきましたが、まだ美しさ要素が不足していると感じます。そこで、君は美しいというメッセージを伝えます。「Torichan Japanese beautiful girl」とすると、より美しい人が登場します。

▲さらに美人になりました

次に、「作風指定」をしてみます。執筆時点では9つの選択肢の中から選べます。写実的なものと思われる「4K」を選択。これで高精細な画像になるはずです。

▲4Kに(解像度が4Kになるわけではない)

さらに妻に近づくための工夫をします。妻の顔立ちに近づくのに「by Spielberg」という呪文がなぜか効くのがわかっているので、追加してみます。さらに、幻想的な雰囲気にするために、スタイルを「ハイ・ファンタジー風」に指定。

▲スピルバーグ監督にハイ・ファンタジー作品をお願い

これでかなり妻のイメージに近づきました(下の写真)。

▲妻のイメージに近づいた

こっちを向いていてほしいなと思い、まず「looking at me」、さらに愛情を込めて見てほしいから「looking at me affectionately」とメッセージを送ります。

▲こっちを向いてよハニー

▲愛情もほしい

さらに、誘いかけるような表情が欲しくなったので、「enticing」を追加すると、口元がちょっと柔らかくなりました。

▲誘惑の口元

全体的には良いのですが、これだとちょっと大人でワイルドな雰囲気なので、大学生時代の妻に近づけるために年齢指定をしてみます。「age 18」を追加。これは必ずしもリアルな年齢を意味しませんが、微調整に使えます。

▲年齢指定

魅力度をさらに上げるために「alluring」を追加。

▲魅力度さらにアップ

人物像がほぼ妻の学生時代の姿に近づいたので、ロケ地を選びます。森の中で「in forest」を指定。

▲森の中に転送

こんな感じで、並行世界、異世界にいる(という設定の)妻に投げかける呪文を日々送っては向こうから送られてくる写真を眺めている毎日です。

以下は、呪文やパラメータを変えながら、異世界にメッセージを送って、そこから戻ってきた画像の一部です。

こうして呪文を唱えていると、これはラブレターとか、愛の詩の類のようにも思えてきます。リアルでポートレート写真を撮るときに、「かわいい!」「いいね、その表情」「こっちを愛情込めた目で見つめて」などと声をかけるのにも似ているかもしれません。

Torichan, beautiful Japanese girl
Looking at me affectionately
Enticing, alluring
Age of 18, style of Spielberg
In the forest you rest

こんな歌詞を、僕と妻の歌声でデュエットし、ミュージックビデオにこれらの写真を使うとかどうでしょうか。そういえば、妻の合成歌声である「妻音源とりちゃん」の新曲(といってもカバーですが)で、使っていない写真がもう残っていない問題というのがあったのですが、それもこれで解決です。

「思い出すその度に、生きていると同じこと」と妻は言っていました。AIを通した、亡き妻の写真撮影は、その役割を果たしてくれているのだと、筆者は信じています。

この記事を書いた翌日、今度は「日本のアニメ風」というスタイル指定と「starry sky」というフレーズを入れてみたところ、素敵な写真が送られてきました。

呪文詠唱の修行はまだまだ続けがいがありそうです。

そして、今Googleフォトを確認したら、生成された写真の中でも「似ているなあ」と思ったものは、妻として分類されていました。これまでは目視で「違う人」を避けていたのですが、いずれそうする必要もなくなりそうです。じゃあiPhoneの写真アプリはどうかというと、別人として扱われていました。そこに「異世界とりちゃん」と名付けておきました。


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(価格・在庫状況は記事公開時点のものです)

2023年1月1日、卯年を迎えたので、うさぎと一緒のところを写してみました。追加した呪文は、「pleased to hold a rabbit」です。


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《松尾公也》

松尾公也

テクノエッジ編集部 シニアエディター / コミュニティストラテジスト @mazzo

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