楽天モバイルは、法人向けのAIサービス「Rakuten AI for Business」を1月29日に発表しました。
ChatGPTやGeminiなどと同様のチャット型の生成AIで、料金は月額1100円。10万文字以上を出力した場合には、従量課金で1000文字あたり11円の料金がかかります。データは国内サーバに保存されるといい、企業向けのデータを参照するRAGにも対応しています。
▲楽天モバイルは、法人向けAIサービスのRakuten AI for Businessを開始した
楽天グループは、自社開発のAIをまず自身で利用しているほか、楽天市場や楽天トラベルなどの出店者向けのツールとしてサービスを提供しています。
商品検索で文脈を理解できるようにしたり、商品画像の背景を生成AIで作れるようにしたりといった形で、まずは“身内”が使うことでサービスを磨き上げてきた格好。こうしたノウハウを生かし、より幅広いユーザーに提供するのがRakuten AI for Businessです。
▲自社や自社の出店者がAIを活用。ノウハウを蓄積してきた
主なターゲットになっているのは中堅・中小企業。専用環境の構築が不要でWebから簡単に使えるうえに、上記のように1アカウント月額1100円と料金も比較的安いため、導入のハードルは低くなっています。
自社でバリバリのAI環境を構築している大企業ではなく、AIの活用があまり広がっていないブルーオーシャンが狙いになっていると言えそうです。
▲Rakuten AI for Businessの特徴
ブラウザからチャット形式で利用でき、テンプレートも充実しているため導入のハードルが低い
そのAIサービスを楽天モバイルが提供するのは、回線販売とのシナジー効果を見込みやすいからです。同社は、約2年前に法人向けビジネスを本格的にスタートさせ、現在では1万8000社を超えるユーザーが回線を利用しているといいます。
その「ネットワークの上で動く企業に貢献できるソリューションやDXの仕組みを大きく拡充している」(楽天モバイル 鈴木和洋・共同CEO)のが、楽天モバイルの現在地です。
▲約2年前に法人向け回線の提供をスタートした楽天モバイル。採用社数も順調に増えている
実際、楽天モバイルはぐんぐん回線数を伸ばしており、24年10月には800万回線を突破。直近では、三木谷浩史会長が1月に830万回線を超えたことを明かしていました。
2023年12月の回線数は600万弱だったため、1年で200万回線以上を増やす急成長を遂げている形になります。この原動力の1つになっているのが、法人向けの回線。リストプライスが安いことから、中堅・中小企業の導入が増えていると聞きます。
楽天グループは、楽天市場や楽天トラベルなどで中堅・中小企業との付き合いが多く、見込み顧客が多かったのが特徴。この小回りのよさは、大手3キャリアにない特徴です。
楽天モバイルとターゲットが合致しており、AIの利用にはネットワークが必須なことから、同社がRakuten AI for Businessを提供してく戦術を取ることになりました。営業面でも、「楽天モバイルのネットワークといっしょに契約いただけるようご提案していく」(鈴木共同CEO)といいます。
▲楽天モバイルの鈴木共同CEOによると、回線とセットでAIを提案していくという
楽天モバイルは、黒字化達成に向けて1ユーザーあたりの平均収入であるARPUの底上げを図っています。黒字の基準になるユーザー数はおおむね800万から1000万、ARPUは2500円から3000円程度という数値を示していました。
契約者数は先に挙げたとおり、すでに基準を超えているものの、現状ではエコシステム貢献分を除いたARPUは2000円強。法人契約はエコシステム貢献も弱くなるため、回線の上に乗せていくサービスが必要になります。
この観点だと、月額1100円のRakuten AI for Businessは打ってつけのサービスと言えるでしょう。ただし、回線契約にバンドルされたものではないため、今後は楽天モバイルの営業がどの程度頑張れるかがキモになりそうです。
競合を見渡すと、似たようなAIサービスがクラウドとバンドルされる機会が増えているため、こことの戦いになってくるかもしれません。
例えば、グーグルは1月からビジネス向けのGoogle Workspaceの上位プランに、これまで有料オプションとして提供されてきた「Gemini Business」を統合しています。
Geminiが加わった代わりに、しれっとGoogle Workspaceを値上げしているのは“抱き合わせ”では……と、思うところは多々あるものの、一気にビジネスで使うユーザーが増えることは間違いありません。
▲グーグルは、Google WorkspaceのBusiness以上のプランにGeminiを統合した
実は筆者も1人法人ですが、Googleドライブの容量確保や仕事用のメールなどのためにGoogle Workspaceの「Business Plus」というプランを契約しています。1月からそのアカウントでもGeminiが使えるように。
当初は、「問答無用で値上げかよ」と毒づいていたものの、発表会の参加表明などの返信をサクサク書けて(正確には書くように頼めて)、これはこれで便利だなと思い直していました。このような契約がすでにあると、Rakuten AI for Businessを追加する必要性が薄くなってきます。
▲筆者も仕事用アカウントでGeminiを活用中。届いたメールに一言返すだけでここまで書いてくれるので、発表会の申し込みなどが楽になった
クラウドとAIのセット販売はグーグルに限らず、マイクロソフトも個人・ファミリー向けの「Microsoft 365 Personal/Family」にCopilotを統合し、価格を値上げしています。
個人向けと言いつつも、商用利用が可能なので、こちらも一部はRakuten AI for Businessの競合になりそう。これらのサービスは、1人から利用でき、気軽に始められるので、中小企業はもちろん、フリーランスでも活用できます。
この視点で見ると、Rakuten AI for Businessが法人限定になっている点が少々気になってきます。グーグルもMSも、個人でサクッとアカウントを作成でき、思い立ったらその日にも導入ができるからです。実際にサービスを使ってみた限りでは、特に個人でも何かしら活用ができそうだっただけに、あえて提供先の幅を狭めている点が少々引っかかりました。
法人、個人問わず、楽天モバイルユーザー全体に提供し、法人向けはクラウドに紐づけたグーグル、MSと同様、楽天モバイルの武器である回線に紐づけてもよかったような気もしています。