2月6日に緊急開催された記者会見で、KDDIはローソンの株式公開買い付け(TOB)を実施すると発表しました。現在のローソンは、三菱商事が50.1%の株式を持つ連結子会社という位置づけですが、TOB後は、三菱商事とKDDIで50%ずつの株を持ち合う形になります。三菱商事の単独経営から、三菱商事とKDDIの共同経営体制に移行するというわけです。
KDDIがローソンの経営権を取得する狙いは、「1万7000店舗(ローソンとauショップなどの合算値)でスマートフォンをぜひとも売りたい、と考えているわけではない」(KDDI 代表取締役社長CEO 高橋誠氏)といいます。街のあちこちにあるローソンで、auやUQ mobileのスマホを購入・契約できるようになる……というわけではないようです。それはそれで、ちょっと見てみたい気持ちはありますが(笑)。
どちらかと言えば、KDDIは、ローソンのDX(デジタル化)を進めるために経営参画しているようです。高橋氏は、「資本参加しているローソンが通信の力でより発展し、グローバルに出ていけるのはものすごく大きな価値」と語っています。回りまわって、「それが我々(KDDI)の成長につながる」という判断をしたと言います。三菱商事の代表取締役社長 中西勝也氏も、「決め手はデジタル」としながら、「高橋さんとお話しをした時、次につながるコンビニエンスストアになるとの確信があった。それを追求したい」と語っています。
ローソンの代表取締役社長、竹増貞信氏は、「究極的には、世の中にコンビニとECがあればいわゆる買い物は成り立っていくのではないかと考えている」としながら、「この2つで成り立たせるには、やはりテックが必要。それを通信でつないでいくことが大事」とKDDIが参画する意義を語っています。単にデジタル化に強いだけでなく、通信事業者としてネットワークを持っていることも、KDDIの強みになっていると言います。
ただ、これは、どちらかと言えば三菱商事やローソンに利がある話。KDDIは通信事業者として、それをサポートする立場のようにも聞こえてしまいます。単純に通信を含めたサービスを提供するのであれば売上げにもつながるため、逆に約5000億円を支払ってローソンの株式を取得する必要性は薄いようにも思えてしまいます。
一方で、スマホは販売しないとしても、ローソンにはリアルな拠点としての強みがあります。その1つとして、KDDIは経営参画時のイメージ映像として、スマホや家計のサポート窓口をローソンで展開したり、Starlinkを設置した防災拠点化したりするような構想を掲げていました。
また、駐車場があるローソンに、キャラバンカーを出してauのサービスを届けるといったことも考えているようです。通信事業だけでなく、金融事業を強化しているKDDIにとって、ローソンはいい拠点になることは間違いありません。
また、ECの拠点としてローソンを活用するといったこともありえます。ローソンは、「コロナ禍の中で冷凍食品やお惣菜を強化し、日常生活の中でもっと使っていただけるように進化してきた。この日常使いを大切にしながら、そこにQuickest Eコマースを導入したい」(竹増氏)といいます。物流拠点としてローソンを使うことで、「オーダーから(最短)15分で届く速さを武器に、Eコマースに参入したい」(同)という計画があるようです。
KDDIもEコマースとして、「au PAYマーケット」を運営しているものの、楽天グループの楽天市場や、ソフトバンク傘下のYahoo!ショッピングなどに比べると存在感が薄いのも事実。ここに、ローソンを活用したEコマースを加えることで、KDDIグループのECとして特徴を出していける可能性はあります。
加えて、50%の株式を持ち、ローソンを持分法適用会社にすることで、その利益を取り込むことも可能。ローソンは、前年度で約550億円の利益を出すいわば優良企業のため、単純にこの半分を取り込めるだけでも長期的に見てプラスになるのは間違いないでしょう。デジタル化や通信による強化で、ここをさらに伸ばしていける可能性もあります。
いちユーザーとして気になったのは、他社決済サービスやdポイントの扱い。ローソンには、現在、ドコモも出資しており、店頭ではdポイントとPontaポイントのどちらか一方を選択することができます。KDDIグループの一員になり、これが排除されてしまうのでは……と不安がよぎりました。また、ローソンではd払い、楽天ペイ、PayPayなど、KDDIから見たときの競合が提供する決済も利用できます。
一方で、高橋氏は、「d払いやPayPayも大事な決済手段。変な形にはならないよう、ローソンとはより近い関係になっていきたい」と決済方法を残すことを明言。dポイントに関しても、「お客様が選ばれるもの」(竹増氏)としており、すぐに取りやめることはないようです。
高橋氏も「せっかくこういう枠組みになったのでPontaは強化していきたい」と語っており、競合の排除ではなく、Pontaの魅力を高める方向でユーザーに選ばれるようにすることを示唆していました。こうした取り組みが実現すれば、Pontaを軸にした経済圏の強化も図れるかもしれません。