標準の約1.6倍、容量300MBの特殊な「高密度8センチCD-R」(容量300MB・2001年頃~):ロストメモリーズ File003

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宮里圭介

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ディスク収集家

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需要のわからない記事を作る自由物書き。分解とかアホな工作とかもやるよー。USBを「ゆしば」と呼ぼう協会実質代表。

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[名称] 高密度8センチCD-R
(製品名) Data-lot CD-R34
[種類] 光ディスク(追記型)
[記録方法] 有機色素、レーザー光(780nm)
[メディアサイズ] 約80(直径)×1.2(厚み)mm
[記録部サイズ] 直径約80mm
[容量] 300MB
[登場年] 2001年頃~

ひとつ、またひとつと消えていき、記憶からも薄れつつあるリムーバブルメディア。この連載では、ゆるっと集めているメディアやドライブをふわっと紹介します。

「高密度8センチCD-R」は、ニコンが開発した光学メディア。通常の8センチCD-R(シングルCD-R)では185MBとなる容量を独自に拡張し、約1.6倍の300MBにまで増やしているのが特徴です。

こういった独自の拡張は、利用するのに専用ドライブが必要となることが多いのですが、高密度8センチCD-Rが面白いのは、既存CD-R対応ドライブで読み書きできたことでしょう。そうは言っても、普通に12センチのCD-Rであれば700MBくらいの容量があるので、容量面で見ればわざわざ使う必要はありません。

ポイントとなるのが、8センチのシングルCDサイズだということ。開発したニコンのリリースによれば、

フロッピーディスクと同等のサイズによる持ち運びの利便性、3.5型FDの300倍もの記録容量、現行のCDドライブとの互換性という特長を有し、FDに代わる記録メディアとして需要が高まることが予想されます。

と、その魅力が力説されています。

8センチCD-Rと12センチCD-R、そして3.5インチFDを並べてみると、確かにサイズ面では有利。利便性を強調するほど違いがあるか? という疑問はありますが、まー、ポケットに入るのは利点と言っていいでしょう。きっと。

CD-Rの製造工程をザックリ説明すると、まず射出成形でポリカーボネートの基板を作り、これに有機色素などを記録層として塗布。その上に反射層を作って、保護層でカバーする、といったものになります。

ニコンが販売したのは、高密度8センチCD-Rそのものではなく、この製造に使う「スタンパー」。これは射出成形で使う金型で、数万回の使用で寿命となるため、メディアの製造が続く限りコンスタントに必要となります。

高密度8センチCD-Rと通常のCD-Rはスタンパーが違うだけで、製造方法は変わりません。それでいて、容量約1.6倍という付加価値が付くのですから、メディアを生産するメーカーとしては興味深いものだったのではないでしょうか。

ということで、そんな高密度8センチCD-Rのひとつである「Data-lot CD-R34」を紹介します。

内側と外側でトラックピッチが異なる? ディスクの内外ギリギリまで情報領域を拡大

「Data-lot CD-R34」は香港Wealth Fair Investment社の製品で、音楽用として使う場合は34分ぶん記録できる、というのが特徴です。製品名だろうと思われる「CD-R34」の34は、この時間を表すものなのでしょう。

レーベル面で気になるのは容量が300MBと書いてあることくらいで、あとは普通の8センチCD-Rと変わりません。

それに対し記録面はちょっと変わっています。まずはこの写真を見てください。単体で見てわかる人は稀だと思いますので、比較用に通常のシングルCD-Rも並べています。

▲高密度8センチCD-R(左)と、通常の8センチCD-R(右)

左が高密度8センチCD-Rで、右が通常のCD-R。通常のCD-Rを見ると情報領域のリングは1つだけとなっています。その内周と外周にも細いリングがあるように見えますが、これは単に反射層が透けて見えているだけですね。

一方、高密度8センチCD-Rは内周に細いリング、外周に太いリングといったように、情報領域が2つ見えます。このリングは透過率の違いや光の回折などによって見えるもので、物理的に性質の異なる2つの領域があるという証拠。内周のリングは通常と同等、外周のリングはトラックピッチをより細かくし、高密度化したものと考えられます。

実は、この2つのトラックピッチを1つのメディアで実現するというアイデアには前例があります。それが、セガがドリームキャストで採用したGD-ROM。これはヤマハと共同開発したもので、内周はCD-ROM互換、外周を高密度の独自方式とすることで、約1GBの容量を実現していました。

▲GD-ROMの記録面

GD-ROMは2つの領域の間に隙間があり、明確に分離されています。GD-ROMは通常のCD-ROMとして読み出そうとした場合、内周だけが読み出され、警告音声などが再生されるようになっていました。つまり、異なる2つのメディアを1つのディスク上で実現していたわけです。

これに対し高密度8センチCD-Rは、あくまで1つのメディアとして利用するため、明確に分離する必要がないのでしょう。

▲高密度8センチCD-Rの記録面

拡大しても2つの情報領域の境界に隙間は確認できず、連続しているように見えます。といっても、読み書きしてる途中でトラックピッチが変化するのは、エラーの原因になり兼ねません。

CD-Rのデータ構造は、パワー較正領域(PCA)、プログラムメモリ領域(PMA)、リードイン領域、プログラム領域、リードアウト領域(+未使用領域)となっていますが、このうち内周はPCAとPMAのみに使い、外周にデータを書き込む(リードイン領域以降)というのも考えられますね。

とはいえ、専用ドライブや専用ソフトを使った書き込みではないため、細かな制御は難しそう。となると、エラーになったらその時と割り切って、ドライブ任せで書き込んでる可能性もあります。どう使い分けているのかは興味深いですね。

もうひとつ容量を増やす工夫として、純粋にトラックを拡大しているというのがあります。

情報領域の開始位置がどこなのか、ディスク中心にある穴の端から定規で測ってみると、通常のCD-Rが約14.5mmあたりから情報領域が始まるのに対し、高密度8センチCD-Rは、約13.5mmから始まっています(外周の情報領域は約17mmから)。

▲通常の8センチCD-R
▲高密度8センチCD-R

続いて終了位置も確認してみましょう。こちらは通常のCD-Rが端から1.5mmちょっとの位置で情報領域が終わるのに対し、高密度8センチCD-Rは約0.5mmでした。数値ではそんな差がないように感じますが、実際に並べてみると結構違います。

▲高密度8センチCD-R(左)と、通常の8センチCD-R(右)

左が高密度8センチCD-Rで、右が通常のCD-R。明るいグレーが情報領域なので、高密度8センチCD-Rは、かなりギリギリまで攻めているのがわかります。数値ではわずか1mmほどですが、開始・終了共に情報領域が拡大されているように見えます。

ここでニコンのリリースを振り返ってみると、

ニコンは、現行CDドライブにおける書き込み・再生の互換性を維持しながら、独自開発の新トラック構成を採用することで、高密度化に成功。

とありました。この独自開発の新トラック構成というのがたぶん、トラックピッチの変更と情報領域の拡大なのかな、と想像しています。

ここまで書いておいてなんですが、Data-lot CD-R34がニコンのスタンパーを使っているかは不明。ただし、300MBという記録容量や34分という録音時間、リリースの画像を拡大すると2つの異なる情報領域があるように見えることなど、一致する特徴が多いのは確かです。ニコンのスタンパーを使っていなかったとしても、かなり近い技術を用いているのは間違いないでしょう。

記録型DVDが普及する直前のどさくさに登場

実際に試してみようと、Windows 10のPCにDVDマルチドライブを接続し、Data-lot CD-R34をセットしてみたところ、しっかりと300MBとして認識。約250MBのファイルを書き込んでみてもエラーはなく、読み出しも問題なく行えました。

古いドライブで読めるかも気になったので、このディスクを初代PDドライブ(LF-1000JD、1995年発売)に入れてみましたが、こちらも問題なく読み出せました。結構すごいですね。

高密度8センチCD-Rは、既存の多くのドライブでそのまま使えるという利便性、登場時から1枚138円という安さが魅力でした。

しかし、そもそもシングルCD-Rの需要が少ない、容量が増えたといっても12センチCD-Rの半分以下、安いといっても12センチCD-Rより高い、ドライブによっては使えない可能性がある、といった理由から、積極的に使いたいと思えるほどではなかったのも事実です。また、正式なCD規格と異なるためか、国内メーカーが生産に乗り出さなかったのも、マイナーになってしまった原因のひとつでしょう。

2001年は記録型DVDが普及する直前で、CD-Rの容量を増やそうとする試みが色々あった頃。DDCDやML-Rといった新しい規格、オーバーバーンやプレクスターのGigaRec(2003年なのでちょっと後になりますが)などの機能が有名です。

そういった面白い時代に高密度8センチCD-Rはこっそり登場し、特に騒がれることなく消えていきました。

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参考文献:

《宮里圭介》
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