MVNOの老舗中の老舗として知られる日本通信が、2月14日にドコモとの音声接続に合意したことを発表しました。同社は、2014年にも同じ申し入れをしていたものの、MVNOが電話番号を持てないなど、制度上の問題がありいったんは頓挫。その後、総務省が2021年にMVNOへの電話番号付与の方針を示し、日本通信は改めて2022年に音声網の相互接続をドコモに申請しました。今回は、その申請をドコモが受諾した格好です。
現時点では、日本通信の申請をドコモが受け入れた段階にすぎず、実際に音声網を接続するには、ドコモ側のネットワーク改造が必要になります。日本通信側も、携帯電話網を管理、運用するための設備を導入しなければなりません。こうした準備期間を経て、日本通信がサービスの提供を始めるのは、2026年になる予定。この新たな形態を、同社は「ネオキャリア」と呼びます。
まだ2年先の話と思われるかもしれませんが、日本通信の福田尚久氏は、「想像していたよりも、はるかに期間が短い」といいます。他のMVNO関係者も、2年という期間は短いと語ります。巨大なドコモのネットワークに手を入れるのは、それだけ時間がかかるものというのが共通認識。実際、IIJがかつてドコモにフルMVNOとしての相互接続を申し入れた際には、申し入れからサービスインまで、2年弱の時間がかかっています。より構成が複雑になる音声網で2年という期間は短いと言えるでしょう。
ただ、音声網の相互接続と言っても、どのようなことが実現できるのか、あまりピンとこない方が多いかもしれません。日本通信とドコモの間の出来事で、エンドユーザーには関係がない話のように捉えられる節もあります。一方で、接続の形態が変わることで、多数のサービスが実現できる可能性があります。現在、日本通信が提供している「日本通信SIM」も、そのサービス内容が充実していくかもしれません。
現状のMVNOは、データ通信をさばくための設備を持ち、サービスを提供しています。MVNOを契約しているユーザーのデータは、大手キャリアの基地局を通ったあと、そのキャリアの設備を通らず、MVNOを経由してインターネットに抜けています。MVNO側がデータ通信の料金をある程度自由に決められているのは、そのためです。回線を借りるための料金は、大手キャリアの設備とMVNOの設備を結ぶための帯域にかかっています。
これによって、データ通信はある程度自由に課金ができるようになっています。通信速度を抑えて料金を下げたり、データ容量をシェアできたりといったサービスは、MVNO側が設備を持っているからこそ実現しているもの。これに対し、音声網には自由度がなく、大手キャリアが提供するサービスを、そのままユーザーに“また貸し”しているような状態です。MVNO側の設備を通っていないため、ここに何らかのサービスを付加したり、料金設定を自由に変更したりすることができません。
これを可能にするのが、日本通信がやろうとしている音声接続です。具体的には、IMSという音声通話を制御する設備を自ら持ち、ドコモ側のそれと接続。HSS/HLRと呼ばれる加入者管理機能で、日本通信側が直接ユーザーを管理する形態です。基地局などの最終的な無線部分はドコモ側の設備を利用しますが、それ以外はほぼほぼ日本通信側のサービスになると言えるでしょう。冒頭で述べたように、これをやるには、日本通信に対して電話番号の付与も必要になります。
では、実際にどのようなサービスが可能になるのでしょうか。日本通信が挙げていたサービス一例が、その中身です。1つ目が海外ローミング。現状のMVNOは、電話番号を持っていないこともあり、海外でのデータ通信が利用できません。電話番号自体は大手キャリアのものになるため、海外キャリアから接続する先をMVNOにすることができないためです。そのため、大手MVNOのサービスは、ほとんどが海外データローミングに非対応。大手キャリアの設備をそのまま使う音声通話やSMSのみの対応になっています。
自身で電話番号を持ち、海外キャリアと接続すれば、それが可能になります。また、仮に日本通信がドコモだけでなく、KDDIやソフトバンク、楽天モバイルと接続できれば、1枚のSIMカード/eSIMで複数のキャリアにつながる「マルチキャリアSIM」を導入することができます。日本通信側の加入者管理機能で、どちらにつなぐかを制御できるようになるからです。
これが実現すれば、災害時はもちろんのこと、エリア的に電波が弱い場所や、パケ詰まりが激しい場合などに、もう1つのキャリアに切り替えることも可能になります。現在は、デュアルSIM端末でユーザーが意図的にSIMカードを切り替えることで近い運用ができますが、それをMVNO側で制御できるようになれば、1枚のSIMカードで済んでしまうことになります。その応用例として、日本通信自身が設置したローカル5Gと、ドコモ網を1枚のSIMカードで行き来できるようなサービスもできます。
また、日本通信は、料金値下げも示唆しました。これは、音声通話のサービスを始めることで、日本通信が他キャリアから着信料を受け取れるようになるため。これを織り込むことで、ある程度通話料やデータ通信の料金を下げることも可能になります。さらには、音声設備を使って間に翻訳機能を入れるといった、電話の高度化も日本通信自身のサービスとして導入できるようになります。
ほかにも、eSIMの発行やAPN設定の自動化などなど、音声網の設備と加入者管理機能を持つことで、MVNOのサービスの自由度は広がります。福田氏が、「極端な話、音声通話のために音声網を接続するのではない」と語っていたのは、そのためです。いずれにせよ、サービス開始は2026年以降になりますが、コンシューマーサービスの日本通信SIMにもポジティブな影響がありそうなだけに、その時を期待して待ちたいところです。
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