欧州宇宙機関(ESA)が、世界中の宇宙機関が月面での時間を計る最善の方法として「月標準時」となるタイムゾーンを設定することを検討中です。
これは2022年末にオランダで行われた国際的な会合で提案されたもので、世界共通の月基準時を設けることで、将来NASA / ESAやその他の国、民間企業の月ミッションがもっと実行しやすいものになるとのこと。
ESAは現在、月の時刻を定めるために活動しているチームが、単一の組織が月時間を設定して維持管理すべきか、月と地球の時間を同期させるべきかといった点について議論していると述べています。
独自のタイムゾーンを持たない人類の活動の場としては、国際宇宙ステーション(ISS)があります。ISSでは、活動における時間はすべて協定世界時(UTC)を使用して行われ、NASA、ロシア、カナダ、欧州の提携宇宙機関の時差を解消しています。
ESAは、今後10年間で基地建設ミッションなど数十におよぶ月探査が計画されているとし、宇宙空間での月における基準時の保持は、宇宙飛行士や地上管制が月の時刻を把握することはもちろん、宇宙船の誘導や航行のためにも有効だとしています。
しかし、月に独自の時刻を設定するためには考慮すべき技術的な問題もあります。月では地球に比べ時間の進み方(時計の動作)が、1日あたり約56マイクロ秒早くなります。
また月軌道上と月面でも時計の刻む時刻にズレが生じるため、たとえば月面に着陸した宇宙船と地球との通信をゲートウェイステーションで経由して行う際、それぞれの場所における時間が徐々にずれていくことで通信の同期に問題が生じる可能性が考えられます。
ちなみに現状では、月への新しいミッションを行う場合は、それぞれのミッションにおいて独自のタイムスケールが取り決められ、地球の時間とは深宇宙アンテナを使って、宇宙機に搭載されたクロノメーターを同期させる処理を行っています。
NASAは、いまのところ2024年に宇宙飛行士を月へ送り、早ければ2025年の有人月面着陸を目指しています。月は地球の重力による朝夕ロックによって自転と公転が一致しており、月と太陽の関係による1日は約29.5日となります。そして、その間には地球の時間尺度で2週間ほどの、長い夜の期間があります。
飛行士が月面に降り立ち、そこで長期にわたる活動を行うようになるときまでに、月における合意された実用的な時間システムがあれば、宇宙飛行士の活動はより実施しやすくなるでしょう。またそれは、さらに将来の火星へのミッションの際に、火星独自の時間システムを設けるのにも役立つはずです。