「任天堂法務部」に著作権侵害指摘されたYouTuber、ニセモノだと見破りチャンネル削除を回避

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Munenori Taniguchi

Munenori Taniguchi

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ある日、ドイツのベテランYouTuberは突然、任天堂の弁護士から著作権侵害を申し立てられました。通常なら収益化を失うリスクを考え、削除要請に応じるところですが、このYouTuberはある不審点に気づき、申し立て人がニセモノであることに気づきました。

動画投稿歴17年、2010年から「Domtendo」としてYouTubeチャンネルを運営し、150万人以上のフォロワーを持つドミニク・ノイマイヤー氏は、最近アップロードした『ゼルダの伝説 知恵のかりもの 』の動画2本に対し、デジタルミレニアム著作権法(DMCA)に基づく申し立てがあり、動画が削除されたとの通知を受け取りました。

YouTubeは、著作権者がDMCAに基づく申し立てをすると、その動画を削除し、動画投稿者に「著作権侵害の警告」を提示します。そして、この警告を90日以内に3度受け取った投稿者は、関連するチャンネルも含めて停止させられ、動画はすべて削除されます(YouTubeパートナープログラム参加チャンネルはチャンネル削除に7日間の猶予あり)。

今回のDomtendoの場合、同時に2つのDMCA申し立てが行われたため、ノイマイヤー氏はあと1度なにかがあれば、十数年にわたって蓄積した無数の動画とフォロワー、そして収益を失うという窮地に立たされたことになります。

ただ、このDMCA申し立ては、ノイマイヤー氏にとっては違和感が大きなものでした。たしかに任天堂は、同社が所有する知的財産を無断使用して利益を享受するような行為には、それがたとえYouTuberであっても厳しく対応することが知られています。しかしDomtendoのように、ゲームをプレイする様子を動画として投稿するだけの、一般的なゲーム配信チャンネルを問題視するようなことは、これまでにはありませんでした。これは、YouTubeやTwitchなどでゲームを配信されることが視聴者への宣伝になるとの考えによる対応です。

そのため、ノイマイヤー氏はDMCA申し立てに応じる前に、じっくりと申し立てられた文書を確認しました。そして、要請を出してきた人物の身元が「Tatsumi Masaaki, Nintendo Legal Department, Nintendo of America(ニンテンドー・オブ・アメリカ法務部 タツミ・マサアキ)」と記されている一方で、連絡先メールアドレスが「tatsumi-masaaki@protonmail.com」となっており、任天堂の正規のアドレスではないことを発見しました。

Proton Mailは欧州原子核研究機構(CERN)の元研究者らが、NSAが使用していた通信監視プログラム「PRISM」などによる覗き見を防止し、安全なやり取りを提供するために設立した暗号化メールサービスです。明らかに任天堂の従業員が公の業務で使用する類いのものではありません。

このことをYouTubeに連絡し、削除された動画を復活させることに成功しました。ただ、その後もノイマイヤー氏には「tatsumi-masaaki」から直接、著作権侵害を指摘するメールが届き続けました。

ニセモノの著作権者がYouTuberやYouTubeチャンネルに虚偽の著作権侵害を訴え、脅す行為は過去にも発生しています。2019年には、ObbyRaidz氏のYouTubeチャンネルに対し著作権者を名乗る人物が2度の違反報告を行い「金銭を支払わなければ3度目の報告をする」と脅迫した事例があります。YouTubeチャンネルに対する違反の申し立ては個人でもできるため、YouTubeチャンネル側は相手の身元を自分で確認しなければなりません。しかし、その作業には手間と時間とコストがかかり、もしも要求を無視して相手が本物だったときに、チャンネルごと削除されてしまうリスクを考えると、申し立てられた動画を言われるがままに削除して済ませてしまうことが多いとのことです。

同じような状況にあるノイマイヤー氏は、ノイマイヤー氏は3度目の警告で問答無用にチャンネルを潰されるの避けるため、要請された動画の削除にはいったん応じることにしました。ただし、事を荒立てないよう注意をはらいつつもtatsumi-masaakiからのメッセージ内容をはじめ、このメールが何者から送りつけられたものかを調べる作業を続けました。

そして、ある程度揃った資料をもとに、直接Nintendo of Americaに問い合わせを行ったとき、ノイマイヤー氏の状況は好転しはじめます。Nintendo of Americaはまず、Proton Mailのアカウントは「任天堂が正規に使用するメールではなく、通信内容の詳細はNintendo of Americaの業務慣行に一致していない」と述べました。さらに、ノイマイヤー氏にゆすりまがいの行為が続いていることを知ると、この自称任天堂弁護士についても独自に調査すると約束をしたとのことです。

約1週間後、tatsumi-masaakiのメールアカウントは、ノイマイヤー氏に突然「これまでの主張をすべて撤回する」と連絡してきました。ただ、要求は取り下げるものの、自らは任天堂の弁護士であるとの主張は曲げず、Nintendo of Americaのダグ・バウザー社長名前まで持ち出すなどしたあげく、自分はこの件の担当を外れただけで、じきに別の任天堂弁護士が再び申し立てをするなどと述べ、最後まで脅しの姿勢は崩さなかったとのことです。

なお、ノイマイヤー氏は調査の過程で日本の任天堂にtatsumi-masaakiに似た名前のIP関連の弁護士がいることはわかったものの、この人物が特許侵害を申し立てた人物か否かまでは確認できなかったとしています。

こうした問題は、権利侵害の申し立てがあったときに、YouTubeが申立人の身元をきちんと確認すれば起こりにくくなるはずです。この問題を報じたThe Vergeに対し、YouTubeはDomtendoチャンネルがニセの著作権者から虚偽の申し立てを受けたことを認めこそしたものの、なぜ、どのようにして(ニセ)著作権者の要求を受け入れ、そのまま応じたのかについては詳しく回答していないとのことです。

ノイマイヤー氏はYouTubeなどストリーミングサービス各社がポリシーを更新し、配信者がニセモノの著作権侵害申し立てから身を守りやすくすることを望むとし「酷い連中はだれでもかんたんにYouTuberを攻撃できるうえ、その行為を防止するものはほとんど無い。これはまったく正気の沙汰ではない」「今すぐにこの状況を変えるべきだ」とコメントしています。


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《Munenori Taniguchi》

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