デューク大学やハーバード大学医学大学院の研究チームが、老齢のマウスに若いマウスの血管を常時接続させると、老マウスの寿命が延びる効果があることを確認しました。
近年の研究では、若いマウスから老齢のマウスに血液を輸血することで、神経機能の向上、アルツハイマーなどの病気の進行の遅延といった効果があることが示されています。ならば、いっそのこと若いマウスとのあいだで常に血液を行き来させられるようにすれば、どのような効果がもたらされるのかと研究者は考えました。
2体の血管を繋ぐ処置は異時性並体結合と呼ばれるものでたとえばアルツハイマー病の発症に関する研究で使用されたりしています。そして、老マウスの側からみれば、この処置によって若いマウスの血液だけでなく肺、免疫系、心臓、肝臓と腎臓といった循環系全体をも拝借することが可能になります。
研究では、この措置を施したあと12週間をかけてその健康状態を観察しました。これはマウスの寿命における10%の長さにあたるとのこと。人間に例えるならば、50歳の人が18歳の人とペアを組み、血液循環系を8年にわたって共有したことに相当します。そして両マウスは元の状態に分離され、効果が持続するかも調べました。
その結果、まさに「若者の生き血」を享受する立場にあった老マウスは、つながっている間は明らかに他の同世代マウスより健康的でした。寿命延長効果に関して言えば、平均して6~9%の延命効果になりましたが、それよりも血液と肝臓組織において生物学的な年齢が劇的に低下し、遺伝子発現には、カロリー制限時に見られるようなアンチエイジングのパターンが現れたとのことです。
また分離後2か月の観察期間においても、老マウスは一部の若返り効果を(薄まりつつはあるものの)持続していたことがわかりました。一方、若いマウスのほうも老マウスから受け取った機能的な低下を抱えていたものの、分離後は短い期間でもとの状態に回復しました。
研究者らは、これらの効果を起こしているのがなんなのを突き止めていません。研究の筆頭著者であるジェームズ・ホワイト氏は、「それがタンパク質に寄るのか、代謝におけるなにかなのか、若いマウスからの細胞かなにかなのか」わからないとし、さらに「若いマウスが単純に老マウスからの血液における老化促進要素を中和しているのかも含めて、今後調べていきたい」と述べています。
ちなみに、老齢マウスに若いマウスの血液を注入し、その若返り効果を調べる研究は以前から比較的盛んに行われています。その多くは実際に若返り効果の発現を確認していますが、若い血液のどの成分がこれらの若返り効果をもたらすかなどは、いまだ明確にはなっていません。
また2019年ごろには、米国の実業家など富裕層のあいだで、若者ドナーの血漿を体内注入することで、老化だけでなく認知症や心臓病、パーキンソン病、多発性硬化症、アルツハイマー病、心的外傷後ストレス障害に至るまで広範な予防および治療効果があるのふれ込みで「血漿注入治療」と呼ばれる行為がもてはやされたことがありました。しかし米食品医薬品局(FDA)は人体における血漿の注入に「臨床効果は証明されておらず、血漿製品の使用に伴うアレルギー反応や循環過負荷、肺損傷、感染症の伝播といったリスクがある」と警告を発しています。