290円プランで話題のHISモバイルが20GB+かけ放題『自由自在スーパープラン』、海外向け『Trip SIM』投入の狙い (石野純也)

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石野純也

石野純也

ケータイライター/ジャーナリスト

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慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行う。ケータイ業界が主な取材テーマ。

特集

旅行会社HISが設立したMVNOのHISモバイルが新料金プランを発表しました。強化したのは、「中容量」と「海外」です。HISモバイルは、100MB未満の場合、月額290円になる「自由自在290プラン」を展開。小容量プランは、その料金の安さから好評を博していました。

100MBを超えても、1GBで550円、3GBで770円、7GBでも990円と、その料金の安さが光ります。HISモバイルに回線を提供しているのは、ドコモのMVNOである日本通信。同社は、ドコモとの交渉で音声通話の卸価格を原価レベルまで下げることに成功しているため、そこから回線を借りるHISモバイルの通話料も30秒9円とリーズナブルです。

2022年導入の自由自在プランはその価格が評価され、契約者数を伸ばしていたそうですが、HISモバイルのユーザーが選ぶ料金プランを見ると、7GB以下に大幅な偏りがありました。

同社の代表取締役社長、猪腰英知氏によると、実に全ユーザーの95%が7GB以下のプランに集中していると言います。HISモバイルは20GBや50GBといった中容量プランも展開していましたが、それを選ぶユーザーはわずか5%未満です。

▲ユーザーの契約するプランは7GB以下の小容量に大きく偏っていた

データトラフィックは年1.2倍から1.3のペースで増加しているなか、HISモバイルのユーザーだけは小容量のプランにとどまっていたというわけです。

一方で、業界動向を見ると中容量プランは人気。ドコモのahamoはその代表格ですが、UQ mobileも対抗プランとして「コミコミプラン」をローンチしたばかりです。

▲モバイル業界では、中容量プランの競争が激化している

では、なぜHISモバイルを選ぶユーザーが少なかったのか。猪腰社長は、端的に言って料金プランに魅力がなかったからだと分析します。

HISモバイルの20GBプランは、データ容量こそ20GBでしたが、5Gには未対応。ahamoと条件をそろえるために5分かけ放題オプションをつけると2740円になってしまい、2970円のahamoと大差がなくなっていました。この差で、あえてMVNOを選ぶ人は少ないでしょう。

▲ahamoに対して魅力に欠けていたHISモバイルの旧20GBプラン

こうした反省を踏まえ、HISモバイルは20GBプランを「自由自在スーパープラン」に改定。データ容量20GBと5分かけ放題をセットにして、料金は2190円まで抑えました。

音声通話の準定額をセットにしてahamoやUQ mobileなどと同じ土俵に乗り、その上で料金を引き下げたと言えるでしょう。安価ではありますが、小容量プランよりは高いため、このプランを選ぶユーザーが増えれば、HISモバイルの収益性も高まります。

▲5分かけ放題をセットにしつつ、料金を大きく値下げし、大手キャリアの20GBプランに対抗していく構えだ

中容量プランとは別に、もう1つ強化したのが海外向けの料金です。HISモバイルは、旅行会社が作ったMVNOなだけに、参入当初は海外用SIMカードを全面に打ち出していました。SIMカードの上にICチップを貼り付ける「変なSIM」がそれです。ややトリッキーな仕組みではありましたが、HISモバイルらしい料金プランではありました。

一方、コロナ禍の渡航制限によって海外旅行客はゼロに近いレベルまで減少。海外用料金プランというサービス自体のニーズもなくなっていました。元々、国内向けの料金プランに傾注し始めていたHISモバイルですが、コロナ禍をきっかけに、先に挙げた変なSIMの展開も終了させていました。

そんな渡航制限も終了し、5月からは、コロナ前とほぼ同じ手続きだけで海外に行けるようになりました。PCR検査はもちろん、ワクチン接種証明書も事前の検疫も必要ありません。何なら、この原稿も海外渡航中に書いています(笑)。実際、海外旅行のニーズは急増。空港が人であふれかえる事態に。海外渡航に関しても、コロナ禍前に戻りつつあると言えるでしょう。

▲海外渡航者もコロナ禍前に戻りつつある

このような中、HISモバイルは海外用のサービスの「Trip SIM」を新たに立ち上げます。料金は1日あたり429円から。

国や地域によって金額は異なりますが、一例として挙げていたアメリカでは1日500MBだと668円、1日1GBだと774円になり、日数が長いほど料金は安くなります。1日500MBの場合、1日だと668円ですが、2日だと879円、3日だと1054円と1日あたりの金額は安くなります。

▲新たな海外向けサービスとしてTrip SIMを導入する
▲料金は1日あたりのデータ容量と日数の掛け合わせで決まる

コロナ禍の最中に普及が進んだeSIMからスタートするのも、Trip SIMの特徴と言えるでしょう。物理SIMも7月以降に導入予定とのことですが、やはり思い立ったらすぐに契約できるeSIMの方が何かと使い勝手が良いはずです。HISモバイルのユーザーは約22%がすでにeSIMを利用しており、そことの相性も良いと言えそうです。

▲HISモバイルのユーザーはeSIMの利用率が高いこともあり、eSIMから展開するTrip SIMとの相性も良い

MVNOの回線は、一般的に国際ローミングのデータ通信には対応していません。大手キャリアから移り、海外に行ってみて初めて使えないことに気づくという例もあります。自社サービスとしてきちんと海外用料金プランを用意しているMVNOが少ない中、Trip SIMはHISモバイルならではの差別化ポイントになりそうです。

一方で、現時点ではオンラインでの展開が中心。HISの店舗に行って購入できるというわけではないようです。通常の回線とは違い、海外旅行に紐づいたサービスなだけに、旅行プランの購入と同時に契約できてもいいのでは……と感じました。

HISは海外にも拠点があるため、回線に困ったときの駆け込み寺にもなりそう。今後は、売り方のアップデートにも期待したいところです。


《石野純也》
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慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行う。ケータイ業界が主な取材テーマ。

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