iPhoneの音声入力に「racist」(人種差別主義者)と入力すると、候補に一瞬「Trump」が表示される怪現象が発生し、Appleが問題を認めるできごとがありました。
数日前からTikTokなどショート動画サービスやSNSを賑わせていたのは、iPhoneで英語の音声入力を有効にして「racist」(レイシスト、人種差別主義者)と発音すると、認識した単語の候補に一瞬、稀に「Trump」が表示されたのち「racist」に戻るという、あまりといえばあんまりな現象。
動画自体が本物なのか捏造なのか、本物だったとして、音声認識ではありがちな認識エラーではないのか、あるいは直前に入力していた単語に引きずられているのでは、いやこれはAppleがサブリミナル的に「トランプはレイシスト」と刷り込んで大統領を貶めようとする陰謀だ、などと様々な反応がありました。
@user9586420191789 My dad sent me this video this morning. He told me his friend noticed that when he used speech to text and said "racist," it briefly changed to "Trump" before changing back. Seems like subliminal messaging to me. I don't have an iPhone and my phone doesn't do it. #iphone #Trump #apple #elonmusk #fyp @Anna Matson @Aquarius_Waive @athena @David Gokhshtein @Doxielvr @Hello America @Jason Pargin, author @Jeffery Mead @Jeff Mead @Joe "Pags" Pagliarulo @J.D. Vance @Link Lauren @Tulsi Gabbard @user80861822781 original sound - Jess White2260
この現象は孤立した事象や捏造ではなく、実際に試すと確率は低いものの再現することが複数報告されています。
実際に試したところ、手元でも20回ほど連続して聞き取らせた時点で、候補が一瞬「Trump」になることが確認できました。
Appleはこの件について、NY Timesなど報道機関の照会に答え、この問題が実際に発生することを認め、可及的速やかに修正するとコメントしています。
Appleはステートメントのなかで、音声認識モデルは正確な単語にたどり着く前に、音が共通する別の単語を一時的に表示することがあり、この問題は「racist」だけでなく、r の子音を持つ別の単語も影響を受けると説明しています。
さてトランプ大統領といえば、前政権が推進していた公平性や多様性、差別解消といった取り組みついて、多数派に対する逆差別であり、少数派への違法な優遇である、弱者利権を生み出し国を衰退させる党派的な企みだとして連邦レベルで廃止する大統領令を出しており、実際に雇用や教育機会の均等施策、差別解消プログラム等の撤廃や部署の廃止につながり、民間企業や教育機関も大きな影響を受けています。
これに対し反対派からは、差別主義者の常套句である「逆差別」レトリックで直接的な人種差別を招いている、復活させているとの批判があることは事実です。
また民間でも政府との関係が深かったり、税制や規制を通じて大きな影響を受ける大企業が、ビジネス上の不利益を恐れて大統領の方針に追従する例が続くなかで、Appleはアクティビスト株主が提起した公平性目標等の廃止提案を株主総会で拒否するなど、全面対決ではないにしろ、政権との緊張感が伝えられる状況でもあります。
こうした背景を踏まえると、「racist」といえば「Trump」が一瞬でも表示されるのはいかにも狙ったサボタージュ的な活動にも見え、「r」が被っているから、は苦しい言い訳にも思えます。
一方で、「誤認識」で表示されるのは「Trump」だけではなく、別の単語が候補として一瞬現れる例もあり、また「racist」以外の単語でも、認識途中で別の単語が表示されるのは珍しくありません。
実際、発音の途中ではraceなどが頻繁に候補に現れるため、単語全体を聴く前に、前方一致で候補を表示する挙動であることが分かります。「レイ」の時点で grace が現れたり、gratest のような候補が一瞬表示されることもありました。
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また別の説としては、純粋に音が近いから(だけ)ではなく、音と単語を結びつける機械学習モデルをトレーニングする際、サンプルとして与えられた音声や文章のなかでトランプ大統領と人種差別が近い文脈で頻繁に現れたからではないか、つまり音声認識モデルの時点でトランプとレイシストを近いものと認識しているからでは?との推測もあります。
しかしLLMのように単語どうしの関係性を踏まえて候補を選んでいるとAppleが明言したわけではなく、「大統領を貶めようとする意図的なサブリミナル人心操作」説と同じく、あくまで多数の「理論」のひとつに過ぎません。
アップルの社内、それも音声認識に関わる立場におり、トランプ大統領を人種差別主義者として非難する人物が、バグでしたと言い逃れができなくもない範囲でイースターエッグ的なサボタージュを仕掛けた、との説明がもっとも無難のようにも思えますが、こちらも「ありそう」というだけで根拠なし。もし社内で大きな問題になるようなら、いつものインサイダー情報源から何か伝わってくるかもしれません。
なおトランプ大統領の名誉のために申し添えれば、2025年1月に67名が犠牲となった航空機衝突事故の直後、まだ事故に至る状況が判明する前の段階から、行き過ぎた多様性重視で航空局が「重度の知的障害者や精神障害者を雇って」安全性を疎かにしたのだと非難していたことが示すように、トランプ大統領が「違法に優遇されたグループ」として槍玉に上げるのは特定の人種に限りません。
(「重度の知的障害者・精神障害者を雇用して安全を脅かした」については、特に今回の事件と障害者雇用の関係を示す根拠がないほか、非難された連邦航空局FAAはすべての職種について、障害の有無にかかわらず、特定の職能に必要な能力・身体精神的状態・セキュリティ等を厳しく精査したうえで採用していると述べています。)