米司法省と15の州および特別区が、独占禁止法違反の疑いでAppleを提訴しました。
市場で優越的な iPhone の地位を悪用して、開発者に対して恣意的に契約上の制約を課したりアクセスを制限してきたことはシャーマン法第二条違反に当たるとして、互換性やアプリの審査基準など具体的な例を挙げています。
Appleが違法に独占的地位を維持している例として司法省が挙げたうち一部は、
メッセージングアプリの互換性。いわゆる緑吹き出し問題
業界標準のRCSプロトコル対応を意図的に遅らせたことで、Android他とのメッセージングで大きな画像や動画等が送れないなど、iPhoneどうしよりも制約がある「スーパーアプリ」やストリーミングゲームアプリの阻害
スーパーアプリはメッセージングアプリにショッピング等々の機能がセットになったWeChatなど。
スーパーアプリはひとつのアカウントでログインすればそのまま移行できるため、iPhoneから別プラットフォームへの移行コストが下がることを嫌い、恣意的なストア審査基準を通じて妨害しているとの主張スマートウォッチの互換性
Apple Watchでしかアクセスできないよう塞いでいる機能やAPIがあるため、他社のスマートウォッチは公平な競争ができない状態他社製デジタルウォレットの阻害
純正のWallet以外は手軽に使えなくすることで、他社のウォレットやサービスを不利にしているとの主張
スマートフォン市場の独占といっても、代替としてAndroidが存在するのだから消費者に選択肢はあるのでは?とも思えますが、司法省はAppleが開発者や他社サービス、プロダクトに不利な条件を課して移行のコストを高くすることで、次の時代のアプリやサービス、製品のイノベーションを阻害していると主張しています。
一方、訴えられた側のAppleはステートメントで、
Appleはユーザーのプライバシーやセキュリティを保護しつつ、一体となってシームレスに動作する製品群のために日々イノベーションを重ねており、司法省による提訴はAppleがAppleであること、厳しい競争環境のなかでApple製品を抜きん出たものにしてきた原則を脅かす。
もし司法省の訴えが通れば、消費者がAppleに期待するもの、すなわちハードウェア・ソフトウェア・サービスが交わるテクノロジーの創造を阻害する。さらには、消費者が用いるテクノロジーのありかたを左右できる力を政府に与える危険な前例となる
と主張して、全面的な対抗姿勢を示しています。
司法省が挙げた点の多くは欧州でもたびたび槍玉にあげられており、デジタル市場法(DMA)といったかたちで実際にApple側に譲歩を強いた例もあります。
現代のスマートフォンはプライバシーや生体情報の塊であり、持っていないと社会生活が難しいほどの存在になったために、「ユーザーを保護するため」は常に正しい万能の理由になり得ます。
ただし、「何でもかんでもオープンにするわけにはゆかない」と「他社が公平に競争できないよう恣意的にブロック」とのあいだはグラデーションであり、特にストアの審査基準などは、今回の司法省による提訴の前から延々とせめぎ合いが続いてきました。
司法省は訴状の導入部分で、Appleが今日のiPhoneにつながる成功を得ることができた理由のひとつには、1990年代の米国VSマイクロソフトの独占禁止法裁判の結果、Windows上でマイクロソフトの戦略と直接競合する iTunesとiTunesストアの展開が可能になり、iPodが多くのユーザーに普及するヒット商品となったことがあると述べています。
提訴の内容は非常に範囲が広いため、一定の決着を見るにはおそらく年単位が必要になると思われますが、結果としてユーザーの安全を確保したまま消費者の選択肢を増やす方向に進めば、iPhoneやApple製品のユーザーにも利益のある話です。