NPR(米国公共ラジオ放送)やPBS(公共放送サービス)といった複数のメディアがTwitterから離脱する原因になった、報道機関への「政府出資メディア」というラベル付けをTwitter が取りやめたことが明らかになりました。
Twitterはもともと、中国の新華社やロシアのRTやSputnikなど、いわゆる国営メディアによるツイートが、それぞれの国の政府によるプロパガンダを含む可能性を示すため、アカウントに「国家当局関係メディア(State-affiliated)」のラベル付けをしていました。
State-affiliatedは「政府の傘下にある」に近い意味。Twitter自身の定義では、編集内容について政府機関が支配しているメディア、たとえば国策のプロパガンダ機関として政府が運営する宣伝部門や、資金や政治的圧力を通じて実質的にコントロールするメディアを指していました。
一方、米国の主要なニュース機関のひとつであるNPR (米国公共ラジオ放送)は独立した非営利の「公共」放送であり、運営方針は加入局からなるボードが決定しています。資金は視聴者や企業からの寄付や財団・大学、各地の自治体から得ており、NPR自身によれば米国の連邦政府からの助成金は1%以下。資金的にも編集権的にも独立しており、国営放送でも政府の宣伝機関でもないため、State-affiliatedのラベルは当然ついていませんでした。
ところが、現在のTwitter CEOであるイーロン・マスク氏は、フォロワーから紹介されたNPRの記事内容に不満を持ったことをきっかけに、NPRに対してこの「国家当局関係メディア」ラベルを表示しました。つまり、自身が批判する現政権の宣伝機関だから信用できないメディアだと、自身が所有するプラットフォームのTwitter全体を使って「レッテル貼り」したことになります。
しかし上記のようにNPRの編集は独立しているため、実態としてもTwitterでの定義としても「国家当局関係メディア」にはあてはまりません。なにより、Twitter自身がヘルプページで、米NPRや英BBCなどは編集権の独立した公共放送であるため国家当局関係メディアに含まないことを名指しで強調していました。
そのことを指摘されたTwitterは、誤ったラベルを外すのではなく、ラベルの名称を「国家当局関係メディア」から「政府出資メディア(government funded media)」に変え、ヘルプページからもNPRなどは含まれないと説明する部分を削除するステルス修正を実施しました。
マスク氏はこの変更について説明していませんが、「State-affiliated」は政府機関の一部であったり実質的に政府が支配するプロパガンダ機関の意味であるのに対して、「政府出資」に書き換えることで、実際に編集権や運営において影響を与えない範囲の助成金や競争的資金を結果的に受けている場合であっても、NPRのように1%以下であっても、政府の資金を得ているには違いないと主張することは可能になります。
その後Twitterは、名称を変更したラベル表示を英BBC、米PBS、カナダCBCなどに拡大していました。ラベルを貼られたNPR、PBS、CBCは、いずれもTwitterでの情報発信を取りやめることを明らかにしています。またBBCはマスク氏への直接のインタビューを通じて自身が政府からも資金を得ていないことを説明し、マスク氏はBBCのラベル付けのさらなる変更を検討すると回答、のちに「公共出資メディア(publicly-funded)」に貼り替えました。
Twitterが突然「政府出資」ラベルを除去するに至ったのはこのような経緯です。今回、なぜこのタイミングで突然ラベル付けを取りやめたのかについて、Twitterやマスク氏は何も述べていません。ただ、TwitterはNPR、PBS、CBC、およびBBCからすでにラベルを削除しています。
これによって、誤ったラベル付けに反発してTwiitterの利用を取りやめたメディアがまた戻ってくる可能性もありそうですが、記事執筆時点ではまだそのような動きは確認できませんでした。
NPRのボビー・アリン氏はマスク氏から聞いた話として、ラベルを削除したのは、マスク氏の伝記を執筆中のウォルター・アイザックソン氏から提案があったからだとツイートしています。
ちなみにTwitterは上記のラベル削除だけでなく、ラベル付けに関するヘルプページも削除しています。また「政府出資」への変更そして全削除の結果として、もともと国家プロパガンダ機関として警告ラベルを貼られていたロシア、中国、イランの政府系メディアからもラベルがなくなったことが確認されています。
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