リムーバブルHDDで一時代を築いたSyQuestの初代「Q-PAK」(容量6.38MB・1982年頃~):ロストメモリーズ File005

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宮里圭介

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ディスク収集家

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需要のわからない記事を作る自由物書き。分解とかアホな工作とかもやるよー。USBを「ゆしば」と呼ぼう協会実質代表。

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[名称] リムーバブルHDD
(製品名) Q-PAK、Q100
[種類] HDD
[記録方法] 磁気記録
[メディアサイズ] 約110×112×11mm
[記録部サイズ] 直径約100mm
[容量] 6.38MB(アンフォーマット)
[登場年] 1982年頃~

ひとつ、またひとつと消えていき、記憶からも薄れつつあるリムーバブルメディア。この連載では、ゆるっと集めているメディアやドライブをふわっと紹介します。

「Q-PAK」は、SyQuest社最初の製品となるリムーバブルHDDドライブ、「SQ306RD」用に作られたカートリッジ。「Q100」という名前で呼ばれることもあります。

HDDは大型コンピューターなどでは利用されてきましたが、マイコンやPCといった小型コンピューターで使われるようになったのは1980年頃から。この初期に登場し、その後の業界標準となるほど影響を与えたのが、Seagate社のST-506という製品です。サイズは5.25インチのフルハイト、容量はわずか5MBというものでしたが、フロッピーディスクより高速で大容量ということもあって、多くの機器で採用されました。

▲Seagate社の初期HDD「ST-506」(出典:Seagate Technology、Computer History Museum)

このSeagate社の設立やHDD開発に関わっていたSyed Iftikar氏が設立した会社が、SyQuest社です。

SyQuest社が目指したのは、HDDのように高速で大容量、それでいてフロッピーディスクのように交換可能なカートリッジ型ストレージ……つまり、リムーバブルHDDです。

リムーバブルHDDの利点は、安価なカートリッジを購入するだけで多くのデータが保存できること。HDDでは高価なドライブごと追加しなくてはなりませんが、リムーバブルHDDであれば、カートリッジだけで済みます。また、双方がドライブを所持しているというのが前提になりますが、小さく軽量なカートリッジの受け渡しだけで、データのやり取りができるというのも便利な点でしょう。

Q-PAKが画期的だったのは、リムーバブルHDDだったという利用面だけではありません。ディスク面の磁性体膜に従来の酸化鉄塗布ではなく、より記録密度を高められる金属メッキを採用したという技術面での変化があります。

ただし、この金属メッキのディスクは摩耗や腐食で劣化しやすく、耐久性の面で問題がありました。これを克服するため、いち早くカーボンコーティングを採用。結果、従来よりも耐久性が高くなり、ホコリやゴミ、そしてヘッドの摩擦にも強いディスクとなりました。

このディスクへのカーボンコーティングは、その後に登場したHDDの主流となったことからもわかる通り、先見の明があったのは間違いありません。

なお、ディスク側が硬くなったため、今度はフェライト製のヘッドが削れてしまうというトラブルが起こったというのは興味深いところです。ちなみにこちらは、セラミック製へと変更することで解決しています。

ということで、そんな時代を先取りしたリムーバブルHDDのカートリッジ、Q-PAKを見ていきましょう。

フロッピーディスクの影響で、ディスクサイズが3.9インチ(100mm)に

サイズは、幅110×奥行き112×高さ11mmのほぼ正方形。中のディスクは3.9インチ(100mm)となっており、当時主流の5.25インチとも、その後主流となった3.5インチとも異なります。

▲サイズは3.5インチFDよりひと回り大きいくらい。意外とコンパクト

当時は、フロッピーディスクが5.25インチから小型化されつつあった頃。主な規格を挙げると、3インチのコンパクトフロッピー、3.25インチのフレックスディスケット、3.5インチのマイクロフロッピー、4インチのデミディスケットなどが発表・発売され始めていました。

この中から3インチのコンパクトフロッピーと3.5インチのマイクロフロッピーが多くの機器で採用され、最終的に3.5インチのマイクロフロッピーが生き残ったわけです。しかし、SyQuest社が主流になると期待し、サイズを合わせたのは、IBMが開発した4インチのデミディスケットでした。

もちろん、HDDとフロッピーではディスクの共通化などができるわけもなく、サイズを合わせる直接的な理由はありません。しかし、ディスクサイズが近ければドライブのサイズを同じにできるため、様々な機器へ搭載しやすくなります。デスクトップPCで5.25インチベイと3.5インチベイがあるように、その後の共通規格となれば、汎用的に搭載できるわけです。

そんなわけで、フロッピーディスクからの置き換えを狙っていたこともあり、Q-PAKは4インチのデミディスケットに合わせたサイズになっていたわけですが……当のIBMは早々に撤退。結果、特殊なサイズのリムーバブルHDDとなってしまいました。

サイズはともかく、横にスライドするディスク保護用シャッター、裏面の中央に見えるディスク固定用のハブ、ライトプロテクト用のスイッチ(赤い部分)など、カートリッジの構成は4インチのデミディスケットよりも、3.5インチのマイクロフロッピーのほうが似ています。

▲黒いシャッターはプラスティック製。ハブは隙間が小さく、ホコリが入りにくい仕様

シャッターの開閉は、裏面から見て右のほうにあるスリットに、前方から棒状のものを押し込むことで行えます。

ヘッドを差し込むウィンドウは上下面だけが開いているのではなく、側面も合わせた3面が切り取られている形。シャッターもこの形に合わせ、コの字型となっています。

3.5インチのマイクロフロッピーもそうですが、この形状は閉じているときにシャッターの窓に付着したホコリやゴミがディスク面に落ちてしまうという、あまりよろしくない構造です。また、大きくないとはいえシャッターを開くとディスクが露出し、指で簡単に触れてしまうというのも少々問題がありそうですね。……いや、勝手にシャッター開けるなよって話ではありますが。

▲シャッターをロックしている部品を押し下げると開きます
▲カーボンコーティングで表面が強化されたディスクが見えます

公的機関での採用で、それなりの成功に

特殊なドライブとなったSQ306RDとカートリッジのQ-PAKですが、この技術を評価してくれたZenith Data SystemsやIBMなどを通じ、セキュリティ用途として米連邦政府で採用されるなど、それなりの成功を収めました。

ちなみにこの3.9インチというサイズのディスクは、10MBに容量を増やしたSQ312RD、エンコードを変更して15MBを実現したSQ319RDと3代に渡って利用されましたが、その後は5.25インチへと移行し、使われなくなりました。

なお、似た型番のドライブとして「SQ306F」や「SQ312F」、「SQ325F」という製品がありますが、こちらはリムーバブルHDDではなく、固定(Fixed)HDDモデルとなります。

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参考文献:

《宮里圭介》
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