米国のスタートアップ Vitureが開発したXRグラス『VITURE One』(ヴィチュアーワン)のレビューをお伝えします。
VITURE One XRグラスはやや大きめのサングラス型で、掛ければ「約3m先に120インチ相当」(視野角43度)のフルHD仮想ディスプレイが浮かんで見える製品。
スマホやゲーム機、オプションのVITURE Oneネックバンド等に接続すれば、電車で立っていてもベッドで寝転がっていても、自分だけの大画面で動画やゲームを楽しめます。
マイクロ有機ELディスプレイを採用した驚くほど明るく鮮明な表示に加えて、近視でも補正レンズ要らずの視度調整ダイヤル、電気的にレンズを濃くして見やすくなるエレクトロクロミックレンズなどユニークな仕様も特徴です。
VITURE One XRグラス本体は、USB-C (DP Alt Mode)で有線接続して使うサングラス型ディスプレイ。Androidスマホ、MacBookやiPad、多くのWindows PC、Steam Deck等とはそのまま接続できます。
XRグラス本体のほかに、Android ベースのOSを搭載して動画ストリーミングやクラウドゲームアプリが動くVITURE One ネックバンド、Nintendo SwitchやHDMI出力の外部機器に接続して給電しつつ遊べるVITURE One モバイルドック、iPhone接続アダプタなど、用途により組み合わせて強化するアクセサリを豊富に揃える点も特徴です。
特にVITURE Oneネックバンドは、メガネ型ディスプレイと併用するための首掛け型Android端末という特異なデバイス。
VITURE One XRグラス単体ではバッテリーも無線も内蔵せず、アプリも動かない単なる「メガネ型ディスプレイ」で、軽くても結局はケーブルで外部のデバイスに接続する必要がありますが、VITURE One ネックバンドは接続先をすぐ近くの首掛け端末にすることで、実質的にケーブルや外部デバイスに縛られない体験を実現する発想です。
ネットバンド自体が無線を備えたAndroidデバイスなので、iPhone をAirPlayで無線接続したり、PCやAndroidもワイヤレスディスプレイ接続でき、Bluetoothでコントローラやイヤホン、キーボード等々を接続できるのも利点。
今回はまずメガネ型ディスプレイのVITURE One XRグラス本体から仕様や使い勝手をお伝えします。
結論から短くまとめると、推しポイントは:
明るく鮮やか、細部までくっきり見える高画質
スマホやPC、様々なデバイスと接続できる汎用性
メガネそのもの形状でどこでも使え、常に持ち歩ける携帯性
唯一無二のネックバンド(別売)と接続でき、オールインワンに近い使い勝手
事前に把握しておくべき点は、
現実を拡張する意味の「XR」要素は今のところ限りなく希薄
厚みがあり、構造的に前も見づらく、サングラスとして外出時の常用は非推奨
焦点距離から実体ディスプレイと併用は不向き
iPhoneやNintendo Switchなど、直結できないデバイスはアクセサリが必要
「メガネケースで常時携帯でき、高画質な大画面」のサングラス型ディスプレイ製品を試したことがなければ、画面の鮮明さに驚愕するほど。
同種の製品を使ったことがある・愛用しているならなおさら、視度調整ダイヤルや専用のネックバンドなど、次の進化を楽しめる製品です。
XREAL Air とは兄弟のようにそっくり
まずは「どうやって画面が浮かんで見えるのか」について。ハーフミラーを使ったシースルー型の光学系は、先行した Nrealあらため XREAL Air と基本的には同じ構造です。
やや狭い視野角から来る高い解像感 (VITUREはFOV43度、1920 x 1080 / 公称55ppd)、驚くほど明るく鮮やかな有機ELも含め、ディスプレイ部分の仕様は非常によく似ています。
構造としては、サングラスのフレーム上部の裏側、着用したときの眉あたりにマイクロ有機ELディスプレイが下向きに設置してあり、ユーザーの目の前には斜めのハーフミラーがあります。
マイクロ有機ELディスプレイから下に向かった光と、サングラスのレンズ越しに正面から来た光がハーフミラーで合成されることで、ユーザーには眼の前の空間に仮想ディスプレイが浮かんで見える仕組みです。
外から見えるサングラスのレンズ部分がそのままディスプレイになっているわけではなく、裏側に斜めのハーフミラーが隠れているため、正面からは普通のサングラスのようでも、横からは厚みがあることが分かります。
使い勝手としては、上記の構造から画面を表示していないときでも正面は見づらく、やや浮いた状態で掛けるためフレームが視界に入り、サングラスとして常用して出歩くことを想定した製品ではありません。安全な場所や室内なら、着けたまま歩いたり用を済ますのは問題なし。
眼とレンズに距離がある構造から下側は大きく開くため、掛けたままで目線を下げて手元のスマホ操作等はしやすくなっています。
VITURE One XRグラスのユニークな仕様を挙げれば、
・視度調整対応。左右レンズの上に視度調整ダイヤルがあり、一定の範囲内なら視力矯正インサートレンズなしで鮮明に見える
・エレクトロクロミックレンズ。ボタンひとつで外側のレンズが(やや)暗くなり、明るい場所でも見やすくなる
いわゆるヘッドマウントディスプレイのなかでも特にメガネ型の製品は、そもそもメガネなので視力矯正用の眼鏡と重ねがけが難しく、光学的にも見えづらいため、ユーザーの視力にあわせてメーカーやメガネ店でインサートレンズを作ってもらい装着するものが一般的です。
VITURE One XRグラスでもインサートレンズは用意しますが、0.00D > -5.00D 範囲の近視ならばダイヤルを回して調整できるためインサートレンズ要らず。
インサートレンズが必要なタイプの製品でも、一度作って装着してしまえば特に意識せず使えますが、特に度が強い場合、そのままではそのユーザー以外には見づらくなります。
店頭などで試す際や、家族で使いまわしたり誰かに見せる際にも、ダイヤルで手軽に本来の解像感を体験できるのは大きな利点です。
VITURE One XRグラスは43度というやや狭い視野角に 1920 x 1080 ピクセルが詰まった高精細が強みなので、しっかり見えるかどうかは重要。焦点が合えば細かい文字も楽に読め、PC作業用のハンズフリー / デスクフリー超小型モニタとしても実用域に達しています。
実際の着用感と注意点。ケーブルは磁力コネクタ採用
ケーブルを除く本体が78gと軽いため、装着感は良好。サングラスそのものなので、ヘッドバンドを締め上げて装着したり顔に痕がつくこともありません。
同種の光学系を採用した製品に共通の性質ですが、瞳とレンズの相対位置がややシビアで、四隅までしっかり見えるスイートスポットが狭いため、4種類が付属する鼻あてを交換したり、幅を調整して見やすい位置で固定することが重要です。
本体がいくら軽くても有線接続ではケーブルの重さがあり、接続機器につながれて引っ張られる問題がつきまといますが、VITURE One XRグラスはグラス側のケーブル接続端子に独自の磁力式コネクタを採用しており、強い力が掛かれば抜ける仕組みになっています。
この磁力コネクタを採用することから、外部機器と接続するUSB-Cケーブルは独自。持ち出し忘れると詰むため、ケースに一緒に入れておくことを勧めます。(純正の大きなケースにはケーブル用の収納部があります)
(ネックバンドからは直付けのケーブルが伸び、グラス側に磁力コネクタで接続する仕組み)
ディスプレイとしての使用感
最大輝度では眩しいほど明るく、発色も有機ELらしい鮮やかさ。解像度はフルHDしかないものの細部まで鮮明に見え、ゲーム等の細かい文字も余さず楽に読み取れます。
画面の大きさについては、公称の「3m先に120インチ相当!」は凄まじい大迫力のようですが、視野に占める角度でいえば1.5m先の60インチ、約30センチ先の15インチと同じ。映画館で前列に座ったような、あるいはVRヘッドセットのような視界を覆うサイズではありません。
しかし焦点距離としては数mほど先に相当することで、視界に占める割合は同じでも、たとえばiPadを両手で目の前に掲げて見るよりは見やすく、離れた場所にある大画面を見ている感覚があります。
なにより構造上スクリーンが暗い中に浮かぶことで、コンテンツに集中できる効果は絶大。鮮やかさと没入感は高く、「消化する」ではなく鑑賞に足る画質です。(フルHDなので,4K HDRで見ないともったいないコンテンツには向きませんが)。
特に大画面4K HDR有機ELテレビなど映像視聴環境に凝っていない、あるいは動画鑑賞をスマホやタブレットで済ませているなら、VITURE One XRグラスは携帯性のため妥協した代用モニタではなく、手持ちで一番良い視聴環境になる場合も多いはずです。
利点にも欠点にもなるシースルー型の特性としては、正面の光を透過するため、暗い部分では目の前が貫通して見えてしまうことがあります。場所を忘れて映画に集中していても、暗転で向かいの乗客と目が合うことになりかねません。
こちらはメガネのツル部分にあるボタンで電子調光をオンにすればやや改善するものの、透過率5%から40%という微妙な設定なので、真っ暗になって完全シールドとはいかないのが残念なところ。
誤って操作して眼の前が真っ暗にならない配慮かもしれませんが、目の前が見えなくても困らない状況であれば、付属の物理シールドを被せることで解決できます。(あるいはフードを下ろす、アイマスクをする、前髪を貞子状態にする、暗い方向を向く、頭から布をかぶる etc)
実ディスプレイでないことの利点は、姿勢を変えたり寝転がっても最適な視聴距離と環境のまま見られること。サングラスのツルがあるため固い枕で横に寝るのは向きませんが、クッションに仰向け程度ならば堕落しきった姿勢で動画鑑賞やゲーム没入ができる危険なデバイスになります。
健康上の理由で直立してテレビを見づらい、ベッドサイドなどにテレビを置きづらい状況でも活躍するはずです。姿勢を変えれば画面もついてくるため、プロジェクターで天井投影したときのように首の角度を固定する必要もありません。
PCとの併用も
高い解像感で小さな文字まで楽に読めるため、MacやWindows PC、iPadやAndroidスマートフォン等と接続して作業向けにももちろん使えます。
留意するなら、焦点距離と透過率の問題から物理ディスプレイとの併用が難しく、マルチモニタ環境には不向きなこと。
VITURE One XRグラスは3mほど先に大画面があるように見えるため、例えば目線を下に向けて手元のノートの画面、正面を見てXRグラスのように切り替えるたび、焦点を合わせ直す必要があります。デスクでノートPCを扱う状況なら、デスクの向こう3mほど先のテレビと手元で行き来する感覚。
細かく見比べるような使い方でなければ、たとえば映像をXRグラスで主に視聴しつつ、通知が来たら目線を下げてノートPCに書き込むといった場合は成立するかもしれません。
複数の画面を行き来する必要がない場合、シングル画面ならば活きますが、ノートPCの場合はもっと高精細なディスプレイを搭載する製品のほうがいまや多く、フルHDシングルでは物足りなくなることも。
もとから小さな画面しか搭載しないデバイスや普段はディスプレイを接続しない機器、たとえば7インチ画面の携帯ゲーミングPC ROG Ally を一般的なPC作業に使ったり、Galaxy スマートフォンのDeXモードでPCライクに作業するといった使い方では真価を発揮します。
周辺機器も強み
VITURE One は「メガネと併用するための首掛けAndroid端末」という斬新なアクセサリ VITURE One ネックバンドが大きな魅力です。
詳しくはネックバンド編に譲りますが、Android ベースのOSを採用しており、Playストアから対応するAndroid 用アプリをインストールできます。使える動画アプリは NetflixやDisney+、Amazon Prime Video、U-NEXT等々。
ローカルにダウンロードした3D動画ファイルを再生できるステレオ3D動画プレーヤーもプリインストールするほか、ネックバンドのUSB-C端子に接続した外付けストレージから再生すら対応します。
ゲームはクラウドゲーミングの GeForce Nowクライアント、自前のPCゲームをストリーミングでリモートプレイするSteam Linkなどが利用可能。PS5リモートプレイの純正アプリは非対応のため使えませんが、互換アプリPSPlayを通じて遊べます。
いずれもBluetooth接続したコントローラでプレイ可能です。
もうひとつのユニークなアクセサリは、大容量バッテリーとHDMI端子、なぜか三つものUSB-C端子を備えた「VITURE Oneモバイルドック」。
VITURE One XRグラスはUSB-C(DP Alt Mode)に対応したスマホやPCとは直結できますが、ゲーム機などで一般的なHDMIとはそのまま接続できないため、そのアダプタの役割を果たすデバイスです。HDMI入力アダプタとして、PS5やXbox、Chromecast等のHDMIドングルも利用可能。
アダプタなのに大容量バッテリーを一体化するのは、XRグラスを動かすための電源と、接続機器側にも給電して駆動時間を伸ばすため。特にニンテンドースイッチは本体に給電してあげないと映像を外部出力してくれないため、こうした仕組みが必要になります。
大容量バッテリーを一体化したことで、連続駆動時間はNintendo Switchで6時間、Steam Deckで3時間、HDMI機器なら12時間。
USB-Cが3ポートもあるのは、映像・電源入力のほか、出力が2ポートあり、XRグラスを2台接続してマルチプレイや動画鑑賞を可能にするため。
仮想大画面の弱みは物理大画面と違い複数人で見られないことですが、本当にUSB-C出力を2ポート用意したデバイスを出してくるとは、VITURE Oneチームの熱い「良かれと思って」精神、あるいは「あったほうが良いから作った」精神を感じざるを得ません。メガネが2つなくても、モニタとメガネに出力することも可能といえば可能です。
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