現在のスマートフォンにおいてタッチパネルは標準のインタフェースとなっていますが、物理的なキーボード体験を再現できているとは到底いえません。オンスクリーンキーボードを表示して、1つずつキーを押すたびに小型モーターを振動させて「押した」感覚は与えられるものの、フルキーを備えたキーボードのタイプ感とはほど遠いもの。
そうした問題意識から、米カーネギーメロン大学の未来インタフェースグループ(Future Interfaces Group)は、スマートフォンの有機ELパネルに実際の凸凹を作り、物理的に打鍵できるキーボードを形成する研究成果を発表しました。
コンピュータ製品に備わったインタフェースを、あたかも別の入力機器のように振る舞わせる試みは過去にも繰り返し行われてきました。たとえば10年以上前、iPhone向けに画面にかぶせてクリック感を出す「4iThumbs Keyboard」が出展されたことや、PC用キーボードにかぶせて鍵盤楽器やドラムパッドのように操作できる突起付きハードカバーの研究が発表されたこともあります。
どちらも着ぐるみ的な発想であり、そのハードなりインタフェースに特化した一点ものでした。前者はiPhoneの縦置き時と横置き時に別々のアタッチメントを使い分ける力づくの製品であり、後者のハードカバーも特定キーボード向けのワンオフ品で、とても汎用性があるとは言えません。なにより、本体とは別にアタッチメントを持ち歩く必要がありました。
さて、先日発表された「フラットパネル・ハプティクス:スケーラブル形状ディスプレイのための埋め込み型電気浸透ポンプ」なる研究は、薄いパネルに感圧センサーと触覚フィードバックを組み込み、スマートフォンの有機ELパネルの背面に置くというもの。
従来の触覚タッチが圧力を感知すると振動を返すに過ぎないのに対して、こちらは「ディスプレイの特定箇所を、超小型の電気浸透圧ポンプにより物理的に盛り上げる」ことが大きな違いです。
この技術は、画面を押すと物理的にその箇所がポップアップするほか、物理的なキーボードを形づくることもできます。1つひとつのボタンは萎むことなく、そのモードが続く限り、ディスプレイ上で膨らんだままです。
この研究ではキーボードのほか、電源ボタンや音楽プレイヤーの再生ボタンといった「小さな領域内で凹凸があり、少し複雑な形状が作れる」ことも実証。各ポンプは個別に制御されているため、細やかな膨らみも調整できるようです。
また凸凹は2mmの小ささに収まっており、有機ELパネルの下に仕込んでも無理はなく、またパネルを膨らませすぎて破損する恐れも少ないようです。現在、この技術の権利はカーネギーメロン大学が所有しており、今後はスマホやノートPCメーカーにライセンス供与される可能性もありそうです。
各社とも数ミリの厚みを削ることを競い合うスマートフォンはさておき、厚みに余裕ある2画面ノートPCでは採用されると期待が持てるかもしれません。
数年前、Lenovoはキーボードを完全タッチパネル化して触覚フィードバックを組み込んだ2in1タブレット「Yoga Book」を送り出して話題となっていましたが、この技術を使って復活を願うユーザーも少なくないでしょう。
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