新たに家族割引の「最強家族プログラム」を始める楽天モバイル。それぞれ割り引かれる料金は110円と少なめですが、導入の狙いは、割引額というより、ユーザーの心理的なハードルを下げるところにあるようです。
楽天グループの会長兼社長 三木谷浩史は、自身が楽天モバイルを勧めた際に「他社に家族割引があるから……」という理由でMNPを躊躇されることがあったといいます。
三木谷氏のダイレクト営業をスパッと断る度胸もすごいなと思いつつ、家族割引は体のいい言い訳にされている感がなきにしもあらずですが、家族で契約していると心理的に他社に移りづらくなるのは事実。
自分だけが抜けたたために、配偶者や子ども、さらには両親などの料金が上がってしまったとなると、後ろめたい気持ちになります。
三木谷氏自身が「それがなくてもうちの方が安い」とぼやいていたように、実際には使い放題の料金プランで比べた場合、楽天モバイルは家族割なしでもリーズナブルではありますが、家族の説得が面倒というのは分からないでもありません。
「みんなで入れば110円引きになる」という、エクスキューズ的な何かがほしかったと言えるでしょう。三木谷氏が「日本人にとっては重要」と評していたのは、そのためです。
割引額が110円と低いのは、これ以上料金を下げる余地が少ないことに加え、金額自体が問題になるのではないと見越しているからと言えるでしょう。楽天モバイルにしようかどうか迷っている人の背中を押すためのきっかけと捉えれば、理解はしやすいかもしれません。
ただ、家族割引の適用条件は非常にシンプル。オンライン上で代表者がグループを作成し、そのURLから申し込むだけでOK。同一住所である必要もなく、名字が同じであれば、家族と見なされてしまうようです。
楽天モバイルは「明らかに家族でない場合はお声がけする可能性もある」としていましたが、どうやって見分けるのかは明かされていません。鈴木さんとか、田中さんは割引が組みやすそうですね。
他社もそのあたりは比較的緩く、例えばソフトバンクの場合、シェアハウスで一緒に住んでいるだけで家族と認められます。一方で、楽天モバイルのそれは、名字を判別しているだけ。証明書のようなものも不要なため、ブッチギリで緩いと言えるかもしれません。
逆に、一緒に住んでいても名字が違うとNGになってしまうのがこの方式の難点。同性パートナーや事実婚はもちろん、パートナー側が改姓している場合はその両親とも割引が組めません。このあたりの適用条件は、今後広げていく必要がありそうです。
最強家族プログラムの導入で、家族単位の獲得を目指す楽天モバイルですが、契約者数の増加には弾みがついています。楽天市場の出店者を中心とした法人契約が好調なためです。
昨年後半から伸びが加速し、現在は600万契約を超えています。一時は純減に見舞われていただけに、その勢いを取り戻しつつあることがうかがえます。
契約者獲得という観点では、株主優待にも注目が集まっています。楽天グループは、株主配当をなしにする一方で、優待に楽天モバイルのSIMカード、eSIMを無料で配布することを明かしました。
データ容量は月30GBと、通常のRakuten最強プランよりは制限がありますが、Rakuten Link Officeを通じた無料通話には対応しています。1年間限定ですが、タダで毎月30GBまで使えるインパクトは非常に大きいと言えるでしょう。
楽天グループの株価は、楽天モバイルの赤字幅が縮小したことを受け、2月15日に急騰。本稿執筆時点では、1株あたり723円をつけています。最小単位である100株を購入すると、その金額は7万2300円になります。これを1か月あたりにならすと6025円。30GBプランの回線としては少々割高です。
一方で、株は資産。売却すれば、お金は返ってきますし、上がる可能性だってあります。1年後に723円を上回っていれば、実質的に無料以下の価格で楽天モバイル回線を使える計算になります。1GB以下0円を売りにしていた「UN-LIMIT VI」もビックリの価格設定です(笑)。
もちろん、株にはリスクもあり、最悪中の最悪だった場合には紙クズになることもあります。それでも、1か月あたり6025円払って通信できると考えれば、魅力的な選択肢かもしれません。
楽天グループは、楽天市場の出店者にも回線を無償提供する方針を打ち出すなど、ここ最近は契約者獲得に再びアクセルを踏みだした印象があります。ただし、UN-LIMIT VIのときのように、だれかれ構わずというのではなく、株主なり、出展者なり、それなりの選別はしています。
0円目当てで加入者が殺到してしまった反省を踏まえ、ブレーキのかけ方もうまくなってきたことがうかがえます。