インディー発ゲーム「パルワールド」はなぜ世界的に大ヒットしているのか、分析してわかること(西田宗千佳)

ゲーム PC
西田宗千佳

西田宗千佳

フリーライター/ジャーナリスト

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1971年福井県生まれ。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、ネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。

特集

SteamやXboxで配信中のゲーム『パルワールド』が人気だ。

よくご存知の方も多いと思うが、パルワールドはポケットペアが開発した作品で、1月19日に「アーリーアクセス」(詳しくは後述)として公開後、5日半で800万本を売り上げるという、驚きのヒットを達成している。

▲ヒット中の「パルワールド」

今回はこの作品のヒットの仕方を例に、現在のゲームがどのようにヒットするのかを改めて解説してみたい。

いきなり大ヒット、とっつきやすさが最大の魅力

ポケットペアは、いわゆる「インディーゲームメーカー」だ。

インディーの定義は正直あいまいだ。もともとは小さな独立系メーカー、といった意味合いのものだったが、今は規模も大きくなってきた。「ゲームパブリシャー業務としてでなく、特定のゲームタイトルを独自資本と体制で開発している、比較的規模の小さいチーム」くらいの意味合いである。いわゆる「既存型の大手ゲームメーカーによって計画的に作られる作品ではない」くらいの意味合いになっている。

ポケットペアは過去に大きな実績があるわけではなく、開発実績を『Never Grave』『クラフトピア』といったゲームで積み上げてきた新興メーカーといっていい。

それがいきなり1000万本を伺うような大ヒットを飛ばしたことになる。これはやはり驚き以外のなにものでもない。

しかも、熱心にプレイされている。Steamの統計を見ると、1月28日現在、売り上げ・プレイ中のゲーム双方でトップ。特にプレイされている数では、著名なオンラインゲームタイトルよりも100万件以上多く、圧倒的な人気となっている。

▲1月28日現在のSteamの集計。日本向けの売り上げでも世界での売り上げでもトップにあり、「プレイ中タイトル」としても著名タイトルを大幅に超える

どんなゲームなのか? 筆者も数時間程度しかプレイできていないのだが、簡単に言えば、「素材を拾ってクラフトしてサバイバルしていくゲームに、モンスターを操ってともに暮らす・闘う要素を強く取り入れたもの」と言える。

ここ10年くらいクラフト型ゲームは一大ジャンルを構成しているが、パルワールドもその類型だ。PC向けにヒットした作品に、恐竜世界でクラウド&サバイバルを進める「ARK: Survival Evolved」というタイトルがあるが、ゲームシステムとしてはこの作品の影響を強く感じる。

そして、多くの人が見てすぐに感じるように、「ポケットモンスター」の影響も色濃い。

パルワールドは「ポケモンのデザインで、ARKをとっつきやすくした作品」と言われることが多いのだが、筆者もそういう印象だ。

「似ている」が、そこだけで判断してはいけない

この作品を語る上では、「ポケモンに似ている」ことが良くも悪くも話題になりやすい。

ただ、率直に言えば、「似ている」だけだ。過去から「ヒット作にインスパイアされた作品」は多数あり、似ているだけでは罪でもなんでもない。

デザイン上剽窃と言えるかどうかは、当事者同士でしか判断できない。どのようなデザインコンセプトで、どう作品を作ったのかは、開発側にしか正確なところはわからないし、どこがデザイン上剽窃と言えるのか、その結果としてどう判断するかは、あくまで原著作者の判断に委ねられる。過去には類似性が指摘され、訴訟に発展したゲームも存在するが、今回の例がどうなのか、外部から判断は難しい。

パルワールドが、過去のヒット作をかなりストレートに「インスパイアしている」のは事実かと思う。筆者はデザインよりも、効果音や文字の出方が「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」に似ていることに驚いた。だが、驚いただけで、そういうパターンは他のゲームにもあるものだ。

ゲームシステムもデザインも効果音も似ている。

だが、パルワールドには間違いなく「パルワールドだけのプレイ感」がある。日本人には非常にとっつきやすくなっていることは、その特徴の1つだろう。

そして、それが意図したものかは不明だが(おそらく意図したものだろう)、愛らしいモンスターを時に無情に狩り、使役するという「ブラックなユーモア」に近いテイストも、他のゲームに比べ強く、独自の味わいを生み出している。圧倒的に遊びやすく、そのことがゲームのジャンル自体が持つ魅力をちゃんと楽しんでもらうことにつながっている。決してイージーに作られた作品ではない。

表層的に「パクリ」というのは簡単だが、それだけで片付けられないなにかがあるからヒットに結びついている、と言っていい。

ただし、そうした部分に好感を持つか否かは、個人の自由でもある。筆者も「なるほどな」とは思うし、翻案のうまさを感じる部分も多々あったが、好みであるわけではない。時に鼻白むところもあった。

ヒットは「海外主導」、プロモーション策の効果絶大

日本からヒットを飛ばしたゲームは多々ある。

だが、パルワールドのような例は、国産ゲームでは過去にない。

しかも今回は、日本国内向けに売れているだけでなく、世界中でヒットしているのが大きな特徴である。というよりも、日本での販売数量はまだ非常に少なく、ほとんどの売り上げは海外のものである。

ゲーム業界分析を行っているGameDiscover.CoによるSteamでの販売を元にした分析では、パルワールドは売り上げの約3分1を中国、約4分の1をアメリカから得ている。そして、日本からの売り上げは2.5%しかない。

すでに述べたように、このゲームはSteam(PC向け)とXbox(Xbox Series X/SやPC、クラウドゲーミング)をプラットフォームとして配信されている。すなわち、プレイの大半はPCで行われているわけだが、相応のGPU性能も必要とする。一般的なノートPCでは性能不足なので、それなりの性能のGPUを搭載したゲーム環境は必要になる。

日本でもPCでゲームをプレイする人は増えているものの、諸外国に比べるとまだ少ない。そして、Xboxのシェアはあまり高くない関係上、ゲーム機でパルワールドをプレイしている人の数も多くはない。

なお余談だが、ゲーミングPCがない場合、パルワールドをプレイするのは、やはりXboxがいい。ただ、ゲーム機を買うことは必須ではない。PCからXbox GamePassを介してプレイしたり、Xboxクラウドゲーミングを使い、ブラウザ経由で遊んだりしてもいい。筆者もSteamとクラウド、両方で遊んでみたが、環境としては大差ない。(クラウドゲーミングの場合、現状はプレイ開始まで数分かかるのが難点だが)Xbox GamePassを契約しておく、というのは、いろいろなゲームを遊ぶ上ではお得な手段かと思う。

▲Xbox GamePassにも入っているので、PC/Xboxからプレイできるだけでなく、クラウドゲーミングでも楽しめる

閑話休題。

ただ、PCがメインであるから日本でのプレイヤーがまだ少ない、というのは理由の1つでしかない。

海外のプレイヤーが多いのは、プロモーションや周知戦略において、「オンライン配信中心の海外マーケットで定着したやり方」をちゃんとやってきたから、という部分が大きく影響している。

日本から見ると、パルワールドはいきなり登場したタイトルであるように見えるかもしれない。

だが、クラフトピアはもう2年以上前からSteamを軸に据えたプロモーションを行っており、海外では注目されていた。

リリースの1月19日より前の段階で、すでにウイッシュリスト登録者は190万を超えていて、それだけ注目のタイトルだったのだ。

さらには、ゲーム実況配信者を中心としたインフルエンサーにプレイ用のコードを事前に提供、「プレイ動画」で盛り上げる施策もしっかりと展開している。

もちろん「ポケモンに似ている」といった、ちょっとスキャンダラスな要素が注目を集める要素になったのも疑いはない。それがどこまで計算されたものなのか、正直なんとも言えないところはある。

しかし、公開されると「ちゃんと面白い」「入り込みやすい」といった要素がきちんと作り込まれていたため、ユーザーがちゃんとついてきたのも間違いないだろう。

さらに、動画になりやすいゲームであり、それをみた人が「買ってプレイしてみたい」と思った結果、爆発的なヒットに結びついたのだ。

こうしたことは、ゲームがオンライン配信になったから生まれたプロモーションとヒットの形であり、実に「今らしい」ヒットの仕方だ。

ポケットペアはちゃんと戦略を立てた上でヒットまでの導線を引いており、これは賞賛に値する。まあ、彼らの想定以上にブレイクしたのだろうな、とは思うのだが。

「長期的支持」にどうつなげるかが課題に

だが、ここからに課題がないわけではない。

今回ヒットしたのは、「アーリーアクセス中」であり、ゲームが3400円(Steamでの日本版の価格)と安価に販売されていたから……ということは大きいだろう。

▲現在は、開発途上でゲームを公開する「アーリーアクセス」段階。そのため価格も抑えめだ

アーリーアクセスとは、ゲームが完成しない段階で提供するやり方。そうやって多くのプレイ情報から、ゲームの不具合洗い出しをし、完成度を高めていく。ゲーム完成前に資金を回収する、という狙いもあるだろうし、初期からファンを掴むための施策という側面も大きい。

ただ、低価格で販売しているということは、それだけ収益も小さいであろう……ということだ。Steamへのプラットフォーム利用手数料、ゲームエンジンであるUnreal Engineの利用料、人件費やサーバーコストなどを考えれば、本当は「もう少し高い価格で売りたい」のではないだろうか。

規模の大きなゲームの開発にはコストがかかる。だから高くなるのだが、その分、長い時間遊べるものにもなる。

現在のゲームビジネスでは「いかに長く売るか」が重要になっている。

昔はディスクの出荷量が売り上げに直結していたが、今は必ずしも物理流通にこだわらなくていい。

ダウンロード販売の場合価格流動性は高く、時期によって値付けを変えやすいし、追加コンテンツのダウンロード販売などの追加収入にもつなげやすい。

逆に言えば、初期には高くとも長期間、セールを挟みながら幅広く売っていくことで、開発費回収後の収益を持続的に高めていくのが「ゲーム販売で利益を得る黄金則」でもあるのだ。大規模なAAAタイトルも小規模なインディータイトルも、そうやって「収益を積分的に高める」やり方をしている。

逆に言えば、人気・認知を長期的に持続しないと、ビジネス全体としてはイマイチな結果になりやすい。

「なにかに似ていること」のような話は、短期的に注目を集めるには向いている。だが、長期的にファンの心を掴むのは、オリジナリティであり面白さだ。

パルワールドがアーリーアクセスを超え、完成してフルプライスで売られる時にもさらにヒットを続けるには、「フルプライスでも買いたい」と思わせる要素が必要になる。

AAAタイトルがあまりアーリーアクセスをせず、いきなりフルプライスで販売するのは、ゲームにとって「新鮮さ」「驚き」が差別化要因であり、段階的ローンチはそれをスポイルすると考えているからだ。そしてその施策を貫くには、開発と運営の原資が必要になってくる。だから大手でないとやりづらい。

筆者はパルワールドが「似ている」だけのゲームだとは思っていない。前述のように、とっつきやすさや独特のユーモアなど、ヒットする要因を備えている。その先でどう「フルプライスの満足度」「長期プレイの満足度」を作るかがポイントだ。開発元も積極的なアップデートを公言している。

「似ている」という話題性を超えてここからいかに本物としての認知度をさらに高めるのか。重要なのはその点だろう。


※この記事は、毎週月曜日に配信されているメールマガジン『小寺・西田の「マンデーランチビュッフェ」』から、一部を転載したものです。今回の記事は2024年1月29日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額660円・税込)の申し込みはこちらから。コンテンツを追加したnote版『小寺・西田のコラムビュッフェ』(月額980円・税込)もあります。

《西田宗千佳》

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