今年のApple Watch Series 9と、Apple Watch Ultra 2は地味に見える。
ハードウェアの変更点として公式に発表されたのは、どちらもディスプレイが明るくなったという話ぐらい。あとは、SiP(System in Package)がS9チップに更新されたのと、再生素材の利用がアナウンスされたぐらいに見える。
しかし、Appleイベント「Wonderlust.」冒頭のムービーで紹介されたのはApple Watchのエピソードだった。Apple Watchを付けていたから、心臓の病気が発見できたという人、衝突検出や緊急SOSの機能のおかげで命拾いしたという人。それを「Apple Watchをしていたから、今年の誕生日を迎えられました」という、ポジティブなメッセージとして伝えるところに「さすがアップル!」と思わせられる。
▲Apple Watchによって不整脈を見つけ心臓手術をした飯村正彦さん
Apple Watch自体は何年か使えるものなので、必ずしも毎年買い替える必要はないし、ガジェット好きの方は去年Apple Watch Ultraを買ってらっしゃるだろうから、今年は買わないサイクル……だというのはよく分かる。
しかし、さらっと紹介されたS9チップには注目しておきたい。
S9チップは、A16 Bionicベース
発表会を見ていると、CPUはSeries 8より60%多い56億個のトランジスタを搭載し、GPUは30%高速。Neural Engineは従来の2コアから4コアに増量。機械学習のタスク処理が最大2倍速くなっているという。
実はApple Watchのチップセットは毎年フルチェンジしているワケではなく、大きな更新は数年に1度だ。
特に初代からSeries 2への変化は、爆発的に処理能力が向上してスムーズに動くようになり、バッテリーライフも伸びたことをご記憶の方も多いと思う。
チップセットはSeries 2とSeries 3が同じ世代、Series 4とSeries 5、初代のSEが同じ世代の設計となっている。次のSeries 6~8と、第2世代のSEも同じ世代で、この世代のSシリーズチップは、iPhone 11シリーズに搭載された7nmプロセスのA13 Bionicをベースに作られている。
そして、今回のApple Watch Serise 9と、Apple Watch Ultra 2に搭載されてるS9は、なんとiPhone 14 Proに搭載された4nmプロセスで生産されるA16 Bionicをベースにしているのだ。いかに、S9が長足の進歩を遂げているかお分かりいただけるだろう。
S9だから実現した新機能『ダブルタップ』
「Apple Watchのチップセットが高性能化したら、どういう変化があるの?」と思われるかもしれないが、もっとも顕著な例が『ダブルタップ』という新機能だ。
ダブルタップは、Apple Watchに直接触れずに操作する新しいユーザーインタフェースのアクションだ。
Apple Watchをした下側の腕の、人さし指と、親指を2回、軽くつまむようにするだけで、タッチインタフェースのタップと同じような効果を与えることができるのだ。
実は、旧モデルに搭載されていた、アクセシビリティのクイックアクションという操作も同じジェスチャーだ。しかし、アップルによるとこれとは別の操作として位置づけられており、クイックアクションはあくまで身体が不自由で、普通に操作できない人の操作を補完するためのインタフェース。今回のダブルタップは、一般の人が日常的に操作するインタフェースとして作り込まれているという。
たとえば、荷物を手に持っている時。誰かと手を繋いでいる時。ダブルタップで簡単な操作を行うことができる。たとえば、鳴り始めたタイマーを止める、電話に出る、電話を切る、音楽の再生をする、再生を止めるなどの操作が可能。また、文字盤が出ている時にダブルタップをすると、スマートスタックが表示され、タブルタップをするたびにスマートスタックをめくっていくことができる。
試してみたが、誤動作もなく簡単に操作できるので、クセになりそうだ。
このダブルタップという機能、指を動かす時に特有なモーションと、わずかな血流の違いから、操作していることを検知しているのだという。
ごくわずかな、違いを確実に検出するために使われているのが、S9のNeural Engineなのだ。だから、このダブルタップという機能はS9チップを搭載したApple Watch Serise 9と、Apple Watch Ultra 2でしか利用できない。watchOS 10にアップデートしても旧モデルでは使えない機能なのだ。
今後もこういう機能が設けられていく可能性を考えると、S9チップ搭載機に買い替えたくなる。
Ultra 2のディスプレイは最大3000ニトに
昨年発売されたばかりのApple Watch Ultraもモデルチェンジした。
昨年12万8800円もする本機を買った人は(私もだ)心安らかでない話だが、S9チップが搭載された以外には大きな変更はされていないので、そこは安心してもいい。
S9による省電力性能の向上により、画面の最大輝度は2000ニト(nits)から3000ニトに上がった。もともとが明るさを売りにしていたのが、さらに明るくなっている。
フラッシュライトの状態で最大輝度にすると(デジタルクラウンで明るくできる)その明るさに驚くはずだ。
フラッシュライトは、ライトを点滅させたり、赤くしたりすることもできるので、暗い場所でアクシデントがあったりした時に利用するといい。
その他、ウォッチフェイスがいくつか追加されている。
文字盤上でスヌーピーが活躍するスヌーピーの文字盤は、さまざまな動きが登録されていて、見ていて飽きることがない。モジュラーUltraは非常に情報量が多いので、コンプリケーションを多数使いたい人にお勧めだ。
アップル製品の場合、ギミックに大きな変更がない時には、内部の重要な部分が変わっていることが多い。今回も、その法則性はキッチリと守られたのである。
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