ダイヤモンドに匹敵する超硬物質の合成に初成功。超高圧・高温で形成、常温・常圧でも性質を維持

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Munenori Taniguchi

Munenori Taniguchi

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Dominique Laniel et al.

ダイヤモンドは輝く宝石としての価値以外に、地球上で最も硬い物質であるという、物理的な特性でもほかにはない価値を持っています。

その硬さは70~150GPaという高い圧力に耐え、磁器タイルやコンクリートを切るダイヤモンドカッターやドリルビットといった切削工具に利用されたり、歯科で使われるハンドピースなど、様々なところで利用されてきました。

しかし、天然もの・合成ものいずれのダイヤモンドにおいても、採掘による公害の発生や合成過程におけるエネルギー消費といった環境への負荷・影響はあり、材料の専門家はダイヤモンドに代わる超硬質素材として、窒化炭素と呼ばれる素材を合成しようと研究を積み重ねてきました。

窒化炭素の特性は30年以上前に予測されていますが、合成することは非常に難しく、科学者は長年、試行錯誤を繰り返してきました。しかし、スコットランドのエディンバラ大学とドイツのバイロイト大学、スウェーデンのリンショーピン大学の研究者らによるチームは、この繰り返しを終わらせることに成功しました

Advanced Materialsに掲載された研究報告によると、エディンバラ大学極限条件科学センターの専門家が率いるチームは、窒化炭素を形成する炭素と窒素の前駆体サンプルを、地球の内部数千kmの深さをシミュレートした環境に晒しました。

具体的には、2つのダイヤモンドの間にサンプルを挟み、そこに地球の大気圧の約100万倍という超高圧をかけます。そしてそれと同時に、レーザーを照射して温度を約1500℃にまで加熱するプロセスを実行しました。

研究チームは、このプロセスによって形成された3種類の化合物について、単結晶X線構造解析と呼ばれる手法を用いてその分子構造を調べました。その結果、これら化合物(tI14-C3N4、hP126-C3N4、tI24-CN2)は、いずれも超硬物質に必要な正四面体構造を持っていることが確認されました。「四面体の三次元構造を特徴とする窒化炭素は、材料科学の大きな目標のひとつ」だったと研究者らは論文で述べています。

またこれらの化合物は、周囲環境を常温・大気圧状態に戻してもダイヤモンドに近い性質を保っており、それを見た科学者らは嬉しい驚きを覚えたとのことです。「この新しい窒化炭素材料の第一号が発見されたとき、私たちは、研究者たちが過去30年間夢見てきた材料ができたことを信じられませんでした」と論文の筆頭著者であるエディンバラ大学のドミニク・ラニエル博士は述べています。

研究者らはさらにこの物質について調べ、これらがフォトルミネッセンス(蛍光発光。光エネルギーを加えた際に励起された電子が元の状態に戻るときに発光してエネルギーを放出する現象)特性、圧電性特性、および高いエネルギー密度を持ち、わずかな質量でも大きなエネルギーを蓄えられることも発見しました。

「物理的特性を調べたところ、これらの材料は、超非圧縮性で超硬質であり、高いエネルギー密度、圧電特性、フォトルミネッセンス特性も有していることがわかりました」 「この新しい炭素窒化物は100GPa以上で生成され、しかも大気圧・常温の条件下で回収可能なので、高圧材料の中でもユニークなものと言えます」と研究者ら報告しています。

まだ実験的にごく少量の合成に成功した段階ではあるものの、このダイヤモンドに次ぐ硬さを持つ素材について、専門家は将来的に自動車や宇宙船の保護コーティング、高耐久性の切削工具、ソーラーパネル、光検出器などの産業目的で使用される多機能材料として将来性があると指摘しています。





《Munenori Taniguchi》
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