分かりにくいドコモの新プラン irumo (イルモ) / eximo (エクシモ)。どうしてこうなったのか(石野純也)

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石野純也

石野純也

ケータイライター/ジャーナリスト

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慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行う。ケータイ業界が主な取材テーマ。

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ドコモが7月1日に導入する新料金プランの「irumo(イルモ)」「eximo(エクシモ)」が、ネットを中心に「わかりづらい」と批判を集めています。複雑怪奇な料金体系に回帰した、との意見も見かけました。

実際、irumo、eximoの導入でドコモの料金プランは既存のahamoと合わせ3本立てになり、irumoの下にはさらに4つのデータ容量がある形になります。データ容量が一択のeximoとahamo(は大盛りを足せますが)を加えると、その数は6つになります。

▲新料金のirumo、eximoを発表したドコモ。両プランとも、7月1日にスタートする

では、どこが複雑なのか。まず、その名前が意味するところが、よくわからないというのが実情でしょう。ahamoはオンライン専用プランとして定着したため、それを受けて irumo / eximo と音の統一感を出したようにも見えますが、統一したがゆえに、差がわかりづらくなっています。

irumoとeximoで、どちらが大容量なのかを正確に当てられる人は少ないのではないでしょうか。筆者も、irumoを覚えるのはなかなか大変で、気づいたら原稿に「rumino」や「remino」と書いてしまっていた部分がありました(笑)。

▲irumoは「要る」や「居る」からインスパイアされた名前とのこと
▲eximoは、「超える」を意味する「exceed」などから命名したそう

少々余談にはなりますが、ドコモは4月に「Lemino(レミノ)」という動画配信サービスを立ち上げています。これと、何となく語感が似ているのも、間違えやすい要因かもしれません。

既存プランと比較しても、そのネーミングだけでデータ容量が多そうな「ギガホ」や、ライトユーザー向けであることが一目でわかる「ギガライト」とは、まるで別物。「パケ・ホーダイ」や「カケホーダイ」など、その覚えやすさでうっかり他社の社長が名前を使ってしまうようなベタなわかりやすさがありません。

「Xi(クロッシー)」や「FOMA(フォーマ)」など、通信方式では過去にもわかりづらいネーミングを採用してしまうことがあったドコモですが、こと料金プランに関してはベタさ重視路線が続いていました。

そこに、いきなりirumoやeximoと言われても頭にクエスチョンマークが浮かんでしまった人が多いのではないでしょうか。初手からわかりづらそうな印象を前面に出してしまったというわけです。

▲既存のプランは「プレミア」がついたり、「5G」があったりなかったりはするが、ギガホとギガライトはかなりベタで、中身がわかりやすいネーミングだった

しかも irumoは、ahamoにはなかった店頭契約を売りにして、スマホの利用が少ない高齢者も対象にした料金プランです。ただ、立ち上げられた専用サイトを見ると、あたかもZ世代を狙ったahamoのようなデザインで、狙いがよくわかりません。

オンラインで若者を獲得しつつ、高齢者はショップへどうぞという戦略なのかもしれませんが、ターゲット層とブランディングがいまいち合っていないようにも見えました。

▲irumoは高齢者“も”主要ターゲットだが、専用サイトを見ると、Z世代向けに振り切った感がある。今っぽいと言えば今っぽいのだが……

また、irumoもeximoも、割引前提の価格を思い切り打ち出していたことがどこか時代に逆行しているような印象を与えたのではないでしょうか。

ドコモを擁護すると、この割引自体はそこまで複雑な仕組みではありません。eximoに関しては家族割引と光回線のセット割が中心で、スキーム自体は現行プランのギガホやギガライトと同じ。金額もそれぞれ1100円ずつと、スッキリしていて覚えやすいです。

irumoに関しても、光回線とのセット割で1100円安くなります。ただ、eximo、irumoともに、「dカードお支払割」という187円の割引が設定されており、これが複雑に見えるのも事実。

他社クレカや銀行の引き落とし手数料を徴収できないため、逆にほぼ手数料のかからない自社クレカで割り引くという施策だとは思いますが、正直なところ、わずか187円の割引をするために要素を1つ増やしてシンプルさを犠牲にするのはどうなのかな……と思っています。

▲irumoの料金体系。いずれも、dカードやドコモ光とのセット割を含んだ金額だ

これに関しては、「au PAYカードお支払い割」を設定しているauやUQ mobileも同じ。金額が中途半端な割に複雑さが増すだけでなく、事業者都合も前面に出ている割引なだけに、ユーザーフレンドリーとは言えません。

せめてirumoに関しては、UQ mobileの旧料金やワイモバイルの現行料金のように、クレカ割はなくしてほしかったと感じています。

加えて言えば、irumoの前身としてOCNモバイル ONEの存在がチラついていたことも、割引前提の料金に批判が集まった理由と言えるでしょう。

実際、irumoのプレゼンをしたのは、OCNモバイル ONEを担当していたNTTレゾナントの社員。そのNTTレゾナントは7月1日にドコモに吸収され、OCNモバイル ONEは一足先にサービスの新規申し込みを終了します。

▲ドコモが総務省の電気通信市場検証会議に提出した資料。発表会では曖昧にしていたが、irumoが明確にOCNモバイル ONEの後釜であることがわかる

MVNOであるOCNモバイル ONEと、自身で回線を敷設するドコモのirumoでは、原価構造がまったく異なるため、そのままの料金で提供できないのは事実ですが、データ容量の区分などが似ているだけに、比較をしたくなってきます。1回線から割引なしでirumoの割引後と同程度だったOCNモバイル ONEと比べると、複雑性は増しています。抜本的に料金体系を変えるなど、MVNOと同じ土俵に乗らない工夫が必要だったのではないでしょうか。

実際、ソフトバンクもMVNOのLINEモバイルを吸収し、LINEMOを新たに立ち上げていますが、LINEMOは当初20GBプラン一択で、3GBの「ミニプラン」は後から導入しています。

LINEMOはahamo対抗と見られ、MVNOをそのままの形で受け継いだわけではないことが明確でした。それもあり、LINEモバイルと優劣を比べるような声は、あまり見かけませんでした。

移行がスムーズかと言えばそうではありませんが、LINEMOを新サービスとして印象づけるのには成功したと言えそうです。

▲ソフトバンクがLINEMOを発表した際の一幕。あくまでLINEモバイルとは別物という見せ方が強調されていた

また、同じドコモ内に料金プランが3つあり、irumoはさらに4つに分岐するという見え方があまりよろしくありません。

実際の料金プラン数を比べると、KDDIやソフトバンクも大差はないのですが、この2社の場合、低料金ブランドはUQ mobileやワイモバイルといった形で、1つのキャリアのように、ブランドをスパッと切り分けています。

そのため、ユーザーはまず自分に合ったブランドを選び、そのあと料金プランを選択するといった行動ができます。

一方で、同じドコモ内に複数ブランドが存在すると、irumoの3GBとeximoが3GBだったときを比較したくなり、複雑さが増したように見えてしまいます。

信頼感のあるドコモの料金であることを強調したかったのかもしれませんが、それがゆえに、情報を自ら積極的に取りに行く層の目には、複雑に見えてしまったおそれがあります。

▲他社はブランドをスパッと分けているのに対し、ドコモはドコモ内に3種類の料金があるという見せ方を取っている

一見複雑なドコモの新料金プランですが、irumoをirumoという新しいサブブランドと捉え、ドコモはeximoのみだと考えれば、ある程度理解しやすくなります。要は、au/UQ mobileやソフトバンク/ワイモバイルと同じ構造です。

発表会でも、eximoは「多様なニーズにおこたえするシンプルなワンプラン」と語られており、eximoのみが“真のドコモ”と解釈した方がスッキリします。

irumoの料金を見ると、UQ mobileやワイモバイルには対抗できる水準になっているため、フタを開けてみれば、契約者を順調に獲得できる可能性もあります。

また、ネットでは分かりづらいの声が大きくても、ショップに行けば店員が手取り足取りサポートしてくれて、自動的に最適な料金を選んでくれるため、irumoやらeximoやらと複雑なことを考える必要はありません。

そのショップに足を運んでもらうためにも、「ドコモの料金プラン」という“設定”にしておく必要があったのかもしれません。ネーミングの意識の高さとは裏腹に、irumoやeximoは、人力サポートに頼った力業の料金プランと言えそうです。


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《石野純也》
石野純也

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慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行う。ケータイ業界が主な取材テーマ。

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