来る日本での予約開始に向けて押さえておくべきポイント
北米でApple Vision Proの予約が開始され、筆者も1台を確保した。最初は出遅れて3月出荷組になっていたのだが、「ある理由」から大逆転で現地発売日ゲットできることになった。
その理由は、Vision Proの特別な「買い方」と深い関係があるとともに、Vision Proが普通のHMD(ヘッドマウントディスプレイ)ではない理由とも関係がある。
予約注文だけで、そんなことがわかるの?と思うかもしれない。数か月後にやってくるだろう日本国内でのVision Pro予約祭りに向けて、予約時のノウハウをお伝えするが、この話はそのままVision Proが魅力的な理由にも連結している。
なぜ簡単には買えないのか?
アマゾンが取得した有名な”1クリック”特許のように、購入に向けてのプロセスはシンプルなほど良い。誰も複雑なことなど考えたくはないが、Vision Proの場合、より丁寧に購買者に合わせてフィッティングすることが、製品そのものの使用感に直結し、長時間使い続けられるかどうかの分かれ目となる。
Face ID搭載iPhone、iPadが必要な理由
Vision Proの予約時にはFace IDが利用できるデバイスが必要になる。顔の形状を計測できるTrueDepthカメラで購入者の頭の形状やサイズを確認する必要があるからだ。
付属するベルトにはニット製のソロニットと、上下二股のベルクロストラップでできているダブルループの二つがあり、いずれもサイズ指定が自動的にされる。筆者の場合、両方ともMだ。しかしこれだけでTrueDepthカメラが必要なわけではない。
予約には”W”というアルファベットが加えられた謎の数字が付与されている。筆者の場合は「21W」で、周りの様子をみてると一般的なアジア人男性は”21”ぐらいのことが多い。しかし中には”28”や”33”といった数字の人もいて、大きな数字の人は頭蓋骨の形状が深めのように感じられる。
筆者はいわゆる”平たい顔族(by テルマエロマエ)”に属する人間のため、この数字は顔にフィットさせるライトシールド(光を遮蔽する部分)のカーブの深さだと推察される。同じ数字にNとWがあることから、おそらくNarrow と Wide の略だろう。
(追記:筆者のライトシールはオプティカルインサートを使うと21Wから33Wにサイズが変化した。当初、カーブの深さかも?と書いていたが、カーブはWとNの二種類しかなく、数字はシールそのものの”深さ”の可能性が高くなった。視度補正を行うと何らかの理由により、眼とディスプレイの距離が拡がり21から33に深さが増加。FOVが若干狭くなるとの推察だ。数字は連続しておらず、11~36までの14種類で”mm”ではなさそうだ。こちらはPD【瞳孔間距離】と連動している可能性もある。いずれ取材で明らかになるかもしれない)
しかし、一説では30種類を超えるフィッティングパターンがある。転売屋からの購入を勧めないことは当然だが、なんらかの理由で個人間取引する場合、友人に購入代行してもらおうという場合には、自分自身で購入プロセスを試してサイズを確認しよう。
筆者はいわゆる”平たい顔族(by テルマエロマエ)”に属する人間のため、この数字は顔にフィットさせるライトシールド(光を遮蔽する部分)のカーブの深さだと推察される。
視度補正に処方箋が必要な理由
正確な視線トラッキングや虹彩認証を行うため、Vision Pro ではメガネが利用できず、一部コンタクトレンズの利用にも制約がある。ただし、アップルがZEISS(ツァイス)と開発した専用の補正レンズインサートはほとんどの補正をカバー可能だ(マグネット装着でインサートできる)。
このレンズインサートは単純な近視補正だけではなく、累進度数を持つレンズ(いわゆる境目のない遠近両用)メガネや乱視補正つきメガネを含む、ほとんどの視力矯正に対応している。
このため厳格な処方箋(視度の調査結果)が必要になる。筆者が昨年6月に体験した際には、使っているメガネの度数を計測し、それに合わせたレンズインサートが選ばれていた。
唯一、補正できないのは”プリズム度数”が処方箋に指定されている場合だ。
例えば筆者はごく弱い斜位(目の方向が外にずれているが、実際に見る時には自分自身で矯正できている状態)を持っているが、補正しきれない斜視も含め、強く症状がでている人はプリズムレンズで補正している場合がある。現時点では補正には対応していない。
さて、このインサートだが、基本的には「メガネ」を間に挟むのと同じことになる。実はこれが大きなハードルで、米国では法律により、メガネを購入する州の医師免許を持つ眼科医が発行した有効期限内の処方箋が必要になる。
面倒に感じるだろうが、日本ではこの規約は緩和される可能性もあるだろう。ただ、いずれにしろ詳細な視力矯正の数字がなければならない。
使えるコンタクト、使えないコンタクト
一般的な処方箋で購入できるコンタクトレンズは、ソフトコンタクトレンズならばそのまま装着して利用できる。コンタクトレンズを通して見えている景色がそのまま、Vision Proの視野にも広がると考えていい。
一方、ハードコンタクトレンズは視線入力センサーの誤動作を引き起こす。視野としては問題はないが、視線入力ができないため、別途、ポインター操作のデバイスが必要になる。制約が大きいため、事実上、使えないと考えた方がいいだろう。
ファッション用コンタクト、目の色を変えたり黒目を大きくしたり、あるいは特徴的な模様をデザインしている、いわゆるカラコンは利用できないので、Vision Proを使う場合は取り外しておかなければならない。
カラコンが利用不可能なことは想像の範疇だろうが、モノビジョンコンタクトで老眼補正している場合も使用できない。モノビジョンは左右の眼が合う焦点範囲を変える(片方を遠くに、もう一方を近い位置に焦点が合うよう調整する)ことで、遠くと近くの両方を見えるようにする特殊なコンタクトレンズだ。
この場合は老眼補正用のレンズインサートで代用できる。累進度数付きレンズの処方で補正できる範囲ならば、そちらのレンズインサートを用いるほうが良い結果が得られるが、コンタクトレンズと老眼補正用のレンズインサートを併用するのが一番快適だ。
”フィッティング”はスペックより重要
実際にVision Proを試したことがある人ならば、アップルが装着感と光学的な見え味に関して、かなり細かくこだわって設計していることを体験しているのではないだろうか。
重さを訴える意見も聞いたが、筆者自身はVision Proの試用感はとても快適だった。
これは筆者は”メガネユーザー”であることも理由だと思う。
メガネという必要悪(できればメガネなしで過ごしたい)から完全に解放され、遠くから近くまで明瞭な視野が得られるからだ。
アップルは有効視野角を公開していないが、筆者が現地で取材した際には「見える範囲は100度程度だが視野の端をボカして表示している」とコメントしていたことから、設計上は110度ぐらいと考えられる。解像度は、あくまでも推測でしかないが、50~55PPD(視野角1度あたりの画素数)の間ぐらいみられる。
視力1.0の人が肉眼で見る景色は、およそ60PPDと言われているため、一般的な現代人の肉眼での視野に近い。Vision Proを試した人が、メッシュ感のない視野に驚くのはこのためだ。
筆者の場合は肉眼での視力が低い(近視は弱いが乱視度数が大きい)こともあり、Vision Proを使っている時の方がドキュメントや各種コンテンツが快適に見える。
しかし”快適に見るため”には、光学特性がピッタリ自分の眼に合っている必要がある。ということで、レンズインサートは極めて重要というわけだ。「テキトーに合っていて、きちんと見えているような感じ」では、この快適さは味わうことができない。
またVision Proに限らず、顔の形状とフェイスプレート部分が合っていないと、長時間使っている時に軽い痛みなどの不快さを感じる。HMD共通の問題点だけに、TrueDepthカメラを使ったフィッティングは、きちんと守った方がいい(繰り返しになるが転売にはお気をつけを)。
ところでオプティカルインサートを使うか否かで、ライトシールドのサイズが変化することにも気づいた。筆者の場合、インサートありでは33W、インサートなしの場合は21Wと異なる。レンズと肉眼の距離の違いによる最適化だろう。
ということで、インサートなしで注文しておいて、その後、変更する場合はライトシールドの買い直しも必要となる。こちらも注意が必要だ。
”大逆転で発売日ゲット”になった理由
さて、日本から購入できるなら購入したい。
昨年6月にアップルの開発者向け会議「WWDC 2023」でApple Vision Proを体験した際、心に刻んだことだ。多くの人は、このコンピュータを”VRゴーグルの一種”と考えている。
筆者もMR(複合現実)デバイスになったMeta Quest3との比較感想を尋ねられたことがあるが、これは全く別のものだ。
今後、さらに世代を重ねることで進化を果たし、さらに”快適でクリアな視野”が得られるようになるだろうが、現時点でも目指す理想への道筋を十分に感じられる。あるいはVision Pro Xぐらいの頃には、装着していた方が肉眼で生活するよりも楽になっている可能性すらある。
仕事としてパーソナルコンピュータに関わるならば、この大きな節目に後世、その名を残すことになるだろう製品はいち早く手に入れたい。単なる人気の新商品ではなく、新たな歴史を刻む最初の製品になると思うからだ。
だからこそ発売日ゲットを狙ったのだが、実は当初はクレジットカードの請求先住所が日本になっていた関係で決済ができず、30分以上を無駄にしたのちに購入できたのだが、出遅れた結果3月8日以降の配送となっていた。
しかし実際に販売が開始されると、前述したようにかなり複雑なフィッティングがあり、代理購入などが難しい(サイズバリエーションなどの情報が少なく、カメラを使った自動選択しかできない)などの理由で一時的にキャンセルが相次いだのだろう。
繰り返しカートに商品を入れていると、タイミングによってApple Storeでのピックアップが可能だと表示されることがわかった。そこで見計らって2月3日のストアピックアップ予約をゲットしたのだが、元の配送予約をキャンセルしようと注文履歴を開くと、なんと自動的に2月2日に繰り上がっていた。
Apple Store Onlineのシステムは店舗在庫と直結され、ストアピックアップがキャンセルされて在庫が増えた場合に、配送にも振り分けられることがあるから、というのがその理由のようだ。なお256Gバイト版が売れ筋で、1Tバイト版は品数が少ない。買いやすいのは512Gバイト版のようだ。
ということで、512Gバイト版を選んだ筆者はおよそ60万円を支払うことになるが、さらに10万円の燃油サーチャージを支払い、溜め込んだマイルでシアトルにVision Proピックアップの旅に出るためチケットを手配した。
いずれ、TechnoEdgeでも報告したい。