音楽ストリーミングのSpotifyが、AIで製作された楽曲数万曲の配信を停止し、削除したとFinancial Timesが報じています。
削除されたのは、AIスタートアップBoomyの作曲サービスで生成された楽曲。Boomyのサービスでは、ラップやローファイ・ヒップホップなどの音楽を簡単に作ることができ、ユーザーはSpotifyのようなストリーミングサービスに、Boomyで生成した楽曲を公開して、再生数に応じたロイヤリティ収入を得ることができます。またBoomyは楽曲のストリーミングサービスでの公開をサポートしており、対価としてユーザーのロイヤリティ収入から手数料を徴収しています。
Boomyはそのウェブサイトで、2021年に開始したばかりのサービスでありながら、世界中の録音楽曲の14%に相当する1450万曲を生み出したと主張しています。削除されたのは数万曲にのぼるものの、Boomyの数字が正しければ、それでも全体のわずかな数です。
今回 Spotifyが楽曲を削除した理由は「AIで作られた楽曲だから」ではありません。Financial Timesによれば、Boomyで生成された楽曲に関して、ユニバーサルミュージックが各音楽ストリーミングサービスに対し「不審な動き」があると警告しており、削除はこれが発端になったとのことです。つまり、今回の削除はAI云々というよりは、ボットを使った再生回数の水増しが問題視された動きです。
とはいえ、ユニバーサルミュージックのルシアン・グレインジCEOは先週、投資家に対して「最近のジェネレーティブAIの爆発的な発達は、放っておくとプラットフォーム上に望ましくないコンテンツを溢れかえらせ、既存の著作権法に絡む権利問題も生じるだろう」と語っていました。また、ユニバーサルミュージックはSpotifyやApple Musicなどに対して、BoomyのようなAIサービスが、著作権で保護されている楽曲でAIを学習させないよう求める書簡を送付しています。
音楽ストリーミングサービスにおける再生回数の水増しに関しては、以前よりボットを扱う業者が存在しています。たとえば検索エンジンで buy spotify streams などと検索すれば、それらしいウェブサイトがヒットするのが見られます。あるサイトでは約7ドルで「1000再生」を購入可能です。
Spotifyは削除に関して「人工的なストリーミング(の水増し)は、Spotifyがサービス全体で根絶に取り組んでいることであり、業界全体にとっても長年の問題です」とコメントしています。そして「われわれは、ストリーム操作の潜在的なケースを特定したり、警告を受けたりした場合、ストリーミング番号の削除やロイヤリティの支払い保留を含む措置を取ることによって、その影響を緩和します」としました。
Spotifyのダニエル・エクCEOは先月、音楽業界はAIによる楽曲生成に「真っ当な懸念」を持っていると述べ、サービスとしてクリエイターを保護しつつ、プラットフォームとしてのイノベーションも受け入れられる立場を確立したいと述べていました。またSpotifyは2月に、ユーザーの再生履歴をAIを用いて分析し、その結果として選出したおすすめ曲にAI生成の音声解説やナレーションを付けて提案する「AI DJ」サービスの開始を発表しています。
ちなみに、BoomyとSpotifyは、削除された楽曲の再公開について協議中とのこと。Boomyは「いかなる種類の不正な操作や再生にも断固として反対しており、われわれは業界パートナーと協力してこの問題に取り組んでいる」と述べています。