XREAL Air・VITURE One・Rokid Max。サングラス型ディスプレイ3種を「外付け機器」視点で比べる(西田宗千佳)

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西田宗千佳

西田宗千佳

フリーライター/ジャーナリスト

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1971年福井県生まれ。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、ネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。

特集

このところ「サングラス型ディスプレイ」の話が持ち込まれることが増えた。「XREAL Air」の話をいろいろ書いてきたからかもしれない。

手元には「XREAL Air」「VITURE One」「Rokid Max」と、3社のデバイスが揃っている。

▲中国系メーカーから続々生まれるサングラス型ディスプレイ。左上から、XREAL Air、VITURE One、Rokid Max

それぞれ単体でのレビューもしたのだが、シンプルにいって、ディスプレイ部だけの場合、違いはいくつかの点に絞られており、かなり似たところが多い。

そのため、各社が差別化点としてアピールし始めたのが「専用外付けデバイス」である。今回は3製品について、その観点から違いをまとめてみよう。


※この記事は、毎週月曜日に配信されているメールマガジン『小寺・西田の「マンデーランチビュッフェ」』から、一部を転載したものです。今回の記事は2023年8月7日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額660円・税込)の申し込みはこちらから。コンテンツを追加したnote版『小寺・西田のコラムビュッフェ』(月額980円・税込)もあります。



非常に似ているが「細かく違う」3社のデバイス

冒頭で述べたように、サングラス型ディスプレイは製品が増えて、選ぶのも大変になってきた。

メーカーはARグラスやスマートグラスのような呼び方をしているが、ここでは「サングラス型ディスプレイ」と呼ぶ。正直なところ、AR的な機能はほとんど使われてないし、充実もしていない。

スマートかどうかもちょっと疑問が残る。スマートグラスというと、スマホからの情報を表示しながら移動できるような製品を思い浮かべるが、ここで取り上げる製品群は、そういうものでもない。椅子に座って映像やゲームを楽しんだり、PCとつないでディスプレイ代わりに使ったりという用途が中心。だとするとそれは「サングラス型ディスプレイ」ですね、ということになる。

現在この種のディスプレイを作る場合、解像感を維持しようとすると、視野角(FoV)は45度前後になる。視界をフルに覆うことは難しく、中央のそこそこな広さの部分をカバーすることしかできない。どうしての「のぞき窓」感が出るので、理想的なARは目指せない。しかし「のぞき窓」をすべて1枚のスクリーンとして使うなら、「空中に大きなディスプレイ」として消費者を満足させられる。だから実質的な機能が「サングラス型ディスプレイ」になっているわけだ。結果として、目の前にずっと画面が出続けることになる。

というわけで、本記事を含め、今後筆者は「サングラス型ディスプレイ」で表記統一するのでご理解いただければと思う。

さて、今回の主題はサングラス型ディスプレイ本体の方ではなく、あくまで外付け機器の方なので、本体の話はさらっと進めよう。

私の評価は以下の表に集約できる。

編集部注:評価は執筆時のものです。VITURE Oneは2023年12月のファームウェア更新でiPhone / iPad接続時の色再現性、黒レベルを改善しました

▲3製品の特徴を比較。意外と違うところが多い

これは想像だが、XREALとRokidは同じディスプレイデバイスを使っていて、VITUREだけ違うのではないだろうか。全黒を表示した時の締まり、発色の先鋭感が、VITUREだけ劣る。とはいえ、単体でみた時に厳しい画質か、というとそうではない。

他の点では、視度調整や透過度調整など、VITUREが優れている部分もある。特に、単体での「3DoF」対応は大きい。

3DoFの説明もそろそろ不要かとも思うのだが、要は自分を中心とした360度の風景の「どこを向いているのか」を認識するもの。これができると、自分の見ている風景のどこかにディスプレイを固定し、見る方向に合わせて表示することが可能になる。前述のように「のぞき窓効果」はあるのだが、目の前にディスプレイがついてくる不自然さは解消できる。

他の機器では外付けデバイスの併用で実現しているのだが、VITURE Oneの場合、6月に公開された最新ファームウェアを使うと、別の機器を併用しなくても3DoFが実現できる。

Rokid Maxは視度調整機能を持ち、音量・輝度調整もやりやすい。画質もVITURE Oneよりいいのだが、発熱位置が眉間にあり、他のものより、長く使った時に不快感を覚えやすい。

XREAL Airは先行デバイスであるためか、付加価値は正直少ない。だが、結局基本性能がしっかりしているので、「視度調整のために専用レンズを作れるなら、もしくは視度調整が不要なら」という前提なら良い……ということになる。

要はけっこう、一長一短なのである。

サングラス型ディスプレイの不満を各社の「専用デバイス」が埋める

そこにさらに輪をかけて難しくなるのが「専用デバイス」の存在だ。

▲3社の専用外付けデバイス。上がXREAL Beam、左下からRokid Station、VITURE Oneネックバンド

そもそも、現在のサングラス型ディスプレイには、どんな機器でもつながるわけではない。HDMI出力の機器はかなり工夫しないと現状つながらない。

また、おそらくかなり大きなニーズがあるであろうNintendo SwitchはUSB Type-C出力を持っているが、そのままケーブルをつないでも表示はされない。

多くの場合、サングラス型ディスプレイはスマホなどにつないで使うことになるが、つなぐ側の機器が大きくなるし、サングラス型ディスプレイの消費する電力の分、接続した機器のバッテリーを消費するという問題も出てくる。

というわけで、映像配信などを単体デバイスで利用したり、ワイヤレスで他の機器を接続して使ったりする「単体の専用デバイス」が出てくることになる。前出の3DoFを実現するにも、こうした機器を使った方が楽ではある。

各社は差別化のために作っているので、基本的には「各社専用」になっている。まあでもそれはしょうがない。それぞれのメーカーが狙う方向性はかなり異なっていて、そこが面白い点ではある。

VITUREとRokidはAndroid TVベース

VITUREとRokidは、小型の「Android TV端末」を作った。要は、Fire TV StickやChromecast with Google TVにバッテリーを搭載したようなものを作ったわけだ。どちらも3DoFでの表示に対応する。

VITUREはネックバンド型のデバイスを作った。デバイスをどこかに収納する必要がない、という意味ではなかなか快適だ。

▲VITURE Oneネックバンド。折りたたみ式で、専用ケーブルを使ってつなぎ、首にかけて使う

一方、耳に近いところにデバイスが来るので、発熱が大きくなるとファンの音が気になってくる。

また、操作用のボタンがかなり使いづらい。「スマホにアプリを入れるとタッチパッド代わりに使える」とメーカーからは説明を受けているが、それでは「スマホに依存しなくていい」という話はどこいったの、という話になる。

Android TVをベースにしてはいるが、実際には「Android TVをカスタマイズしたもの」であるらしく、操作やアプリストアの構造はけっこうクセがある。慣れてしまえば問題ないことだが、発熱やバッテリーの問題を考えると「動画配信くらいの利用」にとどめておいた方がいいように思う。

▲ネックバンドの操作画面。Android TVをベースにカスタムしたものが使われている

スマホをつなぐ場合には、ここにさらにワイヤレス(AirPlayかMiracast)でつなぐことになる。

Rokidの方はもっとシンプル。手持ちスタイルの「Rokid Station」というAndroid TVデバイスになっている。こちらはGoogleのサポートを受けた素直なAndroid TVデバイスで、使い方も非常にシンプルだ。操作用のボタンなども快適だ。

▲Rokid Station。手のひらサイズのAndroid TVデバイスだ

▲UIはAndroid TVそのものでかなりシンプルな作りだ

ちょっと変わっているのは、Rokid Maxとの接続には専用の「Micro HDMI<>USB Type-Cケーブル」を使うこと。Rokid Stationには別途電源供給用にUSB PD端子がある。全体に給電しながら使う、という使い方を想定しているようだ。

▲外部接続はmicroHDMI。専用のケーブルでRokid Maxとつなぐ。隣には電源用のUSB Type-Cコネクタが

どこかにデバイスを収納しておかねばならない、という課題はあるものの、これはこれで良いように思える。

「他の機器との仲立ち」に特化したXREAL Beam

XREALはこれらとはまったく違う手法を採った。

他の機種との仲立ちになることに特化した「XREAL Beam」というデバイスを用意したのだ。

▲XREAL Beam。手のひらサイズだが、これにはあまり機能はなく、他のデバイスとの接続に特化した作りだ

2つのUSB Type-Cポートを搭載していて、片方にはXREAL Airを、もう片方には電源をつなげられる。XREAL Beam本体には他の2社同様バッテリーが搭載されていて、単体で3.5時間動作する。

▲USB Type-Cコネクターが2つある。右がXREAL Air接続用、左が電源・他のデバイスとの接続用だ

さらに、電源ではなくUSB Type-Cで機器をつなげば、そちらの映像を出すことも可能だ。ただ、スマホやタブレット、PCなら、3DoFモードなどが重要でない限り、そこまで意味はない。ただ、Nintendo SwitchにUSB Type-Cケーブルだけで接続できるようになっているのは大きい。また、別途「XREAL H-C ケーブル」を購入すると、HDMI機器の接続も可能になる。ただしこちらは専用ケーブルになっているようで、手元にあるHDMI<>USB Type-Cケーブルでは動作しなかった。

動作画面は以下のようになっている。キャプチャができないので、XREAL Airの表示を接写したものになる。その点ご容赦を。

UIは現状恐ろしくシンプルで、Wi-Fiの設定くらいしかない。ただこの状態で、AirPlayやMiracast対応デバイスとして動作する。接続操作はスマホやタブレット、PC側から行う。とても簡単だ。

▲XREAL Beamの動作画面。非常にシンプルで、Wi-Fiの設定やオンラインマニュアルくらいしかない

▲アップル製品とはAirPlayで接続。どうやらXREAL BeamをApple TVに見せかけて接続している模様

▲Android(Galaxy Z Fold 4、上)やWindowsとは、Miracastで接続

ただし、留意点が複数ある。

ワイヤレス接続ということは、結局接続するデバイス側の電力を消費するということ。

また、画質劣化や遅延が大きい。動画再生には使えるが、ゲームをしたり作業したりするのはちょっと厳しい。

Androidの場合Miracastを使うことになるので、非対応のデバイスでは使えない。具体的に言えば、GoogleのPixelシリーズが非対応だ。PixelはUSB Type-Cを使ったDisplayPort Altモードにも対応していないので、現状、有線ではサングラス型ディスプレイが使えない……ということになる。

ただワイヤレスならPixelもつながる可能性はある。Pixelはワイヤレスでの画面接続としてChromecastのみに対応している。Rokid StationはGoogleのお墨付きがあるAndroid TVなのでChromecastに対応していて、Pixelからも使える。

一方、ワイヤレスでの画面接続としては「Miracast」も多く使われている。Windowsも採用しているし、多くのAndroidスマホでも使える。XREAL BeamやVITURE Oneネックバンドが採用しているのはMiracastの方なので、PIxelからは使えない。

とても面倒なことに、Androidスマホの「画面のキャスト」と呼ばれる機能はそれぞれを使う場合が多く、しかも使う規格名が明示されてないことが多い。PixelでもChromecastとは書かれていないし、Galaxyも「Smart View」という機能になっていて、Miracastとは書かれていない。

なかなかに複雑なので、自分のスマホの仕様をよく確認してから選んで欲しい。

さらには、映像配信の場合、DRMの関係で「ワイヤレスだと使えない」場合もあるので、現状ワイヤレス接続は「けっこうな鬼門」なのである。

XREAL Beamの役割は「電源」だけではない。むしろ重要なのは「3つの表示モード」が使えるようになることだ。

1つ目は3DoF。他の製品同様、空中に任意のサイズで画面を固定できる。ただし、「どんな大きさに見えるか」は所詮主観で決まるので、広告にある「数m先に120インチ」という言い方を信じるべきではないし、ソフト内での表示も目安に過ぎない。

▲3DoFモードでは、表示する画面サイズを変えられる。ただし数字は「目安」だ

2つ目はサイドスクリーンモード。これはVITURE Oneのネックバンドにもある機能だが、画面を縮小した上で、視界の端に固定しておく。

▲右上端にあるのがサイドスクリーンモードでの表示。サイズは変えられないが、位置は4隅から選べる

そして3つ目が「ブレ補正モード」。3DoFと違い、視界の中心に映像が表示され続けるのだが、顔を大きく動かした時などに、映像が少し遅れてブレなく視界に入ってくる。見える位置が固定されていると不自然で酔う、という声に対応するためのモードであるようだ。要は3DoFの応用で、「移動範囲を減らす」「表示に使う画面を少し狭くする」ことで、ブレの分を補正しているということのようである。そこそこ快適ではあるが、筆者はあまりニーズを感じなかった。

▲ブレ補正モード。画面が固定されっぱなしである違和感に対応するための機能だ

これらのモードを切り替えつつ見るのに特化したデバイスがXREAL Beam、というわけなのだが、ちょっと面白いことも2つ発見した。

まず、XREAL BeamはどうやらAndroidデバイスであるようだ、ということ。強制再起動をかけた時に、ちょっと古いAndroidのUIが出てきた。海外では、デバイスをハックしてAndroidデバイスとして使う人も出てきたようだ。XREAL側もBeam上で動作するアプリの追加は計画しているようで、それを匂わせる文言が表示されている。

ただ、XREAL Beamのハードウェアはかなり非力で、ファンなどの放熱に対する配慮もみえない。単に動画を見ているだけでもそこそこ発熱するので、アプリなどであまり高い負荷をかけるべきではないように思う。

次に、「実は他のデバイスもつながる」こと。3DoFやブレ補正モードは使えないが、映像だけは表示できる。だから「バッテリー搭載の中継機」的な使い方は他社製品との組み合わせでも可能、ということになるだろう。

ただ、このような性質をカタログなどから読み解くのは相当に難しい。実用的なデバイスではあるが、他社製品以上に「なぜこれが必要なのか」は慎重な説明が必要だろう。

同社がこうした選択をしたのは、ニーズと価格のバランスをとったからだろう。

VITURE Oneのネックバンドは2万6080円、Rokid Stationは2万1990円だ。それに対し、XREAL Beamは1万6980円とかなり安い。そもそもまだニッチな製品なので、価格を抑えたかったのだろう。

こんな感じで現状は三者三様なので、ディスプレイ側とともに「どれがいいか」を考えてみていただきたい。

VITURE Japan公式ストア



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(価格・在庫状況は記事公開時点のものです)
《西田宗千佳》

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