スマホを使わず1to1認証ができるようになれば、どんな世界が待っているのだろう? テクノエッジ読者の皆さんと一緒に、ヒアラブルデバイスで実現できる世界を考える、「NEC『耳音響認証』対応ヒアラブルデバイスで世界を変えよう!アイデアソン」を11月20日、マクアケ 東京本社にて開催しました。今回の記事ではアイデアソンの模様をお届けします。
NEC「耳音響認証」対応ヒアラブルデバイスとは?
会場となったマクアケ 東京本社のイベントスペースに集まったのは、アイデアソンに参加する約30名の皆さん。なかには母親と一緒に参加する小学生の姿も。初対面同士も多く緊張気味の空気のなか、ヒアラブルデバイス「RN002 TW」の開発を担当した、NECの青木規至(あおき・のりゆき)氏(同社生体認証・映像分析統括部・プロフェッショナル)によるオリエンテーションがスタートしました。
ヒアラブルデバイスとは、NECの生体認証技術の1つ「耳音響認証」を搭載したイヤホン型ウェアラブルデバイス。「耳音響認証」は、耳穴からの反響音の特性によって個人を特定し認証する機能です。指紋や虹彩、顔面上の目・鼻・口の特徴点の位置などと同様に、頭部を含む耳穴の内部構造は万人不同という点に着目し、2016年に開発されたNEC独自の技術となります。
NECがフォスター電機と共同開発したヒアラブルデバイス「RN002 TW」は、どこにでもあるようなフルワイヤレスイヤホンに見えますが、小さな筐体にはマイク・スピーカーのほか、顔の向き・姿勢・移動情報などの常時検出が可能な9軸モーションセンサが搭載されています。
これにより顔の向きや移動方向に関係なく、音源を任意の位置に固定する「音響定位」をワイヤレスで実現できます。3次元的な音の方向感や距離感などを仮想的に再現する「立体音響」機能と組み合わせ「音響AR」を実現。現実世界の任意の場所に、音声情報を付与することも可能です。
また、周囲の騒音や雑音を打ち消す「通話アクティブノイズキャンセリング」も搭載。街なかの騒音はもちろん、操業中の工場のような人の声が通らない環境でもクリアな発話音声を耳に届けます。
開発者が描く、ヒアラブルデバイスで変わる世界とは?
青木氏が目指すのは、「スマホを使わずに個人認証ができ、手や目を使うこともなく、イヤホンを装着するだけでいろいろな情報を得たり、発信できたりする世界」。特に注力しているのが、「マスクやメガネをつけていても耳さえ空いていれば常時生体認証ができるので、お店に入って『これ買います』と言ったら決済が完了する『手ぶら決済』」だといいます。
「NECは現在、モバイル端末もパソコンも直接手がけておらず※、このヒアラブルデバイスは、コンシューマーの皆さんとの唯一の接点。ヒアラブルデバイスのある世界をいち早く達成するために、最良のアイデアについて皆さんと一緒にディスカッションしたいと思っています」
※モバイル端末やパソコンは、NECパーソナルコンピュータ株式会社の製品
と、今回のアイデアソンの狙いも語ってくれました。
チーム対抗アイデアソンスタート!
続いて、ファシリテーターを勤める佐藤彩夏さんから、アイデアソンワークショップのフレームワークについての説明です。
佐藤彩夏(さとう・あやか)
博士(学際情報学)。2010年、慶應義塾大学在学中に未踏に採択。2014年、東京大学大学院博士課程在学中に研究仲間とハードウェアスタートアップ起業。2015年、株式会社QUANTUM(博報堂発スタートアップスタジオ)にてクリエイティブテクノロジストとして大企業やスタートアップの新規事業の支援、自社事業の立ち上げを担当。2018年よりクックパッド株式会社に参画。新規事業のPdMおよびUI/UXデザインを担当。2019年、未踏ジュニアPMに就任。2021年~現在、東京大学にて新規事業の講義を担当。2022年12月に独立し、デザイン思考のワークショップなどで企業の新規事業/既存サービス改善を支援。
5~6人で1チームとなり、まずは個人でのアイデアフラッシュから。ヒアラブルデバイスを活用したサービスやアプリのアイデアを自分のシートにまとめたらチーム内で発表。議論を通じてチームのアイデアを1つに絞ります。佐藤さんが提示した、アイデアシートのまとめ方のポイントは以下の3点。
ユーザー像やビフォーアフターは、とことん具体的に。ユーザー=自分でもかまわない
アイデア名は、アイデアのポイントや特徴が伝わる名称に
必ずヒアラブルデバイスを使ったアイデアに
皆で黙々とシートを埋めていくチームもあれば、「無茶なことを言い合う会だから!」とワイワイ議論を進めるチームもあり、手法はそれぞれ異なりますが、ヒアラブルデバイスが作り出す、新たな世界のイメージを形づくっていきます。
絞りこんだ1つのアイデアを、チーム全員でさらにブラッシュアップ。スマホで検索しながら、頭をかきながら、黙々とレッドブルを飲みながら。予定の時間を少しオーバーするほど、熱を帯びた会場にはワクワクするアイデアが次々に生まれていきました。
各チームのヒアラブルデバイスアイデア発表!
アイデアソン開始から1時間、いよいよ各チームによるアイデア発表の時間です。各チームから生まれたアイデアを抜粋してご紹介します。
■「サッカー少年団向けチーム育成アプリ」
ヒアラブルデバイスのセンサを使い、GPSで選手の移動量や活動量、心拍センサーで体への負荷を計測。コーチはその情報を統計データとして利用し、指導に活用できる。また、ヒアラブルデバイス経由で各選手へ、個別に声で指示が出せるのもポイント。
「試合中や練習中、コーチは大声で指示を出しているが、子どもたちは聞いていないし、聞こえないことも多い。リアルタイムで指示を伝えられるうえ、記録した音声やそのテキストデータを後で見返せば、次の成長につなげられる」
■コミュニケーションレス家庭を笑顔にする「ヒアラブル・ファミリー・コンピューティング」
コミュニケーションが希薄になった家族向けのアイデア。Bluetoothで接続したヒアラブルデバイスを経由して、離れた部屋にいても家族同士でいつでも会話が可能。ヒアラブルデバイスの力で、家族をニコニコ笑顔に。
「型番は『HFC-01』。デバイスは無料で配布し、家族の声を好きなイケボに変換する『イケボチェンジャー』サービスをサブスクで提供してマネタイズ。一度イケボを聞いたら奥さんは辞められなくなるはず」
■ネットコミュニティの知り合いにリアルで出会える街をつくる!
オンラインのコミュニティ活動を元に、リアルの友達を自然に増やせる街をつくるアイデア。ヒアラブルデバイスを装着して会場となる街を訪問。ネットコミュニティの知り合いが近づくと、音声で「○○コミュニティつながりの■■さんが近くにいます」と教えてくれる。
「『10日間は渋谷、次の10日間は新潟県長岡市』といったように、会場になる街を定期的に変えて、日本のどこかに必ず自分の友達に出会える、新たな友達ができる街をつくることで、地域経済活性化や地方創生の文脈でマネタイズにもつなげられる」
■ウィッシュリスト登録商品のあるリアル店舗を教えてくれる「Wishアイテムキャッチャー」
ECサイトのウィッシュリストに登録した商品の在庫がある店舗に近づくと、音声でお知らせしてくれるサービス。在庫があるのに顧客にアプローチできない店舗と、実物を見たり触れたりしてから購入したいという消費者とを最適なタイミングで結ぶ。
「ウィッシュリストに入っている『21㎝のエア フォース 1』が靴屋さんにはないけど、家電量販店にはあるよと、教えてもらうことで発見になるし、欲しいものと欲しい人とを最高のタイミングでつなげられる。買い物かごに入れたけど買わずに終わることも多いので、ネットでなくリアルの店舗でのチャンスに変えられるサービスになると思う」
■フードデリバリー配達員向けに特化した「手ぶらデリバリー」
受注の承認・非承認や注文番号、配達タスク管理、道順の指示など、スマホ画面を触れずにヒアラブルデバイスだけですべてのプロセスが完了できる。配達員の体調や心拍状態なども管理して、働く人の安全を守る機能や、小人キャラが音声でルートをナビする機能も。
「チームメンバーからのアイデアを1つに融合して生まれました。スマホをポチポチする必要もなく、天の声が次々と注文を受けるかどうか確認してくれて、走りながらどんどんタスクを積んでくれます。便利である反面、ある意味で倒錯したサービスかもしれません」
NEC青木氏による、アイデア講評と感想
久しぶりにコンシューマーの皆さんのリアルな声を聞けたのが非常に大きな経験になりました。腹の底にためている「こういうことが本当はやりたいんだ」という、ポジティブでおもしろくて楽しいアイデアを、皆さん率直に書いてくれたと思います。
今回のアイデアのなかでは「ヒアラブル・ファミリー・コンピューティング」がすごくよかったです。当人にはそのつもりがなくても、イヤホンで耳をふさいでいると、他人は話しかけづらくなるという視点は、私が考えていた課題とシンクロしておもしろかったです。実現可能性も含めて、社会に受け入れられやすいと思います。
また、少年サッカーのチーム育成や、リアル店舗でのリコメンドなど、過去にNECで考えた延長線上にあるアイデアもあって、社内での考え方がまったく間違いではなかったという確信が持てた点も、大きな成果でした。
一番うれしかったのは、「ヒアラブルデバイスが欲しいですか?」との質問に多くの参加者が手を挙げてくれたことです。非常に、心の支えになりました。
アイデアソン参加者の声
「ここに来る前は、アイデアが出せるのかなと思っていましたが、佐藤さんのファシリテーションがとても巧みで、気づいたらポンポンとアイデアが出せる状態になっていて、楽しい時間でした。自分でアイデアを出すことで、ヒアラブルデバイスの可能性に初めて気づくことができました」
「普段は自分と同じ業界の人とばかり会うことが多いので、違った世界の人たちとみんなでアイデア出し合う機会を得られて、自分の頭の中が広がったように感じました。時々はこうして違う世界に出てくるのもいいなと思いました」
「進行も最高で、参加者の皆さんが集中しやすい環境をつくってくれていたのが印象的でした。ハッカソンも今後予定されているとの話でしたので、ウェアラブルデバイスだけでなくSDKにも触れる人を増やして、ハッカソンで実装可能なサービスに落とし込めるところまでいけたらいいですよね」
NECのヒアラブルデバイス「RN002 TW」は、現在開催中のAmazon ブラックフライデーにて約5000円オフの特別価格で販売中。購入者限定で提供される、ヒアラブルデバイスが取得するデータを使ってスマホアプリを開発できるSDK(ソフトウェア開発キット)も、専用サイトからダウンロードが可能です。ヒアラブルデバイスの各種機能を試せるサンプルアプリのソースコードもGitHubにて公開されているので、この機会に、あなたのヒアラブルデバイス活用アイデアを形にしてみるのはいかがでしょうか。