AIを駆使する作家や漫画家、作曲家の苦悩、将棋でAIに勝てなくなった時代に棋士がとった道。最近はこうしたニュースを見ることが増えてきました。その度に筆者は思います。あ、これ読んだわー、と。
AIの登場により起こりうるさまざまなコンフリクトを予見したマンガ、「AIの遺電子」で体験済みのことだったのです。この作品のTVアニメ化が発表されました。全12話。アニメーション制作はマッドハウス、佐藤雄三監督。公開日などの詳細はまだです。
秋田書店「週刊少年チャンピオン」で2015年から連載されていたSFマンガ「AIの遺電子」は基本的に1話16ページの短編。シンギュラリティ後、超高度のAIが作り出したヒューマノイドと人間が共存する世界を描いています。主人公の須堂光は医者ですが、ヒューマノイドを専門としており、医療とAI、ロボットと人間との関わりによって生まれるさまざまなドラマがそれぞれのエピソードに凝縮されています。主人公はモッガディートという別名で違法な手段で治療を行ってもいます。近未来におけるブラック・ジャックという見方もできるでしょう。
AIの遺電子は週刊少年チャンピオンでの連載を終えた後、別冊少年チャンピオンに移って続編の「AIの遺電子 RED QUEEN」が月1連載となり、完結します。現在は、主人公が開業する前の、インターン時代のエピソードを「AIの遺電子 Blue Age」として月1ペースで連載中。単行本の第5巻が12月8日に発売されたばかりです。
近未来SFにはさまざまなスタイルがありますが、AIの遺電子で作者の山田胡瓜先生が取ったのは、現在の技術、開発中の研究から積み上げていった、あり得るかもしれない世界。現在のテクノロジーや企業、人の延長線上にありながら、少し違う、けれども人間、それを模したヒューマノイドの苦悩は変わらない。そういう世界観です。
その世界の中で起こっていたことは、現在私たちが体験していることを考える上での強力な手がかりになります。その意味で、この作品のアニメ化が、AI絵画に対するラッダイト運動みたいなものが起きているまさにこのタイミングで発表されたことは良かったのではないかと思います。
筆者は作者の山田胡瓜先生とかつて一緒に仕事をしていてその頃の生真面目な取り組みを目にしており、少し前のAIブームの時には、AIの遺電子のエピソードを教科書にしたAI入門書を執筆したりもしているので、贔屓目と思われても仕方ないのですが、緻密な構成力を持ったストーリーテラーとしての胡瓜先生の実力は、2023年公開の特撮映画「シン・仮面ライダー」で脚本協力として名を連ねていることが証明しているとも言えるのではないでしょうか。