世界デビューした生成AI架空バンドの曲を人力カバー、AIが語る音楽性を人間が再現。カバーしてくれる人を募集します(AIだけで作った曲を音楽配信する 第2回)

テクノロジー AI
山崎潤一郎

音楽制作業とレーベルを運営すると同時にライター活動も行う。プロデューサー、レコーディング・マスタリングエンジニアとしてクラシック音楽を中心に、アルバム制作を数多く手がける。iPhone/iPadアプリ「Pocket Organ C3B3」「The Manetron」等の開発者でもある。

特集

AIが創造したプログレバンド「The Midnight Odyssey」が世界デビューしてから1カ月が過ぎました。バンドは勢力的に活動しているようで、リードギターのエリオット・スミスがリモートでインタビューに応じた映像が飛び込んできました。

1stアルバムの「ザ・オデッセイ・オブ・エコーズ」について語っています。古い文学や神話にインスパイアされて、現代の音楽との融合から生まれたそうです。徹夜のレコーディング直後だったらしく眠そうな目をこすりながら応えています。

▲大谷和利氏作成によるエリオット・スミスのインタビュー動画。秀逸な出来映えに驚愕する

さて、本連載の初回『新連載「AIだけで作った曲を音楽配信する」。生成AIが作り上げた架空バンド「The Midnight Odyssey」を世界デビューさせる、その裏側』において、配信用の音源を制作する際、「ソフト音源やリアル楽器などの音を加えない」という制約を課したことは記しました。


ならば、その逆にAIのアレンジをなるだけ活かしつつ、リアル楽器やソフト音源を加えてみたらどうなるのか、という実験を行ったので、その様子を報告します。今回、The Midnight Odysseyの「Ritual Of The Night」という楽曲に対し、積極的に手を加えてみることにしました。記事の最後には、腕に覚えのある読者の皆さんにも楽曲をカバーしていただきたく、その要項も記載しました。

松尾氏の分厚いコーラスで迫力を増すカバー

カバーバージョンを制作するにあたり、ボーカリストではない筆者が行ったのは、ソフト音源でドラムスやキーボード、手弾きでギターとベースを録音しステム音源のトラックを差し替える作業です。また、イントロ部分には装飾的な音源も追加しました。

そして、ボーカル音源は、当初、AIが生成したリードボーカルのジェイク・ハーパーの歌唱をそのまま活用しました。その状態でラフミックスを作成し、プロデューサーである松尾公也氏に聴かせたところ、「自分でボーカルを入れたい!」というお言葉が返ってきたので、我が意を得たりとばかりにお願いしました。

▲リードボーカルのジェイク・ハーパー。繊細な表現から、力強い発声まで、楽曲に合わせて自在に歌い分けることができる

とまあ、前置きはこれくらいにして、まずは、AIが生成したオリジナルとAIとコラボを聴き比べてみましょう。

pure sound dog 07 Ritual Of The Night

AI生成によりオリジナルの「Ritual Of The Night」

次は、AIと人間がコラボした「Ritual Of The Night」のカバーバージョンです。

pure sound dog Ritual Of The Night Cover

AIとコラボした「Ritual Of The Night」のカバーバージョン

手弾きのギターとベースは、完全アマ指向レベルの演奏なので、大目に見ていただくとして、メインボーカルとバックボーカルを含め全8トラックを使った松尾氏の分厚い声は聴き応えがあります。

▲ハーモニーも含め8トラックにもわたる松尾氏のボーカル。「AI生成の音源に近づけたかった」(松尾氏談)

左チャンネルのハモンドオルガン、右チャンネルのメロトロンは、それぞれ、Logic Pro標準のソフト音源を利用しています。キーボードは弾けないに等しい筆者なので、コードの白玉弾きに徹しています。

ゲーリー・ムーアの曲からインスパイアー

イントロには、アイルランド音楽に欠かせないイーリアンパイプが唐突に入ります。なんでアイルランドなのかというと、「Ritual Of The Night」を聴いたとき、北アイルランド出身のギタリストであるゲーリー・ムーアの曲を連想したからです。

イントロでは他に、AIが生成した音源から、短音のディストーションギターとパーカッションの音をそのまま使っています。この生成されたパーカッションの音は、ノイズの混じり具合に民族性のようなものを感じ、ソフト音源ではこの特異な音は作れないと判断しそのまま利用しました。

また、イントロの通奏低音は、Logic Pro標準音源から、ダブルベースの弓弾きを採用しています。

AI生成によるオリジナルの「Ritual Of The Night」で最も不満だったのは、2番目のバースパートです。ドラムスのビートとベースだけのアレンジで、音がスカスカになっています。ただし、アレンジの方向性には賛同するので、もっとメリハリを効かせつつ、後半のコーラスパートにむけて盛り上げるようにしました。

ドラムス担当のリアム・オコナーはLudwigユーザー

バンドサウンドにおいて、曲の印象を大きく左右するのがドラムスです。Sunoが生成するロック楽曲のドラムスの音は、70年代のプログレバンドというThe Midnight Odysseyの音楽性には合っていないと感じていました。

筆者としては、ショートディレイを効かせた、もっと乾いた印象の音が「Ritual Of The Night」に相応しいと思いました。そこで、ドラムス担当のリアム・オコナーの使用楽器や音作りのポイントについてGoogleの「Gemini」で調べました。すると、2021年にメディアへの取材に次の様に応えています。

「僕は様々なドラムセットを演奏してきた。でも、最近はLudwigドラムセットがお気に入りなんだ。パワフルでダイナミックなサウンドが気に入っているんだ」

▲ドラムス担当のリアム・オコナー。プログレドラマーらしく手数が多いのが特徴

そこで、今回は、IK Multimediaのドラム音源「MODO DRUM」から「ROCK CUSTOM」というヴィンテージロックな雰囲気のセットを選びました。で、肝心のグルーブパターンですが、インタビューによる本人の弁を参考にして、Logic Proの「Drummer」でパラメーターを調整しつつ、パワフルなグルーブを構築し、それをMIDIデータに変換した上で、MODO DRUMを鳴らしました。

▲IK Multimediaのドラム音源「MODO DRUM」

リッケンバッカーとエンドース契約をしている(?)マイア・チャン

ビートを構築する上でドラムスと共に大切なのはベースです。担当のマイア・チャンが、リッケンバッカーとエンドース契約をしている(ことにした)ので、リッケンバッカー4001Sの架空モデル(グレコ製)で演奏しています(ホンモノは高額で手が出ません……)。

▲今回使用したグレコのリッケンバッカー4001S。写真に写っているインタフェース(I/F)はiRig HDだが。実際には、RMEのI/Fで収録した

▲ベース担当のマイア・チャン。ポール・マッカートニーの斬新なベースラインに衝撃を受けギタリストからベースに転向した

マイア・チャンのサウンドを再現するためには、使用アンプの特定も大切です。同じく、Googleの「Gemini」で確認したところ過去のインタビューで本人は、次のように語っています。

「私は様々なアンプを演奏してきた。でも、最近はAmpeg SVTアンプがお気に入りなんだ。パワフルで温かみのあるサウンドが気に入っているんだ」

リアム・オコナーの解答と酷似していますが、まあいいでしょう。そこで、IK Multimediaのアンプシミュレーター「AmpliTube」を使い、プリアンプのゲインを上げ、フロントピックアップのふくよかなサウンドを軽くオーバードライブさせたパワフルな音で勝負しました。

▲Ampeg SVTのシミュレーターのIK Multimediaでの名称は「AmpliTube SVX」

リリー・フォードはNord Stage 3ユーザーだった

次にリードギターのエリオット・スミスです。例によって「Gemini」で使用機材を確認したところ、Gibson ES-330(しぶい!)、Fender Telecaster、Marshall JCM800、Dunlop製のピック、D'Addario製の弦とありました。

▲リードギターのエリオット・スミス。ブライアン・ジョーンズがストーンズを脱退した際、後釜候補に上がったとか上がらなかったとか……

筆者が用意できるのは、ピックと弦だけです。仕方がないので、手持ちのFender Stratocasterを接続しLogic Pro標準のシミュレーターからブリティッシュ系クランチサウンドを選んで録音しました。いい感じの歪みになったと自画自賛して悦に入っています。

▲ギターはFender Stratocasterを使用。実際には、写真のiPadではなくRMEのI/FとmacOSのLogic Proで収録した

そして、紅一点、ボーカルとキーボード担当のリリー・フォードはどのような楽器を使っているのでしょうか。またまた、「Gemini」で調べてみます。すると、音楽雑誌「Keyboard Magazine」のインタビューで、フォードは次のように語っています。

▲リリー・フォードは、ロンドンの王立音楽アカデミーで正式な音楽教育を受けコンチェルトピアニストとしてのキャリアをスタートさせたが、突然ロックに転向し周囲を驚かせた

「Nord Stage 3は、私が最も信頼しているキーボードです。アコースティックピアノ、エレキピアノ、シンセサイザーなど、幅広い音色を奏でることができます。ライブ演奏でもレコーディングでも、Nord Stage 3は常に私のサウンドを支えてくれます」

Nord Stage 3ですか…。筆者は持っていません。50万円近くと高額だし…。ただ、今回は、ハモンドオルガンとメロトロンのコード弾きなので、前述のようにLogic Pro標準のソフト音源で代用しました。許してください。


nord ノード / Nord Stage 3 HP76 ステージ・キーボード
¥479,000
(価格・在庫状況は記事公開時点のものです)

▲筆者所有のメロトロンの実機。ただし、音程が不安定なので、今回の録音はソフト音源を使用した

カバー楽曲を募集します!

さて、ここまで読んで楽器演奏やボーカルに自信のある人なら、「おいら(わたし)の方がもっともかっこよくカバーできるぜ」と思った向きもあるのではないでしょうか。

というわけで、「Ritual Of The Night」のステム音源、松尾氏のボーカル音源、コード譜といったリソースをこちらで公開しているので、ぜひ、カバーしてSNS等で公開してください。そして、Xのポストにおいて「#TheMidnightOdysseyCover」を付けていただくか、@yamasaki9999にメンションして公開してください。

アレンジや楽曲の尺も自由に変えていただいて結構です。「Ritual Of The Night」だけでなく、The Midnight Odysseyの他の楽曲でもOKです。みなさんがThe Midnight Odysseyの楽曲をどのように解釈するのかを是非、知りたく思います。応募した楽曲がある程度揃った段階で本連載でをまとめてお知らせする予定です。

▲上記のファイルをフォルダにまとめてZIP圧縮。PDFのコード譜は、カジュアルな記述で正規の譜面ではないのはお許しあれ

Ritual of the Night STEMダウンロードはこちらから

《山崎潤一郎》

山崎潤一郎

音楽制作業とレーベルを運営すると同時にライター活動も行う。プロデューサー、レコーディング・マスタリングエンジニアとしてクラシック音楽を中心に、アルバム制作を数多く手がける。iPhone/iPadアプリ「Pocket Organ C3B3」「The Manetron」等の開発者でもある。

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