ゲームのハードウェアは先進技術や創意工夫の塊であり、特許と切っても切れない縁があります。もちろん、PlayStationを擁するソニーも例外ではありません。
ですが、同社が過去12年間にわたり、特許の出願文書中で競合他社を何故か「他の劣ったメーカー」と呼び続けていることが分かりました。
フロリアン・ミューラー氏は20年以上も特許アナリストを営んでいるベテランであり、テクノロジーと知財について影響力あるFOSS Patents を運営する人物。そのミューラー氏が、最近公開されたソニーの特許をきっかけに興味深い事実を発掘しています。
まず話題になったのは、ゲームから様々なエンターテイメントアプリまで様々な用途に対応する「ユニバーサルコントローラー」特許について。文書では対応機器としてPCやPlayStation製品をあげつつ、最後に「または異なる劣った製造者のホームエンタテインメントシステム」と付け加えています。
ソニーは同じ文書のなかで、「ホームエンタテインメントシステム」をビデオゲーム機と明確に定義しています。つまり、明確にマイクロソフトや任天堂を「他の劣ったメーカー」と呼んでいるも同然ということです。
この部分は単に「ソニーのPlayStationだけでなく他社のゲーム機でも」と示す内容。項目全体を読んでも「Inferior」 (下位 / 劣った)が何を指すのかについて記述がないため、発明の形容としてはなんの意味もなく、ただ「異なる製造者」(他社)と書くべきところ、何の具体的な根拠もなく「劣った」をつけているとしか解釈のしようがありません。
英文は「or a home entertainment system of a different albeit inferior manufacturer.」。「劣った」は明確に「製造者」を形容しています。「劣ったホーム・エンターテインメントシステム」と述べているわけではなく、技術的な優劣についても全く無関係な項目です。
これに先立ち昨年11月、ソニーがブロックチェーン関連特許の出願文書でも「別の劣ったメーカーのもの」と同じような言葉を含めていたことが発見されていました。
ゲーム系サイトでは、最近のソニーとマイクロソフトが各国の独占禁止当局を挟んで激しく対立するアクティビジョン・ブリザード買収と関係があるのではと推測していましたが、ミューラー氏が特許データベースを検索したところ、ソニーが少なくとも12件の特許出願に「別の劣ったメーカー」という言葉を使っていたことが分かりました(「ほんの一例」とのこと)。
もっとも古いものは2011年8月29日に出願されたもので、10年以上にわたってソニーは特許文書の無関係な部分で、競合他社を「別の劣ったメーカー」と呼び続けてきたようです。
こうしたソニーの表現について、ミューラー氏は「どこの特許事務所もこれを止めさせず放置していたことは驚くべき」「特許出願はゲーム機戦争の戦士向けプロパガンダをする場所ではない」とコメント。
他社の技術について、特定の観点から自社の発明に劣ることを説明するのならばともかく、競合他社を具体性もなく「劣ったメーカー」呼ばわりすることは「根拠がなく、愚かで、幼稚で、プロ意識が欠けている」「比較広告をやりたいのなら、別の場所でやればいい。ゲーマーはソニーが特許出願で使った言葉で購入するかどうか決めることはないだろう」とも述べています。
国内でも出願された特許を編集部が調べたところ、同様の表現は国内特許でも「異なるが下位の製造業者の家庭用娯楽システム」と訳していました。
ゲーム機の文脈では、「上位互換・下位互換」的な意味で「下位の~家庭用娯楽システム」という言い方はありえますが、この部分ではそうした説明はなく、「家庭用娯楽システム」ではなく製造業者つまり他の企業について「下位」と述べています。定義は不明。
ソニーは10年以上にわたり特許文書で同じフレーズを使ってきましたが、こうして注目が集まった後も「別の劣ったメーカー」というフレーズを使い続けるのか興味深いところです。