2023年10月中旬にドバイで開催されたGITEX 2023を取材しました。中東最大のIT関連イベントですが、アラブ各国に加え近場のインドやアフリカなどからも様々な企業が出展。その中で気になったのがパキスタンのスマートフォンメーカーです。
パキスタンの人口は、日本の外務省によると2021年時点で約2億3000万人。中国、インド、アメリカ、インドネシアに次ぐ人口世界第5位の国です。それだけスマートフォンの国内需要も高いのでしょう。でもそうであれば海外から安いスマートフォンを輸入すれば済むこと。
しかしパキスタン政府は国内産業保護のために、海外からの輸入スマートフォンには関税をかけています。これはインドも同等で、自国生産以外のスマートフォンを高額にすることで、国内メーカーを発展させようとしています。現地メディアによると、現時点でパキスタンで売られているスマートフォンの80%がMade in パキスタンであるとのこと。
GITEX 2023に出展していたINOVIというメーカーはOEM/ODM生産を行っており、相手先ブランドで製品を製造。ブースに展示されていたスマートフォンは自社ブランドのものではありません。
同社が製造するのは中国TranssionグループのInfinixのスマートフォンです。Infinixはインドやアフリカで人気の高いメーカーであり、パキスタンでも販売されています。この写真の「HOT 30i」はUNISOC T606に1300万画素カメラのエントリーモデルですが価格は1万5000円程度。売れ筋モデルと言えます。
前述したようにインドは輸入スマートフォンに関税をかけているためパキスタン製のInfinixが輸入されることはありませんが、アフリカへならば今後可能性はあるでしょう。日本人が知らぬ間にMade in パキスタンのスマートフォンが徐々に海外で売られるようになっているかもしれません。
特筆すべきは、パキスタンにも大手メーカーのスマートフォン品質の製品を製造できるだけのメーカーがすでにあることです。実はサムスンもすでにパキスタンでのスマートフォン製造を始めています。さすがにサムスンとなると自社工場と思われますが、それでも現地の人を雇いグローバル品質の製品を日々製造しているわけです。他にもシャオミなど中国メーカーも現地生産を行っています。こちらはこのINOVA同様、現地メーカーによるOEM生産でしょう。
さてGITEX 2023にはパキスタンメーカーとして自らのブランドで製品を展開しているDIGITも出展していました。ちなみにINOVAもDIGITもブースは小さいのですが、GITEX 2023会場内でも無料で出展できる通路エリアにブースを出していました。パキスタンの関係部門がこのエリアを借り切ったのでしょう。
DIGITのスマートフォンもエントリークラスのものが中心で、価格は日本円で2万円以下のものが主力とのこと。現地のECサイトを見ると1万円クラスの製品もいくつかあるようです。とはいえGITEX 2023に出展しているということは当然のことながら販売先をパキスタン以外にも広げようとしているわけで、実際にブースにはアフリカ系のバイヤーの姿が立ち寄る姿も見られました。
筆者はそんな商談の邪魔にならぬよう、この知られざる「謎」メーカーの製品をしばらく試させてもらいました。品質はまだ大手メーカーレベルには達していないものの価格の安さは魅力で、ノーブランド品ではありませんからメーカー保証もしっかりしているでしょう。新興国からの一定の引き合いはありそうです。
スマートフォンだけではなくフィーチャーフォンも展示されていました。中身はAndroidで動く、いわゆるガラホタイプの製品です。さすがに今の時代、SNSアプリは必須でしょうし、モバイルペイメントもQRコード決済が普及し始めています。通話とショートメッセージだけのフィーチャーフォンでは、ノーブランドの激安モデルにさえ勝てないでしょう。
特徴は大容量バッテリーと大型スピーカーの搭載。夜になれば家の庭や広場で音楽を流してみんなで踊る、なんてパキスタンのどこかの都市の光景がこの端末を通して見えてきます。
欧米以外の展示会ではこのように無名なメーカーがスマートフォンを出展していることもあるのです。新興国のスマートフォン需要はこれから伸びていきますから、今後はグローバルで無名なメーカーもアフリカなどで一定のシェアを取るような時代になっていくのでしょう。
この記事は、テクノコアが運営するメディア「技術の手帖」掲載の記事をテクノエッジ編集部にて編集し、転載したものです。