ハーバード・スミソニアン天体物理学センター(CfA)のAkos Bogdan氏率いる研究チームは、NASAのチャンドラX線観測衛星とジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)を使った観測から、約132億光年もの彼方に超大質量ブラックホールを発見したと発表しました。
このブラックホールは、地球から約35億光年の位置にある、銀河が密集しているAbell 2744と呼ばれるエリアにある、UHZ1と呼ばれる銀河内に発見されました。しかし実際には、UHZ1はAbell 2744のはるか遠い背後、地球から132億光年も離れた場所にあることが、JWSTのデータから示されています。
この遠い銀河からの光と、超巨大ブラックホールを取り囲むガスが放出するX線は、本来より4倍に強化されて検出されました。これは、これら天体の手前にあるAbell 2744による重力場が光の経路を曲げることで発生する「重力レンズ」効果によるものです。
このブラックホールはビッグバン後約4.7億年ごろに誕生したと考えられます。ブラックホールは、普通なら大きな恒星がその一生を終え、自分が持つ重力によって崩壊することで形成されると考えられています。しかし巨大な恒星の生涯は数億年程度では終わるものではなく、別の誕生プロセスでなければ今回のブラックホールの発見は説明できません。
今回の発見は2017年に提唱された、広範なガス雲の崩壊が一部のブラックホールを形成する可能性があるとされる「アウトサイズ・ブラックホール」理論の最初の証拠になると考えられます。
研究の共著者でプリンストン大学のAndy Goulding氏は「ブラックホールが形づくられてから成長する速度には物理的な制限があります。しかし、元からより大きな質量で生まれたものは成長も早まります。これは植物の種を蒔くより、苗木を植えるほうが早いことと似ている」と述べています。
そして、X線の明るさとエネルギーから導かれるこのブラックホールの推定質量は太陽1000万個から1億個分に相当すると推定されています。それは、このブラックホールが属する銀河内のすべての星を合わせた質量と一致しています。
この理論を提唱したイェール大学のPriyamvada Natarajan氏は、今回の発見について「これが『アウトサイズ・ブラックホール』の初の発見であり、一部のブラックホールは巨大ガス雲によって形成された可能性があることを示す最良の証拠だと考えています。」とコメントしています。