シースルー+変形の万能機「HTC VIVE XR Elite」ハンズオンレポート(西田宗千佳)

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西田宗千佳

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フリーライター/ジャーナリスト

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1971年福井県生まれ。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、ネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。

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HTCの新ヘッドマウント・ディスプレイ「HTC VIVE XR Elite」を実機体験してきた。

▲HTC VIVE XR Elite。奥は「ゴーグルモード」で手前が「グラスモード」。価格は17万9000円

1月のCESで発表されたXR Elite。2月15日まで予約受付中で2月25日から出荷が始まる。価格は17万9000円という、ハイエンド製品だ。

「高いので解散」とか言わないで欲しい。筆者はCESでも短時間経験してきたが、「現状求められる要素をみんな備えた高機能製品」であり、「ほとんどの用途に1台で答えられる万能機」。非常に完成度が高い。

今回はもう少し時間をかけ、じっくりと触ってきたので、その機能を確認していこう。

今のHMDをまずおさらい

実機の話に入る前に、少し前提知識を説明しておきたい。現在のVR用HMDにはいくつかの方向性がある。

1つは、本体だけで動作する「スタンドアローン型」。バッテリーが持つ限り、ケーブルで接続する必要がなく使いやすい。「Meta Quest 2」や「PICO 4」など、最近の主流はこれだ。

次に「PC接続型」。処理はPCで行うため、スタンドアローン型に比べ、高度なグラフィックが楽しめる。ゲームはもちろんだが、「VRChat」などのコミュニケーション系でも処理能力を重視してこちらが使われることもある。HTCの「VIVE Pro」シリーズはこれにあたるし、Shiftall/パナソニックが春に出荷を予定している「MeganeX」もそうだ。Meta Questの場合、PC接続型としても使える。

次に「スマホ接続型」。PC接続ではゲーミングPCの準備が必要でコストがかかるが、スマホならコストも下がる。バッテリーや大規模な処理系をHMDに搭載する必然性が減るので、HMDが軽くなる、という利点もある。HTCの「VIVE Flow」はこのタイプ。CESにシャープが出展した試作HMDは、重量が約175gしかない。ただし、グラフィックの表現力や機能は、ここまで紹介した中で一番劣る傾向にある。

そして最後に、最近出てきたのが「ビデオ・シースルー搭載型」。HMDをかけていると周りが見えづらくなるが、ビデオカメラを搭載して周囲の映像を見せることで、安全性を確保する。さらには、映像とCGを合成し、AR的な体験も可能にしている。この種の製品としては、昨年10月に発売された「Meta Quest Pro」がある。

だいたいこの4方向があるのだが、機能・画質・快適さ・価格はそれぞれで異なっている。万能製品はなく、かろうじてMeta Quest Proが幅広くカバーしている、という感じだろうか。ただし価格は「22万6800円」でかなり高い。




変形+接続で多様な使い方をサポート

さて、前置きが長くなったが、「HTC VIVE XR Elite」は、これらの方向性を「ほぼすべてカバーする」のが最大の特徴だ。

まず以下の写真をご覧いただきたい。HTC VIVE XR Eliteはいわゆるスタンドアローン型のHMDだが、本体からバッテリーを取り外し「グラスモード」にしても使える。

▲グラスモードで折りたたんだ場合
▲上がバッテリーを付けた「ゴーグルモード」で、下が「グラスモード」

後ろに付けたバッテリーはケーブル+アダプターでつながっている構造。頭の後ろで重量バランスを整える役割も果たす。

▲ゴーグルモードで使用中。後ろのバッテリーで重量バランスをとる

バッテリー単体での重量は公開されていないが、バッテリーがついた状態では625g。外すと半分の重さ、とまでは言わないが、軽くなった印象を受ける。

▲グラスモードで利用中。メガネをかけるイメージに近い

動作時間は、バッテリーを付けた状態で約2時間。バッテリー自体を複数用意しておけば、付け替えながら長時間運用も可能だ。

バッテリーを外した場合、メガネ部は折りたたみ可能で、よりコンパクトに収納できる。ホールドするには、顔を軽く抑えるフェイスクッションを使う。バッテリーがあるときに比べ軽くなるが、クッションへのあたりは強くなりやすい。

▲顔への固定にはクッションを使う

クッションの構造上、メガネをかけたまま使うことはできない。だが、近視については視度調整機能がついているので、ある程度補正することができる。乱視は難しい。

▲メガネの併用はできないが、近視なら視度調整で対応できる

グラスモードの時には、基本的にケーブルをつないで使う。ただ、モバイルバッテリーなどを接続して使うこともできるので、この状態でスタンドアローン動作ができない、というわけではない。

同様に、バッテリーを搭載している状態でも、Wi-Fiによる無線、もしくはケーブルで、PCと接続して使える。

またスマホの場合、Androidスマートフォンの画面を表示するディスプレイとしても使える。映像配信はもちろん、Android向けのゲームを大画面で楽しむこともできる。細かい話だが、著作権保護技術のHDCPもサポートしており、DRMがかかったコンテンツを扱う映像配信、例えばDisney+なども表示できる。

すなわちHTC VIVE XR Eliteは、「メガネ型で軽く」も「HMDとしてがっつり」も、「PC接続でハイエンド」にも、そして「スタンドアローンで気軽に」も使える、割と全方位型の構成なのだ。

因みに、標準機能として、PCの画面を3つまでVR空間に表示する「マルチディスプレイ」として使う機能も備わっている。この辺については実際に試すことはできず、「PCにソフトを入れて対応」とだけわかっている。

▲シースルーを生かし、PCやマウスを見つつ、3つまでのマルチディスプレイを空間に表示する機能も搭載予定

また、PCと連携して多画面環境を作るサービスである「Immersed」も、今後HTC VIVE XR Eliteへの対応を準備中である、と開発元がコメントしている。

画質は良好、無線接続はWi-Fi 6Eにも対応

今回の体験では、スタンドアローンでのゲームプレイと、PC接続でのVRChatを試している。

HTCは「VIVEPORT」というストアを持っており、そこでゲームやアプリも供給している。PC VRでは主流のSteamVRにも対応している。そのへんはこれまでの同社プラットフォームと同じだ。

▲VIVEPORTとSteam VRの両方に対応

かぶってみると、画質の良さをまず感じる。

スペック上の解像度は片目1920x1920ピクセル。他の製品と並べて比較はできていないのでコメントしづらいところはあるが、解像感は十分で、ドット感の隙間などもない。視野角は110度で、VR用HMDとしては広め。ただ、レンズが丸いため、視野の端は少し丸く見える。

バッテリーを付けた「ゴーグルモード」では重量バランスがよく、付け心地はかなり軽い。

バッテリーを外した「グラスモード」の場合、やはり少しズレやすい。付属のバンドで留めるか、ソファなどにもたれかかって使う形が良さそうだ。

無線でPCと接続したが、遅延はほとんど感じられず、かなり快適に使えた。画質ももちろん、ほとんど問題を感じられない。

なお、今回のデモではWi-Fi 6・5GHzの環境で使ったが、HTC VIVE XR Elite自体は、日本でも「Wi-Fi 6E」に対応した形で出荷される。

シースルー画質は「スマホの画面も見える」くらい

最後に、シースルーの画質についても触れておこう。

Meta Quest Proはカラーでのビデオシースルーができるが、現状の画質はあまり良くない。立体感はしっかりしているものの、解像度が荒い上、近くは像がモノクロとカラーに分かれたり、歪んだりしやすい。白い部分が白飛びしてしまいやすく、シースルーを介してスマホやPCの画面を見るのは難しい。

それに対し、HTC VIVE XR Eliteのビデオシースルーは、解像感も落ちず、かなり綺麗に見える。スマホを近づけてもちゃんと見えるくらいだ。

▲HTC VIVE XR Eliteのシースルー画面を、レンズ越しに撮影。近づけたスマホの画面も問題なく読めるくらいの品質がある

ただ、歪みなどが皆無、というわけではない。コントローラーが視界に入ると、その周囲が大きく歪む。実はこれ、Quest Proも同じであり、手の位置と視覚の間で矛盾が起きにくいよう、補正しているからであるという。

実は現状、HTC VIVE XR Eliteの「距離センサー」は動いておらず、デモでも「シースルーで表示した空間の中に、正しい立体感を持ってCGの物体が合成される」ものはなかった。これは、今後機能がアップデートしていく中でSDKが用意され、対応することになるのだという。

Quest Proより安価なライバル、日本ではどうなるのか

最後にまとめだ。

全部の機能を試せたわけではないが、HTC VIVE XR Eliteはかなりの万能選手だと思う。今HMDにできることを幅広くカバーし、それに合わせたモードに「変形」して使えるのがポイントだ。

▲上から順に「VIVE Flow」「VIVE XR Elite」「VIVE Pro」
▲「VIVE Flow」(左)、「VIVE XR Elite」(中央)、「VIVE Pro」(右)。サイズ感が大きく変わり、どちらの使い心地もカバーできるのがポイント

機能・価値としては、Meta Quest Proにかなり近い。それでいて、日本での販売価格が5万円近く安い。安価とは言わないが、それだけの価値はある。

アメリカなどでは、MetaがMeta Quest Proの価格を1000ドルまで下げた、というニュースも入ってきている。それだけ彼らも、この製品に危機感を持っているということだろう。日本ではどうなるのだろうか。


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《西田宗千佳》

西田宗千佳

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