CES 2024でのソニーの発表は、様々なジャンルにおけるクリエイター向け製品、サービスなどのショーケースで、新製品よりも昨年までの取り組みを前に進め、より成熟した様子を見せることに主眼が置かれていた。
たとえば英マンチェスターシティと取り組んでいるファンダムサービスは、ウィンブルドンの自動判定システムなどでもお馴染みのホークアイを応用し、ファン向けサービスをメタバース空間で提供するものだが、昨年よりも確実に進歩していた。
それらについても別途、触れる機会を設けたいが、今回は”表の展示”にはなかった「没入型空間コンテンツ制作システム」用のMixed Reality機能を持つHMDについてレポートしたい。
このシステムは一般向けに販売される製品ではないが、その実力は極めて素晴らしい。メガネを使っている筆者からすると、肉眼よりも明瞭に表示される。この製品がもたらす鮮度の高い体験は、近未来のHMDのベンチマークとなる得るものだった。
55 PPDの解像度と高いコントラストがもたらす鮮烈な表示
新しく開発されたヘッドマウントディスプレイ(HMD)は、ソニーセミコンダクターが開発した1.3インチ4K解像度(3552×3840画素)マイクロOLEDを用いたもの。このパネルは一昨年末に技術サンプルとして披露されていたが、昨年夏に製品として発表された「ECX344A」だ。
コントラスト比は10万対1、DCI-P3の96%を再現できる高い忠実度を誇る。さらに20%デューティで発光させてもHDR表現に十分な1000カンデラの高輝度、最大90Hzのリフレッシュレートを持つため極めて残像感が低く、動きの中でも明瞭な映像をもたらすことができる。
一昨年末のデモでは、そのあまりの明瞭さに度肝を抜かれたものだが、このパネルはApple Vision Proが採用しているものと同じだと考えられる(なお公式にはどのパネルが使われているか発表されていない)。
システムとしての特徴は後述するが、このデバイスを試作製品に組み込んだものを体験するのはApple Vision Proに次いで二つ目。そこでその時の記憶を遡りながら、次世代HMDのベンチマークとも言える体験をお伝えしたい。
なおソニー製の新MR HMDは詳細なスペックがまだ発表されておらず、体験デモでもカメラを用いたMRデモは行われていない。FOV(有効視野角)についても非公開だ。
しかし体感的に言えば、Vision Proよりも明らかに狭い。実はこの少し狭目のFOVが鮮烈な表示体験をもたらしている。FOVが狭いことで画角あたりの画素数が多くなるためだ。具体的には55 PPD(1度あたりの画素数)以上になると言う。
高精細大型ディスプレイを超える体験の質
実際には光学系の設計の違いもあるが、コントラストの高さや鮮やかさ、リニアリティの高さ、メッシュ感のない高精細表示はVision Proと同じだが、細かな文字やテクスチャの凝縮感はより高いと感じる。
MRデバイスだけに自分が動いて近づき、細かなディテールを観察できるため、表示部との距離感、表示サイズなどにもよるが、高精細な大型ディスプレイを超える体験の質が得られることは確かだ。
サンプル価格の1枚15万円というパネルコストは、あくまでサンプル価格のため製品価格にダイレクトに反映されるものではない。一般コンシューマ向け製品に採用していく際の大きなハードルにはなるだろうが、Vision Proを含めて量産製品が出荷されることにより、工業製品としてこなれていくことは間違いない。
空間の中で立体的なオブジェクトを、まるで本物のように観察できるディスプレイとして、近い将来、このレベル以上の体験が標準になっていくことは間違い無いだろう。進化し始めれば、ものの数年でレベルは上がってゆくはずだ。
この製品はシーメンスが提供する業界標準の3D CADとセットでのソリューション製品として、今年半ばまでに製品化される予定だ。どのような使い方がされるのかは次のCESにおける基調講演動画の32分ぐらいからをご覧になればわかるだろう。
この中では、レッドブルのF1レーシングチームがステアリングの設計をドライバーとリモートでコミュニケートしながら修正し、レーシングカー内でどのような視野、使い勝手になるかを確認しながら作業するという仮想ストーリーが展開されている。
こうしたデモはとかく大袈裟になりがちだが、実際の表示体験はデモ動画を遥かに超えるモノだとは注記しておきたい。
なお、このMR HMDそのものはAndroidが動作するSnapdragonベースのスタンドアローン機であり、PC VR接続での表示ではない。CADソフトそのものはPC側で動作した上で、USB-Cを通じて連携する形になるという。
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