米国国立点火施設の核融合実験で、投入したエネルギーの約2倍の出力が得られたとの研究報告。しかし実用化はまだ先

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Munenori Taniguchi

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2022年12月、カリフォルニアのローレンス・リバモア国立研究所内にある世界最大のレーザー核融合実験施設、米国国立点火施設(NIF)で行われた核融合反応がブレイクイーブン、つまり損益分岐点を超え、投入したエネルギーよりも多くのエネルギー生成に成功したと発表しました。

しかし、これほど大きな成果については、そのチェック作業も厳密に行われ、時間がかかる場合があります。そして今月、この実験に関する計画から技術の進歩、最初の画期的反応の結果などについて詳述した一連の論文が査読を通過し、ジャーナル誌に掲載されています。

その論文のひとつで、研究者は「この成果は50年以上にわたる研究の集大成であり、基本的な物理原理に基づいた実験室での核融合が可能であることを証明するものだ」と述べています。

核融合反応は、莫大なエネルギーを放出する太陽などの内部で起こっている反応を、実験施設の中で小規模に模倣(ただし、実験室内では太陽のように強い重力の力がないため、熱を利用)しています。

実験では、わずか0.22mgの重水素と三重水素燃料が入ったカプセルに、192台の高出力装置からのレーザーを一斉に照射し、その温度を1億5100万℃、圧力を6000億気圧という、太陽内部の条件をはるかに上回る状態にまで上昇させます。これにより燃料は崩壊し、重水素と三重水素の原子がヘリウムに融合してエネルギーが放出されます。

冒頭で紹介した実験では、2.05メガジュール(MJ)のエネルギーをレーザー光線として燃料に発射し、その結果として3.15MJのエネルギーが放出されました。

一連の論文のうちのひとつでは、過去の実験からこの実験にかけて、燃料の混合のしかたや使用量、カプセルの改良、質量の変更やレーザー出力の増強など、損益分岐点超えを可能にした進歩について詳述しています

研究者らは、2023年9月4日に行われた実験の結果も報告しています。この実験では、2022年のときと同じ2.05MJのエネルギー入力に対して、約1.9倍となる3.88MJのエネルギーが生成できたと述べられ、これまでで最高の成果となりました。

ローレンス・リバモア 米国立研究所 (LLNL)のリチャード・タウン氏は、これらの成果に関し、2022年の結果以来におけるチームのチェックとダブルチェックにより、それが「一時的なものではなかった」ことが証明され、さらなる改善の余地があると考えていると述べています

投じたエネルギーよりも多くのエネルギーを回収できる核融合反応は、もしそれを大規模化できれば、従来の化石燃料を使った発電による温室効果ガスの排出や、核分裂による放射性廃棄物の生成を気にする必要もなく、無尽蔵なクリーンエネルギー源として利用できることが期待されます。

しかし、現時点では、まだそのレベルに至ることができるかはわかりません。まず、これまでの実験における核融合によるエネルギー出力は商業用原子炉にはほど遠く、バスタブの水を沸かす程度でしかありません。そしてその熱量を得るのに使用された2.05MJのエネルギーを得るのに使われたレーザーを生み出すのに消費した電力は、500兆ワット(W)に及びます。これは全米の送電網を合計した出力を超える出力であり、効率が悪いどころの話ではありません。

核融合の進歩はわれわれの将来にとって有望であることに違いはありません。マンチェスター大学の核融合研究者であるアニーカ・カーン氏はNew Scientistに対し、商用核融合施設の完成にはまだ数十年がかかるとの予測を述べています。

一連の論文のうち3つは、Physical Review Lettersに掲載されています。

また他のふたつはPhysical Review Eでの掲載となっています。


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