M3の意義、新型が出なかったiPad。Apple製品の2023年を振り返り、2024年の動向を読む (本田雅一)

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本田雅一

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ネット社会、スマホなどテック製品のトレンドを分析、コラムを執筆するネット/デジタルトレンド分析家。ネットやテックデバイスの普及を背景にした、現代のさまざまな社会問題やトレンドについて、テクノロジ、ビジネス、コンシューマなど多様な視点から森羅万象さまざまなジャンルを分析。

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アップル製品の発表は、まるで年中行事のようになってしまっているが、個人的なことでいえば、実は今年の9月iPhone 15シリーズの発表会には現地に行かなかったという違いがあった。

またお気づきの方もいるだろうが、主力製品ジャンルのiPadシリーズに新製品がひとつもなかった、というのも珍しいことだ。

そんな四方山の話を織り交ぜながら、今年のアップル製品を振り返るとともに、来年の展望も少しだけ触れることにしよう(もはやそうなるとベストバイではなくなるが)。

●鉄板の選択肢がより鉄板に

1年を通して最も印象的だったアップル製品はiPhone 15 Proと言いたいところだが(もちろん素晴らしい仕上がりに違いはない)、他に比べるべき製品が見当たらないという意味で、iMacの24インチモデルを挙げたい。

もちろん、そのハードウェア設計はM1搭載モデルの時から変化していない。USB-C対応のマウスやキーボードが望まれている中で、Lightning仕様のままのペリフェラルが専用の7色展開で添付するのも、ちょっと惜しいという気はする。

中には液晶パネルにMini-LEDの選択肢が増えないか?と期待していた人もいるかもしれないが、実際に使った印象を語るならば、もちろんコントラストや低輝度部分の色再現、黒浮きには改善の余地があるものの、それはガチのテレビ画質評価の領域だ。

制作プロダクションではないアマチュアが使う道具としては、申し分のない質と色再現、トーンカーブの的確さで、ポップなイメージとは裏腹に、極めて真面目な作り。もちろん、それは先代モデルでも同じなのだが、搭載するSoCがM3へと2世代分向上したことが大きい。

M3ファミリのレポート記事で詳細は書いたが、M1からM3へのアップデートはかなり大きい。それもCPUやGPUが速くなったよ!というレベルではなく、機能的な違いが明確なのだ。M3はM1をリリースしてからの市場や開発エンジニアからのレスポンスを反映して、少しばかりコンセプトにも修正が入っている(代表的にはPro版の位置付け変更など)。


話を戻すとM3はM1に比べてCPUやGPU、動作クロックなどの上昇に伴う性能向上を果たしているが、それよりも大きいのはMedia Engine内蔵で動画編集処理が軽快に(そして省電力に)なったことと、GPUにより実践的な機能が加わったことだ。

M3のGPUは、3D APIのMetalで使われるメッシュシェーダー処理のアクセラレータとハードウェアでのレイトレーシング、それにシェーダが使うメモリを自動管理するハードウェアが搭載されている。

いわゆるGPUを転用して動画処理や各種数値演算などの加速させるアプリケーションではM2世代と同等なのだが、複雑なモデルを豊かなライティング表現で描写するといった3Dレンダリングでは圧倒的に高速になる。


結果としてiMacの24インチモデルは、ディスプレイと見間違えるほどのスリムな筐体でありながらゲームを遊ぶプラットフォームとしても優れたものになった。ゲームタイトルの豊富さではもちろん、WindowsのゲーミングPCには敵わないが、動画編集処理の軽快さなども含め、一体型のデスクトップ機としては他に選択肢がない、鉄板中の鉄板の製品になったと思う。


一方でM2搭載のMacBook Airシリーズは、これまで鉄板だったのにタイミング的に微妙という意見もたくさん見たが、こちらはあまり気にしなくて良い。その理由は…

●デジタル文房具としてのMacBook Airを考えると

デジタル文房具という言葉は、大昔にMacはWindowsやDOSに比べ、ずっと簡単に文房具のように使いこなせると主張していた一部の人たちが積極的に使っていたが、バッテリ持ちがよく、スタイリッシュで薄く仕上がっている現在のMacBook Airは、まさにデジタル文房具と呼んでもいいのかもしれない。

もちろん、文房具ならiPadシリーズの方がずっと適しているだろうという意見はあるだろうけれど、ここで言いたいのはモバイルコンピュータとして捉えた時に適したMacという意味で読んでほしい。


これまで新しいAppleシリコンというと、真っ先にMacBook Airに搭載されてきた。Macのラインナップでも最も多く売れるのが13インチのMacBook Airだからというのもあるが、特徴である電力効率の良さを訴求するのにちょうどいいというのもあると思う。

M3はM1の2倍の電力効率だとアップルは話していて、実際にその通りの性能を発揮している。M2はM1よりは電力効率は上がっているものの、基本的にはほぼ同世代なので搭載するメリットはもちろんあるだろう。

ただその違いは長時間、高い負荷が続くような処理でなければ、おそらくほとんど出てこない。動画編集などもMedia Engineは搭載しているし、GPUの演算スループットも同等だ(前述したように3Dレンダリング性能には大きな違いがある)。

その一方で、フルに機能を動かした場合の最大の発熱量は少し上がっている(と言われている)。システムを設計する際には、最大の発熱量を意識する必要があるから、M3を最大限に活かすには設計変更が必要になる場合もあるだろう(もちろん許容値に収まるよう制御してもいいが)。

さらに現時点で言うならば、M2搭載MacBook Airは15インチのノートPCを含めても十分に高いパフォーマンスを持つ。GPU依存の高い処理やゲームならば、外付けGPUを搭載するようなPCには負けるだろうが、そもそもそうした製品はライバルではない。

”M3が出たのにM2搭載のMacBook Airは嫌だ”というのは、気持ちとしては理解できるけれども、ラインナップ全体のバランスを考えると、そして実質的なメリットを考えた上でも”デジタル文房具としてのMac”ならば、M3搭載をそこまで重視しなくていいんじゃないかな、というのが結論だし、MacBook Proの14インチモデルに初めて無印のMプロセッサが搭載されたのも納得だと思う。

無印とはいえ、それだけM3ファミリのベースとなる無印M3は強力な存在だ。アップルの立場からすれば、急いでM3に統一する必要はない。

●アップルのオーディオ製品を候補から外せない理由

アップル製品といえば当然、iPhoneである。何しろ売り上げの半分を占めているし、iPhoneから導入されて他製品に広がっていく技術も多い。オーディオ製品もその一つだ。iPhone向けに開発した信号処理技術が、それを実現する処理回路とソフトウェアとともに、いろいろな製品に派生し、例えば各種MacBookのスピーカーやマイク、カメラの品質を上げている。

同じようにアップルのHomePod(miniを含む)やAirPodsファミリなども同様で、ハードウェアの更新頻度こそ低いものの、信号処理技術の進化は常にAudio OSと呼ばれるファームウェアによって更新されている。


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実は先日、久々に第二世代HomePodのステレオペアの音を聴いて驚いたのだが、特に空間オーディオで配信されている楽曲の体験が明確に向上していた。特にアップルはアナウンスしていないが、iOSの更新タイミングで同時にテコ入れがあったのかもしれない。確認はしていないが、おそらくHomePod miniにも、それなりのアップデートがあるのではないだろうか。

そんなアップルのオーディオ製品を選択肢から外せない理由は、やはり空間オーディオ対応が優れているから。Apple Oneでまとめて契約していればお買い得なこともあり、iPhoneに加えてHomePodを持っているなら、Apple Musicはとても魅力的。空間オーディオ楽曲も多い。

さらにいえば全てのアップル製品(の中でステレオ再生できるものは)は空間オーディオ再生にできる。ゆえにアップルとBeatsの製品は外せない。


この状況、どうにかならないものだろうか。音質そのものでいえば、他社により多くの優れた選択肢がある。もっとデベロッパーに空間オーディオ対応のための仕組みを提供すべきだ。

●iPadシリーズはどうなっていく?

ところで今年、新製品が登場しなかったiPadシリーズ。何か問題を抱えているかといえば、そもそもライバルがほぼ存在しないに近いことが問題なのだと思う。

Android搭載タブレットなどにライバルがいれば、アップルもiPadをもっと積極的にテコ入れする必要があるのだろうが、iPadは無印、Air、Pro、miniともに比肩する製品がなく、さらにいえば全製品を通して大きな不満をもたらす点がないため、あえてコストが上昇する、あるいは品質管理上の問題や部分的なスペックダウンとなるリスクを冒す必要がない。

iPad Proが現行のメカニカル設計となったのは2018年秋のことだ。アップルがニューヨークで発表会を催すことは少ないが、Apple Pencilの第二世代版と同時に登場し、その後、iPad Air、iPad miniに至るまで、すなわち無印のiPadを除くすべてのiPadが、当時の基本構成を踏襲している。

その後のMagic Keyboard Folioの追加、iPad OSの改良による機能性や使いやすさ、応用範囲の拡大やM1、M2搭載によるパフォーマンス強化、あるいはMini LED搭載によるディスプレイ更新などはあったが、基本設計を変える必要性はなかった。

しかし大きな節目がある際には、その刷新がiPad Proから再び始まることは想像に難くない。

ではその”節目”とは何かと言われれば、長らく待たれれているOLEDディスプレイ搭載になるだろう。Apple WatchやiPhoneで低消費電力化の実績が積まれたLTPOをバックプレーンに採用したOLEDパネルが、いよいよiPadのサイズで量産できる準備が整い始めていることが、ディスプレイ業界のレポートで報告されている。


さらにM2からM3への更新も期待されるが、どうやらM2とM3では熱設計電力の最低値が少しだけ上がっているようだ。Apple Pencilも第二世代登場から時間が経過していることなども考えれば、2024年にはiPad Proの基本設計を久々に一新する可能性が高いだろう。

実はこの記事、クリスマスの週末明けには書いていたのだが、送り忘れるという凡ミスで大晦日の掲載となった。

さらに三部作なので、あと一つ「TechnoEdgeにはキャラが合わないと思って紹介してこなかった」、しかし大のお気に入りになった2023年のテクノロジ製品を紹介して終わりたい。駆け込みで申し訳ないが、年始の休み中、時間のある時にでもチェックしていただければ幸いだ。

《本田雅一》
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