昨今新製品が続々と登場するゲーミングノートPC。そうした中で各社が力を入れるのは、高性能化に伴う放熱の強化に、本来はそれと相反する薄型化、そしてなんといっても、快適にゲームがプレイできるPCとして完成させるというテーマです。
そうした問題に対して、飛び道具的な「脱着可能な水冷ユニット」によって解決を狙う変わり種モデルが、マウスコンピューターから発売されました。
それが15.6型水冷ゲーミングノートパソコン『G-Tune H5-LC』。注文開始は6月30日、つまり本日から。価格はオープン価格ですが、想定売価は37万円(税込)前後とのこと。
特徴は、冒頭でも紹介した『水冷BOX』と呼ばれる冷却用外付けユニット。デスクトップ向けの水冷キットなどと同様、大型ラジエーターと大口径ファンを搭載しています。これを柔軟性のあるチューブで本体と接続することで、冷却水を循環させて熱をBOXまで移送、ラジエーターとファンで効率的に放熱するシステムです。
なお、脱着可能と紹介したように、BOXのない状態でもノートPCとして使用可能となっています。いざという時には本体だけでも運用できる、利便性に優れた設計です。
その性能も確かなもの。メーカー側の測定では、水冷BOX接続時は空冷時(本体のみの状態)の最高温度と比較して、CPU温度は約7度低下、GPU 温度は約21.9度低下と謳います。
そしてポイントが、本機の水冷システムの主目的です。実は冷却能力向上による性能アップではなく、高負荷時の静音化となっており、この冷却性能の余裕のほとんどを動作音低減に向けているのです。その効果は本体のみと比較して約10dB減少と、非常に大きなもの。
加えて、ノートPCのファンは、比較的小口径のユニットを高速で回転させる都合上、動作音の数値よりも高音成分が耳につきやすい特性があります。冷却ボックス側は相対的に風切り音が目立ちにくい大型・低速での稼働となるため、体感上の動作音ではさらに良好となりそうです。
さらに、性能面も若干ながら向上。マウスコンピューター側の試験では、GPU速度(3DmarkのTime Spyテスト)では空冷時と比較して約4.6%、CPU速度(CINEBENCH R23テスト)では約5%のスコアアップとなっています。
ここで気になるのが、水冷BOXの実際の運用に関してでしょう。装着に関しては、本体側に設けられた2個の水冷用コネクタに、BOX側のコネクタ(チューブに付いています)を装着。PC側の設定アプリから接続状態に設定することで、水冷モードとなります。
取外しに関しては、アプリ側でモードを変更して、水冷チューブ側のロック機構を抑えながら抜けばOKとのこと。
水冷に関して詳しくない方は「本当にスムーズに行くの?」と思われるでしょうが、PC向けの水冷パーツ、とくにコネクタ関連は、市場の拡大に合わせて非常に洗練されたものとなっており、信頼性と利便性が向上しています(逆説的に言えば、それだけの完成度を持つからこそ、ノートPCで脱着可能な仕様が導入できるわけです)。
さらに水冷BOX自体の大きさは、75×204×187mm(幅×高さ×奥行き:スタンド含む)で、重量も約1.1kgと、意外に軽量。
本体サイズも360.2×243.5×28mm(幅×奥行き×厚さ)、重量約2.27kgと、15.6インチのゲーミングノートPCとしては水準のレベルに仕上がっています。
メーカー側は「LANパーティーなどへの外出時も、パソコン本体と共に水冷BOXの持ち運びが可能」とアピールしますが、確かにこの規模であれば十二分に運搬できそうです。
さて、基本仕様も、こうした水冷を活かせるだけの高性能なもの。
ゲーミングPCとして命とも呼べるグラフィックス(GPU)には、NVIDIAの『GeForce RTX 3070 Ti Laptop』を採用。ノートPC向けのRTX 3000の中でも上位に位置する基本性能に加え、水冷機構による長期の高負荷時でも安定した冷却能力が合わさり、負荷の高いゲームタイトルでもプレイ可能な実力を備えます。
そしてペアとなるディスプレイは15.6インチ16:9、2560×1440解像度、最高リフレッシュレート240Hzの液晶パネルを採用。GPUの高い性能が相まって、いわゆる競技向けFPSなどでも滑らかな表示でプレイできる装備です。
また、HDR映像ソースとしてドルビービジョンに、空間オーディオとしてドルビーアトモスに対応。それぞれに対応した作品では、高コントラスト表示や立体的で自然なサウンドが楽しめます。
そしてCPUには、インテルのAlder Lakeシリーズの高性能ノートPC向けとなる『Core i9-12900H』を搭載。基本TDPは45W、14コア20スレッドの同時処理能力を備え、最高クロックは5GHzに達します。
その他の基本性能ももちろん高く、RAMは標準で32GB (DDR5-4800、16GB×2をSO-DIMMで搭載)、 ストレージは1TBのM.2形状SSD(NVMe、PCI Express Gen4×4接続)と、GPUやCPUの足を引っ張らない仕様。
拡張端子もThunderbolt 4(兼USB Type-C)×1基に加えてフルサイズHDMI、大会などで重要な有線LANも2.5G対応で搭載し、さらにはUSB Standard-A×3基など多数を備えます。
このようにG-Tune H5-LCは「水冷ユニットを外付けする」という飛び道具的な発想を元にしつつも、仕様を見ていくと性能だけでなく実用性や利便性を重視した設計が見えてくる、ちょっと面白いバランスのモデル。
とくに、水冷ユニットの能力を性能向上にはほとんど振らず、動作音低減に振り向けた点や、水冷BOX側も運搬を前提としたサイズにまとめた点、そしてなにより、こうした大がかりな機構の割に、価格アップが極端ではない点(このあたりは流石マウスと呼べそうです)などは、特筆できるポイントでしょう。
実は水冷ユニットが脱着可能なノートPCとしては、前例があります。それは2016年に台湾ASUS(エイスース)が発売した『ROG GX700VO』をはじめとするシリーズ。ですが、同シリーズの水冷ユニットは性能向上に振ったこともあり、非常に大柄。さらにチューブでの接続ではなく、PC本体後部に合体する――つまり本体と離して設置できない――構造でした。
対して本機の接続はチューブを介しているので、設置場所の自由度が大きく広がっている点がポイント。さらにBOXの向き(つまりはファンの向き)もある程度変えられるため、普通のノートPCではなかなか難しい「本体の位置を変えずに吹き出す風の向きを変える」といった芸当も可能になります。
こうした利便性を考えると、本機の水冷は「世代が進んだ合体システム」と呼称しても良いかも知れません。
当然ながら実用でのチューブの堅さや耐久性といったところは気になりますが、それでも素性はかなり良さそうな本機。
記録的な猛暑ともなりそうな昨今にあって、ノートPC(BOXは付きますが)で快適なゲームを……と考えている方は、真面目なレベルで一考に値する機種となりそうです。
●Source:G-Tune H5-LC製品ページ