サム・アルトマンやA16zなどが出資するAIスタートアップ企業の Limitless (リミットレス)が、人の知的能力を拡張し生産性を向上すると謳う『Personalized AI』サービス Limitless と、会議や発言を学習するウェアラブルデバイス Limitlessペンダントを発表しました。
AIサービスのLimitlessはウェブアプリ・Windowsアプリ・Macアプリを用意するほか、ユーザーのGmailやGoogleカレンダーと連携することで、過去のメールやメッセージのやりとり、カレンダーの予定やToDoを学習した「Personalized AI」(パーソナルAI)を構成します。
このパーソナルAIがユーザーのかわりにあらゆるメールや会話、予定を把握して関連付けることで、まるでつきっきりの個人秘書のように状況に応じて必要な情報を伝えたり提案したり、質問に答えて記憶を補強してくれることが Limitless のコンセプトです。
リミットレスの最初のターゲットは、会議や打ち合わせの効率化。学習した内容から、次の会議がいつ・どこで・誰が出席するのか、アジェンダは何かといった基本に加えて、事前に把握しておくべき資料とその概要、自分が会議までに完了すべきタスクなどをまとめて提示してくれます。
オンライン会議はZoomやMeet、Teams、Slackなど主要プラットフォームに対応。会議中はリアルタイムの書き起こしと、議題・発言・決定事項とアクションアイテム等の議事録、概要を自動で作成します。
ウェアラブルデバイスの Limitless ペンダントは、この Limitless サービスに対面の会議や普段の会話、あるいは自分で声に出してAIに覚えさせたメモ等まで含めるための製品。
直径三センチ・厚さ8mmほどの円盤を二つつなげたような形状で、磁石で襟にクリップしたり、ループに通して首掛けして身につけます。
ハードウェアとしては自分の発言と、自分が聞いた相手の声を区別して記録するビームフォーミングマイクとストレージ、クラウドやスマホと同期するための Wi-Fi、Bluetoothを内蔵。
発言や音声をあとで見つけやすくするため、本体をタップして「ブックマーク」する機能もあります。
カメラやディスプレイ、プロジェクター等は搭載しないかわりに、バッテリー駆動時間はかなり長い100時間。録音開始や終了を気にせず、数日分の会議や会話、口述や独り言メモを記録・転送できます。
膨大な音声記録はLimitlessのセキュアなクラウドで処理してパーソナルAIが学習します。クラウド上のデータは匿名化・暗号化されており、基盤となるAWSやLimitlessにも中身は分からず、捜査機関等から開示を命じられたとしても原理的に復元できないとされています。
ユーザーのプライバシーはともかく、ユーザーと会話して声を記録される側のプライバシーが気になるところですが、これについては発言者を区別する機能を用いて、当初は記録・学習せず、ユーザーが口頭で許可を求めて、相手から口頭で同意を得た時点でその声については記録を開始する機能も備えます(ただしオプション)。
「個人の見聞きするものをまるごと学習したAIで人間を補佐する」サービスとしては、ごく最近にもOpenAIのサム・アルトマンらから多額の資金を調達した「Rewind」が話題になりました。
RewindとLimitlessはかなり似たサービスですが、それは同じスタートアップが開発しているから。Rewindを開発・運営してきたRewind社が、発展系の新規サービスとして Limitless を発表し、社名もLimitless に改名した経緯です。
旧サービスのRewindは、Macアプリでデスクトップに表示されたあらゆる文書やWebページ、動画や画像、音声を学習して、ローカルAIでパーソナライズしたAIを作るコンセプトでした。
Limitless は新サービスを開発した理由について、RewindはPC画面に表示したあらゆるものを学習するコンセプトから、プライバシー的にもローカル保存とローカルAIを使うアプローチだったものの、クラウドに載せないことで最新の強力なAIモデルが利用できず、ストレージにも限界があったことを挙げています。
新サービスの Limitless は、同社が「コンフィデンシャル・クラウド」と呼ぶ暗号化と匿名化の仕組みによりプライバシー・セキュリティを確保しつつ、クラウドベースに移行したことであらゆるデバイスやプラットフォームから自分のパーソナルAIにアクセスできる、パートナー企業の強力なAIモデルを利用できる、ストレージに制限がないことなどが利点。
Rewind のサービスも終了するわけではなく、今後もサポートを継続しつつ、Rewindの有料プランに加入していたユーザーには無償でLimitlessの有料プランも提供し、必要に応じてどちらかを選んで移行できるようにすると述べています。
料金は基本無料。AI無制限のProプランが月19ドル
Limitless の料金体系は、ウェブアプリ・Windowsアプリ・Macアプリが使えて無制限に音声を保存できる基本プランが無料。ただし議事録の作成や書き起こしといったAI機能が月に10時間しか使えない制限があります。
AI機能に制限のないLimitless Proプランは、年額払いすれば月19ドル。月払いでは29ドル。
ハードウェアのLimitlessペンダントは99ドル。
提供時期とロードマップ
Limitlessのサービスは、各プラットフォーム向けアプリとクラウド、会議準備と議事録といった機能についてはすでに提供を開始しており、基本無料で利用できます。
対面だけの会話や会議、口述メモも学習できるペンダントは今年の8月から出荷予定。
今後のロードマップとしては、近日中に iPhone / Androidモバイルアプリの提供、Slackなど各種アプリを学習ソースに含める「コンテキスト」の拡充、学習に基づいてAIになんでも質問できる機能などを提供予定。
さらに将来的には、医療関係者も使えるよう患者の個人情報保護を定めたHIPPA準拠、メールの返信等をAIが下書きするドラフト機能、LimitlessのデータやAIを活用したサードパーティーアプリを可能にするプラットフォーム化、そして音声だけのペンダントに続くAIハードウェアの発売を計画しています。
「人間が見聞きすることをかわりに覚えて面倒を見てくれる」系のAIサービス・デバイスには、カメラを搭載したバッジ状の Humane Ai Pin や、メガネ型でコンピュータビジョン用のカメラとディスプレイを搭載したマルチモーダルAIメガネこと Frame、スマホを補佐する Rabbit R1など、最近増えつつある分野です。
Metaとレイバンがコラボした Ray-Ban Meta スマートグラスも、当初はMeta AIと会話で操作できるカメラつきサングラス(兼ヘッドホン)でしたが、Meta AIが進歩してカメラで見ているものについて質問といった機能も試験しています。
Limitless は壮大なパーソナライズドAIのコンセプトを掲げつつ、まずは音声のみでシンプルなデバイスを用意し、できることも当初は会議の準備や議事録の手伝いという、まだ現実的なところから舵を切った印象です。