(製品名) Nakamichi MBR-7.4
[種類] 光ディスク
[記録方法] ----
[容量] 最大7枚
[サイズ] 195×320×95mm
[接続] SCSI-2
[電源] 100V AC
[登場年] 1995年頃~
ひとつ、またひとつと消えていき、記憶からも薄れつつあるリムーバブルメディア。この連載では、ゆるっと集めているメディアやドライブをふわっと紹介します。
「Nakamichi MBR-7.4」は、ナカミチが開発/販売したCD-ROMドライブ。ドライブ内に7枚までのCD-ROMを格納でき、利用時に任意の1枚へ自動で入れ替えてくれるのが特徴です。
CD-ROMの容量は、650MB前後。今ではPCの内蔵ストレージに保存してもたいしたことない容量ですが、1990年代半ばのPCに搭載されていたHDDは、数百MB~数GB程度しかありません。そのため、電子辞書など大容量データを扱う場合は、CD-ROMを入れっぱなしにして使うというのが一般的でした。
しかし、他のCD-ROMを使う場合は入れ替えなくてはならず、その作業が結構手間。作業そのものは、
イジェクトボタンを押す
すでに入っているCD-ROMを取り出す
CD-ROMをケースにしまう
使いたいCD-ROMをケースから取り出す
CD-ROMをドライブにセットする
イジェクトボタンを押す
といったように単純なものです。
しかし、異なるCD-ROMを使うたびに作業が発生するため、電子辞書などを複数使いたい人にとってこの手間は無視できません。
また、取り出したCD-ROMをケースにしまうとき、どうせまた入れ替えるからと、元のケースではなく別のケースにしまいがちだったのも問題です。次に使おうとケースを開けたら空で、どのケースに入れたか忘れてしまって捜索する……なんて経験をした人は少なくないはず。CD-ROMでピンとこなくても、ゲームソフトや音楽CDに置き換えてみれば、心当たりがあるでしょう。
こういった問題を解決するには、CD-ROMドライブを増やすのが手っ取り早いです。しかし、同時に利用するなら最適解といえますが、大抵、使うのは1度に1枚のみ。単純に入れ替えが面倒だというだけなので、複数ドライブを増設するのは費用対効果がよろしくありません。とくに当時はUSB接続のドライブが存在しませんから、外付けドライブなら高価なSCSIとなり、しかもドライブごとに電源が必要です。また、安価なATAPI内蔵でも1ポートに2台までしか接続できませんから、思ったほど台数を増やせず、解決方法として微妙でした。
こういった用途で活用してくれるのが、CDチェンジャーです。ドライブは1台だけですが、セットの中から任意の1枚を自動で入れ替えてくれるため、比較的低価格&省スペースで複数のCD-ROMが使えるようになるのがメリット。入れ替えに多少時間はかかりますが、手動でやるより断然楽です。
ジャンルは異なりますが、車載用CDプレーヤーなどがいい例でしょう。同時に再生するのは1枚だけなのでドライブは1台で十分ですが、再生したいCDは複数枚ある……といった時に便利なわけです。
ナカミチが発売していたのが、このCDチェンジャー機能を搭載していたCD-ROMドライブ。同社は車載用CDプレーヤーや、店舗用のCD視聴機などでCDチェンジャーに長けていたこともあって、PC用にもいくつか多連装CD-ROMドライブを発売していました。
中でも豪快だったのが、7連装CD-ROMドライブの「MBR-7」でしょう。これは1994年に発売されたモデルで、2倍速と遅かったものの、7枚のCD-ROMを入れっぱなしにしたまま利用できるというのが魅力でした。これを高速化し、4倍速へと対応させたのが、今回紹介する「MBR-7.4」です。
入れ替えが簡単なトレー式を採用。そのぶん本体サイズがでかい!
ぱっと見は普通の外付けCD-ROMドライブのように見えますが、よく見ると違和感があります。
まず気が付くのが、そのサイズ感。幅195mm×奥行き320mm×高さ95mmというのは光学ドライブとして非常に大きく、ほぼ同じ頃に登場したPDドライブと比較しても、かなりの差があります。また重量も約4.4kgと重たく、光学ドライブというより小型PCに近いですね。
もうひとつ気になるのは、イジェクトボタンが7つもついていること。ボタンの上には番号が振られており、押すボタンによって出てくるトレーが切り替わるという仕組みです。
試しに、電源を入れてボタンを押してみましょう。一般的なCD-ROMと同様、トレーが普通に出てきますが、トレーの奥に番号が書いてあるのがわかるでしょうか。このトレーの番号は押すボタンと対になっており、どの番号に格納するのか区別できるようになっています。
後はこのトレーにCD-ROMをセットし、イジェクトボタンを押せば(もしくは、トレーを押し込めば)、ドライブにCD-ROMが格納されます。
ちなみに、格納時に異なる番号のボタンを押すと、CD-ROMが格納された後スグに空のトレーが出てきます。セットしたはずのCD-ROMがないことに驚きますが、これ、連続してCD-ROMをセットしたいときに便利な機能なのでご安心を。二度と出てこないじゃないかとドキドキしますが、同じ番号のボタンを押すとちゃんと出てきます。わかっていても毎回ドキドキするんですけどね。
1枚ずつしか格納できないのは面倒に感じますが、そもそも、利用頻度の高いCD-ROMを入れっぱなしにするのが目的ですから、その手間は最初だけ。交換する場合でもトレーに乗ったCD-ROMを入れ替えるだけでよく、カートリッジごと取り外す必要があるマガジン方式よりも楽です。
背面にはアナログ音声出力を備えているなど、一般的な外付けCD-ROMドライブと同じ。大型機器ということもあって、SCSI端子はフルピッチになっています。
PCからは7台の光学ドライブとして認識され、それぞれが格納されているCD-ROMに対応。利用したいドライブを開くと自動でCD-ROMの入れ替えが行われ、アクセスできました。
実際試したことがあるのは5連装の「Nakamichi MJ-5.16」なのですが、1台しか接続していないのに複数の光学ドライブが並ぶ……というのが面白かった記憶があります。
なお、MBR-7.4をWindows 10が動いているPCと接続してみたところ、1台の光学ドライブとしてしか認識されませんでした。一応動作するものの、1番のCD-ROMしか読めません。多連装ドライブとして認識させるにはドライバーが必要なのか、単純に故障しているのか判断つきませんが、手元のドライブでは、現状、2番以降はただの電動CD収納ケースですね。
仮想CDドライブ技術とHDDの大容量化によって衰退へ
CD-ROMドライブが普及したことで、安価に大容量データが扱えるようになったのが1990年代です。HDDの容量もあまり大きくなく、1990年代前半は数十~数百MB、半ばになっても1GBを超える程度だったことを考えると、いかに650MBのCD-ROMが大容量だったかがわかるでしょう。
しかし、後半になるとHDDの大容量化が加速し、20GBを超えるようになります。これにより、CD-ROMはデータの参照元としてそのまま使うのではなく、インストール時に使うメディアという立ち位置に変わっていきました。
また、この頃になると仮想CDドライブ技術が登場し、イメージファイルでCD-ROMが扱えるようになってきたのも大きな変化です。HDDにイメージファイルさえ保存しておけば、物理的なCD-ROMの入れ替えなしに利用でき、しかも速度はHDD並み。インストールできない電子辞書などのCD-ROMをイメージファイル化して使っていた、という人も多いのではないでしょうか。
こうなると、CD-ROMドライブは常時使うものではなくインストールやイメージ作成時に一時的に使うものになり、多連装CD-ROMドライブの出番はなくなっていきました。
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参考文献:
「The MBR-7.4 CD-ROM Drive」, Nakamichi, WayBack Machine