ASUSTeK Computer Inc.(以下ASUS、エイスース)の日本法人ASUS Japan株式会社は、4月21日11時に報道発表を行ない、同社がCESで発表したZenbook、ProArt Studiobook、Vivobookの3つのシリーズから構成される2023年モデルPCの日本展開を発表した。
ASUSは同社本社がある台湾で開催した発表会において、1月のCESでは発表されなかったシークレットモデルとして「ASUS Zenbook S 13 OLED UX5304VA」(以下Zenbook S 13 OLED)を発表した。ASUSは「OLEDファースト」なノートPCの製品化を行なっており、今回発表されたZenbook S 13 OLED以外にも、1月のCESで発表されたモデルの多くもディスプレーがOLEDになっている。
Zenbook S13 OLEDもそうしたコンセプトで開発されたOLED搭載ノートPC製品の1つで、アルミニウムの外装(Aカバー、Dカバー)、2.8K(2800x1800ドット)のOLED、63Whの大容量バッテリーで約14.1時間(JEITA測定法2.0)という長時間バッテリー駆動を実現しながら約1kgという軽量さを実現した、まさに日本市場をターゲットにした製品だ。
過半数の製品がOLEDを採用しているASUS Japanの23年夏モデルラインアップ
ASUS Japanが台湾の台北市北投にあるASUS本社で行なった23年夏モデルの発表会では、非常に多くの製品が一挙に公開された。発表された製品のほとんどは、既に23年1月にCESでASUSがグローバルに発表したモデルで、薄型軽量ハイエンドモデルとなるZenbookシリーズ、クリエイター向けのノートPCとなるProArt Studiobook シリーズ、薄型軽量の普及価格帯モデルとなるVivobookシリーズがそれぞれ発表されている。それぞれのシリーズで、以下のような製品が発表されている。
この表を見ていて気がつくことは、ASUSの製品にはOLED(Organic Light Emitting Diode、オーレッド)、つまり有機EL素子を利用したディスプレーが過半を占めているということだ。Zenbookシリーズでは9製品中7製品、ProArt Studiobook シリーズでは2製品中2製品とも、Vivobookシリーズでは19製品中8製品となっており、全くの新製品となるZenbook S13 OLED を加えると30製品中15製品とまさに過半数がOLEDになっていることがわかる。
OLEDとは有機ELと呼ばれる自己発光が可能な素子を利用したディスプレーで、従来型のTFT液晶では必要だった裏側から光を照らすバックライトが必要なくなるため、最適化が進むとTFT液晶よりも低消費電力を実現できる(ただし、現状ではさまざまな最適化の途上であり、液晶よりも消費電力が多くなったりする場合もある、OSでダークモードの利用が進み、黒を表示する場合には電力をほとんど食わないOLEDの特徴を活かせるようになると、現在よりも消費電力を削減できると考えられている)。また、より広い色域をサポートすることが可能で、より明るく鮮明な表示が可能なことも特徴の一つだ。
他社に比べていち早くOLEDの本格採用にかじを切ったASUS、今はOLED採用ノートPCの市場リーダーに
こうしたOLEDはまずスマートフォンで採用が始まった。というのも、スマートフォン用の5~7型程度の小さなディスプレーでは歩留まり(良品率のこと)がよく、より低コストで大量に生産できるからだ。それに対して13~17型程度とやや大きめになっているノートPCのディスプレー用OLEDはスマートフォン用に比べると歩留まりが悪く、製造にコストがかかり、かつ生産量も大幅に増やせないため、PCメーカーが調達する部品の価格にはプレミアム(コモディティ製品との価格差のこと)が乗ってしまう。高いからPCメーカーは採用したがらない、あまりPCメーカーが買ってくれないからPC用のサイズのOLEDをパネルメーカーはあまり作らない、という悪循環でPC用のOLEDパネルの価格は高止まりしている、というのがコロナ禍前の状況だった。
その状況を変えたのが、ASUSだ。ASUSはコロナ禍になった頃からOLEDを採用した製品を増やし始めた。そうすると、パネルメーカーも数をまとまって買ってくるメーカーに向けては価格を下げられるし、購買してくれる数が期待できるなら生産数も増やす……ASUSのようなシェアで世界5位のメーカーが本格的に採用したことで、OLEDの普及に向けて好循環が始まったのだ。
特に特徴的だったのは、普及価格帯のモデル、さらに言えば比較的低価格の製品に採用を始めたこと。従来のOLEDを採用したノートPCは、ハイエンドモデルで4Kとかの高解像度のパネルが、CTOの選択肢として採用できるという形だった。しかし、2021年に発売された「Zenbook 13 OLED」などでは、1920x1080ドット(FHD)のような一般的な解像度のOLEDが採用され、店頭モデルで10万円台半ばという比較的低価格でOLEDを搭載したノートPCが買えるようになった。
特に日本では店頭モデルにOLEDを採用することは大きな意味がある。というのも、日本では依然としてメーカーの直販よりも、ヨドバシカメラやビックカメラのような小売店店頭での販売が大きなシェアを占めているのだが、そうした店頭では、ディスプレーの見栄えは購入時の最後の決め手になる。同じような価格帯のPCで、OLEDと液晶が並んでいて、OLEDの方が明るくて鮮明という画質を確認したら、普通はOLEDを購入するだろう。そうしたことが店頭で起きることになるため、ASUSにとって普及価格帯のモデルも含めてOLEDを採用したことは大きな意味があったのだ。
実際、そうしたOLEDを採用したノートPCの市場で、日本で市場シェア1位だとASUSは説明する。ASUSがそうしたシェアを獲得できたのも、今回発表したラインアップからも明らかなように、多くのモデルでOLEDを採用したためだろう。
Uシリーズの第13世代Coreを採用し、プラズマ電解酸化処理が施されたアルミニウムを天板に採用したZenbook S 13 OLED
そうしたOLEDに賭けるASUSが満を持して投入するのが、「ASUS Zenbook S 13 OLED UX5304VA」(以下Zenbook S 13 OLED)だ。今回発表されたZenbook S 13 OLEDは、昨年発表された「ASUS Zenbook S 13 OLED UM5302TA」の後継となる製品だが、CPUはAMDからIntelに変更になるなど内部のコンポーネントも、外装も大きく変更されている。
実はASUSの22年モデルには「Zenbook 13 OLED UX325EA」という「S」がつかない製品もあり、こちらは第11世代Coreプロセッサー(Core i7-1165G7/i5-1135G7)を採用していた。ただし、UX325EAはパネルが13.3型FHD(1920x1080ドット)で、22年モデルのASUS Zenbook S 13 OLEDの方は13.3型2.8K(2800x1800ドット)になっていた。
今回発表された新しいZenbook S 13 OLEDは後者のパネルを採用しているので、イメージとしてはUX325EAからはCPUのメーカーを引き継ぎ、パネルはUM5302TAを引き継いだという形になる。今年のモデルにはZenbook 13 OLED(FHDの13.3型OLED)の製品はないので、Zenbook S 13 OLEDが両方の役割を担っている、そう考えて良いだろう。
新しいZenbook S 13 OLEDだが、CPUはIntelの第13世代Coreプロセッサー(Core i7-1355U/i5-1335U)を採用している。このCore i7-1355U/i5-1335Uは、Uシリーズと呼ばれるTDPが15Wに設定されているシリーズで、ノートPC用の第13世代Core(HX、H、P、Uの四つのシリーズがある)のうち、最も消費電力が低い方になる。第13世代Coreは、キャッシュ構造の見直しなどが行なわれており、従来の第12世代Coreに比較して約10%性能が向上していることが特徴になる。
新しいZenbook S 13 OLEDのもう一つの特徴は、外装が新しくなっていることだ。Aカバー(ディスプレー天板)とDカバーにはアルミニウム素材が利用されているのだが、Aカバーにはプラズマ電解酸化処理が施されており、アルミニウムの冷たい感じの手触りではなく、滑らかな手触りになっている。ASUSによれば耐摩耗性も上がっているとのことで、通常のアルミニウムを塗装した場合よりも色がはげるなどを避けられるという。実際に現地で実機に触ってみたところ、確かに手触りは心地よく快適だった。
なお、Aカバーも、Dカバーもアルミニウム素材になっていることで、軽量なノートPCにありがちなAカバーとDカバーを強化プラスチックになっている場合に比べると高い堅牢性を実現している。米国国防総省「MIL-STD-810H」のテストも通過しており、外にもっていって使う場合にも安心して利用できるのはうれしいところだ。
大容量バッテリーを搭載しながら1kgを切るというパッケージングを実現しながら16万弱とコスパは最強に
今回発表されたZenbook S 13の最大の特徴は、63Whという通常の13型級のノートPCに比べて10~20Wh程度容量の大きなサイズのバッテリーを搭載していて、天板と底面にアルミニウムというカーボンや強化プラスチックに比べて重量は増えるが剛性が高い素材を採用していながら、1kgという軽量さを実現していることだ。
例えば、同じアルミニウムを採用した素材で13型級でと考えると、AppleのMacbook Air(M2)が約1.24kg(52.6Wh)、Macbook Pro(M2)が約1.4kg(58.2Wh)、DellのXPS 13 Plusが約1.23kg(55Wh)、HP Dragonfly G3が約1kg(45Wh)に比べると、63Whという大容量のバッテリーを搭載していながら約1kgというZenbook S 13の軽量さは際立っている。もちろん、ボディーが強化プラスチックでよければもう少し軽い製品もあるが、それは堅牢性とのトレードオフだということを考えると、アルミニウム素材のボディーと63Whという大容量バッテリーを搭載していながら約1kgというZenbook S 13のパッケージングは高度にバランスが取れていると考えられる。
ASUSが公開した資料によれば、新しいZenbook S 13のバッテリー駆動時間はJEITA測定法 2.0で約14.1時間が公称値となっている。第12世代Core、第13世代Coreを搭載したノートPCではより長いバッテリー駆動時間を実現している製品もあるが、それはディスプレーがFHD(1920x1080ドット)などのあまり高解像度ではなく、かつ低消費電力ではあるが明るさや繊細さなどではOLEDに劣る液晶ディスプレーを搭載して計測されている場合がほとんどだ。Zenbook S 13のように、OLEDで2.8Kという明るく、かつ高精細というディスプレーを搭載していながらJEITA測定法 2.0で14.1時間というのはかなり健闘している結果と言っていいだろう。
JEITA測定法 2.0はおおむね半分ぐらいの時間が実環境での利用時間となるので、7時間程度はバッテリーで利用できると考えられる。7時間バッテリーで利用できれば、例えばカンファレンスでメモをとるなどに使う場合でも、午前中3時間(9時~お昼)、午後4時間(13時~17時)使えると考えれば、実質的に1日バッテリーで利用できる計算になる。これまで、OLEDをディスプレーとして選択すると、バッテリー駆動時間はもっと短くなっていたことを考えると、このことはZenbook S 13の見逃せない長所と言える。
最後に本日より販売が開始される4つのモデルについて触れておこう。今回発表されたZenbook S 13 OLEDには4モデルが用意されており、違いはCPUのグレード(Core i7かCore i5か)と、付属しているオフィスアプリケーションがMicrosoft Office Home and Business 2021かWPS Office 2 Standard Edition(3製品共通ライセンス付)かになる。既にオフィスアプリはMicrosoft 365のサブスクリプションなどを契約しているという場合にはWPS Office 2 Standard Editionのモデルを選択すれば良いということになるので、Core i5とWPS Office 2を選ぶと159,800円になる。
明るく高精細な13.3型の2,8K OLEDのディスプレーを搭載して、アルミニウムの外装で堅牢性も確保されており、JEITA測定法 2.0で約14.1時間(実環境で半分の約7時間と想定される)バッテリー駆動が可能な大容量バッテリーを搭載していながら約1kgという軽量さを実現したノートPCを買える。このコスパはハッキリ言って現時点では最強と言って良いのではないだろうか。