NASAとロッキード・マーティンは1月12日に静音超音速実験機「X-59 Quesst」を正式に発表しました。NASAの副長官で元宇宙飛行士のパメラ・メルロイ氏は「X-59は、私たちの旅のあり方を変え、移動をより近く、短時間にしてくれるでしょう」と述べています。
現在、米国上空では商用超音速飛行が禁止されていますが、NASAの最新の実験用航空機であるX-59は、これを再検討するのに役立つデータを取得、提供することに重点を置いています。全長約30mのうち約1/3が非常に伸びた先端を持つ機首部分という特異な形状により、音速の1.4倍(マッハ1.4)に達するという最高速度での飛行時にも、衝撃波の発生を大きく軽減します。また、ジェットエンジンを機体上面に配置することで下面をなめらかにし、衝撃波が機体後部で合流してより大きな音になるのを抑えているとのことです。
航空機が音速を超える際に発生する衝撃波は、飛行ルートの近隣地域に非常に大きな音や振動、いわゆるソニックブームをもたらしますが、X-59では上に記したような工夫の数々によって、これが自動車のドアを閉めたときの”ドスン”という感じの音にまで軽減されるそうです。
なおX-59には、前方視界を提供する窓がありません。パイロットは、この航空機の操縦においてeXternal Vision System(XVS)と称するシステムで前方視界を得ることになります。XVSはカメラとコクピット内のスクリーンがセットとなっており、パイロットはカメラが捉えた前方視界画像を拡張現実技術を用いたARビューで映し出し、それをたよりに機体を操縦します。
今後、NASAのQuesstチームは初飛行に向けてシステムテスト、エンジン始動、滑走路を走行するタキシングテストといった一連の試験作業を行っていく予定です。そして今年後半には初飛行が予定され、続くテスト飛行において、静音超音速飛行の実施が予定されています。
NASA本部の航空研究副管理官ロバート・ピアース氏は、Quesstミッションから得られたデータと技術を規制当局や業界と共有し、静音超音速飛行の可能性を実証することで、新たな商業市場を開拓し、世界中の旅行者に利益をもたらすことを目指しています」と述べました。
またロッキード・マーティン スカンクワークスの副社長兼ゼネラルマネージャー、ジョン・クラーク氏は「才能があり、献身的で情熱的な両チームの科学者、エンジニア、組み立て職人らが協力してこの航空機の開発と製造を行いました」と述べ「NASAや当社のサプライヤーとともに、超音速旅行の未来を形作るこの旅に参加できることを光栄に思います」とコメントしました。