アップルが何年も前から開発していると噂のAR/VRヘッドセットは、今年(2023年)春にようやく発表を迎え、秋には出荷が始まるとみられています。
昨年5月には同社のシェルカンパニー(実体のないペーパーカンパニー)らしき企業が「realityOS」を商標登録。そしてハードウェア本体を示すと思われる「Reality Pro」なる商標申請も見つかっていました。
今度こそ発表を迎えそうなアップル純正ヘッドセットについて、「本体価格は3000ドル(日本の税込価格であれば約43万円)」「ポケットに入れる外付けバッテリー付き」などの具体的な情報が出てきました。
今回の発信源は、アップルの内部情報に精通するBloombergのMark Gurman記者。遡ること2017年、最初にヘッドセットの噂話をOS名の「rOS(おそらくrealityOSの略称)」込みで伝えたのもGurman氏であり、最も信頼できる情報源の1つではあります。
まずインターフェースについては、iPhoneやiPadなどの多くの機能を含めた「iOSライク」なインターフェースを備えるとのこと。すなわちホーム画面があり、アプリのアイコンを並び替えられ、カスタマイズできるウィジェットもあり。
またMacの外付けディスプレイとして使うこともでき、Mac画面をVRで見つつ、物理キーボードとトラックパッド/マウスで操作もできるそうです。単なる映像出力であれば、Macに繋いだキーボードが使えるのは当然とも思えますが、ヘッドセットを被りながら不自由を感じない仕組みがあるのかもしれません。
そしてヘッドセット内外にある複数のカメラがユーザーの手と目の動きを追跡することが「主要なセールスポイントになる」とのこと。ユーザーは画面上のアイテムを“見て”選択し、(手の)ジェスチャーにより起動もできる。これらの操作に物理コントローラーは必要なく、あらゆることが手ぶらで可能とされています。
さらにAR/VRと冠されるゆえんは、AR(拡張現実)とVR(仮想現実)を自在に行き来できるため。Apple Watchに似たデジタルクラウン(竜頭)を備えており、チャンネルを変えるようにARとVRを切り替えできるようです。
ARモードでは現実世界に仮想オブジェクトを重ね合わせ、VRモードでは装着者の視界が完全にバーチャル環境に囲まれることに。VRからARに切り替えると「コンテンツ(CGによる仮想世界)は消え失せ、ユーザーは現実環境に囲まれた状態になる」と説明されています。要は、いわゆるビデオシースルーモード(外付けカメラにより、ヘッドセットを外さずに周囲を確認できる)を使う模様です。
そしてユーザーの顔の上でオーバーヒートすることを防ぐために、バッテリーパックは外付けに。このヘッドセットはMac並みのプロセッサを積み、しかも96Wもの電源アダプターを同梱すると噂されており、発熱は最も懸念されたことの1つでした。そもそも昨年6月までに発表のはずが延期された理由の1つとして、オーバーヒートの問題が解決できないことが挙げられていたほどです。
外付けバッテリーの大きさはiPhone 14 Pro Maxを2台重ねたほどで、電池の持ちは約2時間。「1つのバッテリーを交換し、別のバッテリーを充電する」ことで長持ちさせられるともあり、充電を待たずにそば方式が使えるのかもしれません。
主な用途の1つはビデオ会議とされており、FaceTimeベースのビデオチャット機能と会議室もあり。装着した人の実際の顔や全身を仮想現実のなかでレンダリングし、リアルなアバターを1対1のチャットで利用できるとのこと。
複数の参加者がいる場合は、ミー文字のようなざっくりしたアイコンが使われる予定とされています。
メガネ着用者にとってありがたいのは、筐体内に収まるカスタム(処方箋)レンズを提供するという点でしょう。またサウンド面ではスピーカーを内蔵しつつもAirPodsと連携できることは、Gurman氏と同じく独自の情報源を持つThe Information報道とも一致しています。
ほか要点を箇条書きしておくと、ざっと次の通りです。
Safari、写真、メール、メッセージ、Apple TV+、Podcastsやカレンダーなどを用意。サードパーティ製アプリを扱うApp Storeも準備中
文字入力は、Siriや近くにあるiPhone、Mac、iPadから可能。空中で指を動かすエアタイピングも開発中だが、発売には間に合わない
VRゲームを動かすための独自エンジンも開発中
第1世代の製品は「アルミニウム、ガラス、クッション」で作られる予定
前面にユーザーの目を外に見せる曲面スクリーンがあり、側面にスピーカーとヘッドセットを頭に固定するヘッドバンドあり
中核機能として「没入型ビデオ視聴」を想定しており、ディズニーやドルビーなどメディア企業とVRコンテンツ開発に取り組んでいる
砂漠や宇宙空間で巨大スクリーンを見ているような体験ができる「ビデオ鑑賞専用機能」が提供予定
ハードウェアとしては4K解像度のマイクロOLEDディスプレイを搭載、10数個のカメラ、虹彩追跡、顔の表情検出などが噂されています。これだけリッチな仕様であれば、日本では40万円の大台に乗るのもやむを得ないとも思われます。
このヘッドセットに興味を持ってもらうために、アップルストアの各店舗には実機のデモや試用ができる専用のエリアが設けられる予定とのことです。
AR/VRデバイスの性質上、魅力をネット越しに言葉や動画のみで伝えるのはかなり厳しく、潜在的なユーザーに「触ってもらう」必要があるはず。新型コロナ禍による行動規制が緩められつつある状況は、追い風となるのかもしれません。