先日、Adobeのビジネス分野への取り組みとして、オンラインで記者発表会が行なわれた。PDFのあまり知られていない機能などを紹介するものだったが、後半に紹介された「Adobe Express」が結構面白かった。これまでこんなサービスがあるのをまったく知らなかったので、ぜひ皆さんに共有しておきたい。
※この記事は、毎週月曜日に配信されているメールマガジン『小寺・西田の「マンデーランチビュッフェ」』から、一部を転載したものです。今回の記事は2023年4月17日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額660円・税込)の申し込みはこちらから。コンテンツを追加したnote版『小寺・西田のコラムビュッフェ』(月額980円・税込)もあります。
Adobe Expressは、Photoshopのような単体アプリケーションではない。簡単に説明するなら、クラウド上で動くデザインテンプレートツールである。利用にはAdobeアカウントを作って、ブラウザでログインする必要がある。
Adobeのデザインツールは、デザインの専門家がゼロから作っていくようなものも多く、ある程度デザインセンスや知識がないと、素人が突然いいものを作るということは難しい。だから多くの人は、自分で作るとなればなんらかのデザインテンプレートから始めるという事も多いだろう。
Adobe Expressは、さまざまな利用ケースに応じたデザインテンプレートを大量に用意し、その編集機能も備えている。デザインで利用できるパーツや写真も、Adobe Stockと連携して利用できるようになっている。
有料のプレミアムプランは、月額1,078円、年払いでは10,978円だが、無料プランでもかなりの数のテンプレートや素材が使えるのがポイントだ。それぞれのパーツのうち、サムネイルに王冠マークが付いているのが、有料プランのみで利用できるパーツである。要はそれを避けて選んでいけば、無料で優れたデザインの成果物が得られるというわけである。
▲無料でも使える、Adobe Express
あっという間に見栄えのいいものができる
テンプレートには、ロゴやチラシ、ポスター、Instagram投稿などがある。作品はプロジェクト単位で管理するので、まずはホーム画面から新規プロジェクトを作成していく。
サンプルとして、「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ 出版記念オフ会」のチラシを作っていく。ちなみにこれは架空のイベントである。テンプレートから「チラシ」を選択すると、チラシのテンプレートが出てくる。「イベント」の中から無料だけを絞り込むと、無料で使えるチラシのテンプレートだけが残る。この中から適当なものを選んで、これを土台に考えていく。
▲まずは作りたいものを選ぶ
右下に積み上げられたカードみたいなものは、クリックするとこのテンプレートがどのようなレイヤー構造になっているのかがわかる。逆にいえば、このレイヤーごとに編集や差し替えが可能ということである。
▲レイヤーを分解して編集できる
例えば「無料」というレイヤーをクリックすると、「無料」という文字部分が選択され、それに対する編集が可能になる。もちろん画面内クリックでも行けるのだが、思ったところが選択できないといったこともあるので、このレイヤーから選択した方が確実だろう。ここではフォントを変えて、有料イベントとしてみる。
この調子でテキスト情報だけ先に作ってみる。現状はテキスト内容をいじると、フォントサイズや位置などが狂ってしまうようなので、都度修正が必要なのは面倒である。
上部のイラストは、他のものに差し替え可能だ。イラストを選択し、「置き換え」を選ぶと、別の候補が出てくるので、それをクリックするだけである。また他のものに置き換えたければ、これを削除したのち、左側の一覧から「写真」や「デザインアセット」を選択する。
▲図版の差し替えも簡単
写真はAdobe Stockのうち、無料で利用できるものが大量にあるので、デザイン的な写真ならほとんど困らないはずだ。オリジナルの写真を使いたければ、アップロードして使用できる。写真に枠が必要なら、デザインアセットから追加できる。
▲代わりに写真を入れてみた
またここで背景を変更すると、また違った印象のものを作る事ができる。最初から背景を変えるより、ある程度表面のデータができあがってからバランスを見た方が、仕上がりはいいだろう。
▲背景を差し替えると違ったイメージに
すべて無料素材を使って作成したが、ダウンロードすると2480×3507ピクセルの画像となっている。300dpiのA4印刷なら可能だろう。今回の作業も、ちゃっちゃかやれば20分程度の作業である。20分でそこそこ使えるものが作れるのは強い。
従来、「デザインをパクる」のは良くないこととされてきた。ただ著作権法はアイデアを保護しないし、こうした意匠・デザインが保護されるのは、意匠法である。ただし意匠権は、意匠出願して認められたものにしか認められないので、よほど積極的に保護したいもの、例えば企業ロゴなどにしか効力がない。
こうしたちょこっとしたデザインものは、自分でウンウンいいながら考えてもいいのだが、専門職でもない限りはそれでギャランティが出るようなものでもない。バランスのとれたデザインをテンプレートからサクッと拝借してくるというのは、もう少し流行ってもいい手法ではないかと思う。