50億年後の太陽系?恒星が惑星を飲み込み、急激に増光する現象を初めて観測

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Munenori Taniguchi

Munenori Taniguchi

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マサチューセッツ工科大学ケンブリッジ校の天文学者Kishalay De氏をはじめとする研究グループが、老化し膨張する恒星が、木星大のガス惑星を飲み込む様子を初めて観測したと発表しました。

銀河系内約1万2000光年の彼方にあるZTF SLRN-2020と呼ばれるこの恒星は、主系列星の寿命の終わりを迎えて膨張を始めており、そう遠くない将来に、最も内側を公転する惑星を飲み込むであろうことが予想されていました。

最初の手がかりは、全米科学財団が資金提供し、カリフォルニア州のパロマー天文台で運用されているツヴィッキーサーベイ(ZTF)による観測でこの現象を初めて直接観測し、この星が1週間ほどの間に急激に明るくなり、そして暗くなったことがわかったことでした。

当初、この明るさの変化は、白色矮星が伴星からのガスなどを取り込み、一定の条件を迎えたときにその表面のガスが爆散する新星爆発と呼ばれる現象と思われていました。ところが、ハワイのマウナケア山頂にあるW.M.ケック天文台を用いた継続的な観測によって、まったく異なる現象であることが判明。

当時、カリフォルニア工科大学の大学院生だったDe氏は、後にMITに移り、この天体の観測を再開しました。そして赤外線による観測データを調べたところ、ZTFで観測した光だけでなく、赤外線も強さを増していることが判明。これは恒星の周囲に塵が増加していることを示しています。

研究者らは、この謎を詳しく調べるためNASAの赤外線観測衛星NEOWISEのデータをくまなく調べ続け、ZTFが急激な明るさの変化を検出する9カ月ほど間から、赤外線の強さが増していたことを発見しました。

これは恒星が老化して、その膨張によって最も近い公転軌道を持つ惑星に接近し、互いの距離が触れるほどに接近したときに惑星が恒星表面のガスをすくい取るように引き剥がし、それが宇宙空間で冷やされて塵となったと考えられます。さらに事態が進行すると、今度は惑星の物質が宇宙空間に吹き飛ばされるようになり、やはり塵になっていたと考えられます。

そして、ついに惑星が恒星の表面から飲み込まれたとき、恒星全体に惑星が抱えていたエネルギーが伝わり、恒星の表面層を爆発のように吹き飛ばしました。そのとき、恒星は非常に膨張して明るくなり、それをZTFが捉えていた、と説明しています。またこのとき吹き飛ばされた表面の物質も、やはり恒星周囲の塵になりました。NEOWISEは赤外線でこの塵を観測しています。

恒星による惑星の吸収は、2つの恒星の融合によって生じるとされる、高輝度赤色新星と呼ばれる現象に似ています。赤色新星とは、2つ1組の恒星で形成される連星のうち、一方の恒星の寿命が伴星よりも短く、膨張しはじめ、やがて伴星を飲み込んでしまう現象のこと。このような星の合体現象は、ZTFをはじめその他の観測装置によって、過去に20件ほど観測されており、そのほとんどが天の川銀河以外で発見されています。

一方で、恒星系内の惑星飲み込み現象は、天の川銀河全体で年に数回程度しか発生しないと推定されています。過去には、その現象の余波とみられる現象が確認されていましたが、現象そのものが観測されたのはこれが初めてだということです。

我々に恵みの光を与えてくれている太陽も、約50億年先には今回の現象と同じように膨張し、いつか地球を飲み込むと考えられています。研究チームが見たのは、(あまり想像したくはないものの)そんなはるか未来の太陽系の姿とも言えそうです。


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