(参考製品名 「Zip 100 Disk」)
[種類] 磁気ディスク
[記録方法] 磁気記録
[メディアサイズ] 98.0×98.9×6.4mm
[記録部サイズ] 直径約93mm
[容量] 100MB
[登場年] 1994年頃~
ひとつ、またひとつと消えていき、記憶からも薄れつつあるリムーバブルメディア。この連載では、ゆるっと集めているメディアやドライブをふわっと紹介します。
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「Zip」は、Iomega(アイオメガ)社が開発した磁気ディスク。当時のリムーバブルメディアとしては、容量が100MBと大きかったこと、また、速度が最大約1.4MB/sとそれなりに高速だったことから、3.5インチのフロッピーディスクを置き換えるメディアとして期待されました。
1990年代頭の個人向けリムーバブルメディアといえば、数MBのフロッピーディスクが現役かつ最大手。エンタープライズ向けのビジネス用途であれば、数十~数百MBクラスの5.25インチMOやリムーバブルHDDといった選択肢がありましたが、当然価格は高く、個人で使うには厳しいものがありました。
この空白となっていた個人向けリムーバブルメディア市場を狙ったのが、IomegaのZipです。
IomegaがZipの前に開発、販売していたのは、Bernoulli Disk(Bernoulli Box)。薄いフィルム状のディスクを高回転させ、ベルヌーイ効果でディスクを湾曲させてヘッドに近づけるという、ユニークなディスクメディアでした。
Bernoulli Diskは8インチの10MBから始まり、5.25インチと小型化した後は44MB~230MBまで大容量化が行われましたが、リムーバブルHDDで台頭したSyQuestの勢いに押されていました。IomegaもSyQuestの互換メディアを販売するなど、ちょっとしたジャブを入れたりもしましたが、それで事態が好転するわけもありません。
そんな中、ひっそり近づいたのが富士フイルム。1992年に開発したATOMM(Advanced Super Thin Layer & High Output Metal Media)の売り込み先を探し、大容量フロッピーディスクを作らないかと声をかけたのです。ATOMMは塗布型磁気メディア用の技術で、磁性層をさらに薄くしたもの。これにより自己減磁損失が低減され、より高密度な記録が可能となっていました。
磁気ディスクドライブの設計に長けたIomegaと、優れた特性を持つ磁気シートを供給可能な富士フイルム。この2社が出会ったことで誕生したのが、Zipというわけです。
構造は3.5インチフロッピーディスクに似ている
Zipディスクは、円形の磁気フィルムをプラスチックのケースに収めたカートリッジ。アクセスウィンドウを守るシャッターは、金属製です。
見ての通り形状は3.5インチと大きく異なり、互換性はなし。サイズも厚みも一回り大きいものとなっています。
裏面もほとんどの部分がプラスチックに覆われ、中のディスクが露出しているのは、中央のハブだけ。シャッターでハブまで覆わなかったのは、コスト削減のためでしょうか。
カートリッジの組み立てには4本のネジが使われており、このあたり、少し手のかかる新規メディア感がありますね。
ちなみに、ハブには位置決め用のホールがありません。物理的なインデックスは持たず、ディスク上の磁気データから読み取っていたと考えられます。
左上にあるプリズムのようなキラキラ部分は、メディアの識別用……として考えられていたと思いますが、登場時は1種類しかメディアがないため、ドライブ側に読み取り機能はナシ。つまり、登場時はただの飾りです。カッコイイ!
また、見ての通りハードウェア的な書き込み禁止スイッチはないため、書き込み禁止にするにはZip Toolsという専用のソフトを使う必要がありました。
Zipディスクは多くのブランドで発売されましたが、どのブランドの製品でも外見や構造に違いがありません。どうやら中身はIomegaのOEM、もしくは正規の製造委託のようで、互換ディスクの存在は確認できませんでした。もちろん、特許でガチガチに固めていたのもあると思いますが、それ以上にコスト削減が徹底され過ぎていて、互換品を作って売るうまみが少なかったのではないかと考えられます。
そうはいっても、「ネジ止めされているし、まだコスト削減する余地があるじゃないか」と思うかもしれません。しかし、安心してください。後の製造になると、ちゃんとネジも削減されています。
シャッターにはロック機構はなく、右から左へスライドすれば簡単に開きます。内蔵のバネで自動で閉じる機構は、3.5インチフロッピーディスクそのままといっていいほど似ています。
シャッターのサイズが3.5インチフロッピーディスクに比べ小さく見えますが、それもそのはず。アクセスウィンドウは表裏ではなく、挿し込み面に作られているからです。
アクセスウィンドウはかなり小さく、この点はフロッピーディスクというより、リムーバブルHDDの方が近いです。実際、ヘッドもHDDかと思うほど小さく、とくにヘッドを支えるアーム部分なんかはHDDとそっくり。
ただし、ヘッドの移動は直線的で、前後に動くだけ。HDDのように弧を描くものではないので、このあたりは速度よりも機械部分の簡略化や制御のしやすさを重視した結果といえそうです。
この細長いヘッドをアクセスウィンドウから挿し込み、ディスクを読み書きします。
せっかく分解しやすいネジ止めなので、中身を見てみましょう。分解方法は、シャッターを外してからネジを取るだけという簡単なもの。シャッターを外すのは少してこずりますが、組み立て用のガイド溝があるため、それをうまく使うと比較的簡単に外せます。
構成パーツの要素は3.5インチフロッピーディスクと激似。プラスチックケースの内側に不織布が貼られているというのも同じです。この構造で、触れればたわむ薄いフィルムディスクを2941rpmという回転数でぶん回す、というのは、なかなか思い切っています。
リムーバブルHDDですと信頼性を重視し、ハブにガッチリ固定したアルミ(もしくはガラス)ディスクを使い、多少の振動でもブレないよう細心の注意を払った構造を採用することがほとんど。利用中にある程度ショックを与えても、ディスクにヘッドがぶつかる心配はありません。
一方Zipは、ハブとモーターとの接続は片面からの磁力のみと簡易的。この構造で高回転を扱うのは、いくら軽くて薄いフィルムディスクとはいえ、振動に弱くなりそうで不安が残ります。それこそ、信頼性を重視していれば採用できるものではないでしょう。
しかし、Zipで考えられていた用途は、HDDのようなオリジナルデータの保存や、テープのような長期バックアップ用途ではなく、あくまで、一時的なデータ保存。データが読み出せなくなったとしても、元のデータはどこかにあるため、信頼性はそこまで高くなくても問題ありません。
もちろん、頻繁に壊れてしまうのは困りますが、壊れたディスクを新品交換してくれるというなら許容範囲。信頼性が重視されるエンタープライズ向けではなく、あくまで「ソコソコの性能で安価なもの」が歓迎される個人向けをメインとしていたからこそできる割り切りです。
廉価なドライブを武器にシェアを伸ばす
Zipが登場した1994~1995年という時期は、個人向けリムーバブルディスクが非常に面白い時期で、群雄割拠といっていい様相を呈していました。いくつか例をあげると、光磁気ディスクとなる3.5インチMOでは128MBドライブが5万円を切ったほか、230MBが登場。さらに、相変化記録の光ディスクとなる650MBのPD、SyQuestによる135MBのリムーバブルHDD(Ez135、EzDrive)、10万円台のCD-Rドライブが登場、といった具合です。ちなみに翌年の1996年になると、SuperDisk(LS-120)も出てきます。
そんな中、2万円台という激安価格のドライブを武器に台頭したのが、Zip。当時、外付けストレージといえばSCSI接続が一般的で、ドライブを使うにはさらにSCSIカードが必要でした。
しかし、Zipドライブはパラレル接続モデルを用意し、プリンターポートさえあれば使えたのが強み。つまり、ドライブが安い上にSCSIカードを購入する必要もないとあって、かなり安く100MBクラスのリムーバブルメディアが利用できたわけです。もちろん速度は犠牲になりますが、目的が3.5インチフロッピーディスクの代替であれば、そこまで困りません。
ただし、Zipディスクの価格は2000円前後で、MOより高く、リムーバブルHDDより安いといったところなので、ランニングコストはあまりよくありません。ドライブは安くてもメディアの割高感があり、このあたりを嫌った人は、MOを選んだのではないでしょうか。
日本では既に128MB MOが存在していたこと、さらに、230MB MOの登場時期というのもあって、Zipは最初こそ話題になったものの、そこまで普及しませんでした。しかし、米国では100MBクラスの廉価リムーバブルメディアが不在ということもあり、爆発的な人気に。それまでリムーバブルHDDで安泰だったSyQuestを焦らせ、過激な製品争いへと突入していきました。
参考:
Tom Gardner, 「Oral History of Syed Iftikar」, Computer History Museum
「極薄層塗布型デジタル磁気記録メディアの生産技術開発」, 富士フイルム
「デジタル99マガジン」, ツクモネットショップ20周年ありがとう企画, TSUKUMO, ヤマダデンキ
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