レノボ・ジャパンが、高級ビジネス向けノートPC『ThinkPad Z13 Gen 1』『ThinkPad Z16 Gen 1』の日本版を発表しました。Z13が13.3インチの16:10画面で重量1.25kgから、Z16が16インチ16:10画面、1.97kgからとなるモデルです(上写真は『ThinkPad Z16』です)。
発売日は2シリーズともに、同社直販サイトの受注開始が6月24日から。
価格はZ13が31万1300円(税込)から、Z16が36万8500円(同)からと、価格だけで見た場合、ThinkPad全体で見ても超高級機と呼べるクラス(ただし、位置づけに冠するレノボ側の説明としては、装備と価格はフラッグシップ級ながら、単純に「ThinkPad X1シリーズより上」という位置づけではない、とのこと)。
本体カラーは、Z13が2色。とくに注目されるのは、天面に人工皮革であるクラレ社『クラリーノ』を貼った『ブロンズ』でしょう(凝った仕上げなので、価格もこちらが高価)。さらにシルバーグレー系の『アークティックグレイ』が加わります。
Z16は『アークティックグレイ』のみ。
両モデルとも、ワールドワイドでのプレビューは(ThinkPadシリーズおなじみの)年頭に開催されるCESで既に行なわれていましたが、今回は日本版が正式発売されるという点と、価格や構成などが決定された、という点がニュースです。
なお、ThinkPadファンがここで気になる点の一つが、おそらく価格に関してでしょう。というのも、CESの時点では「Z13が1549ドルから、Z16が2099ドルから」と発表されており、今回の日本版がずいぶん高めに見えるため。
しかし今回は、米国モデル自体が種々の事情でずれてしまったパターン。原稿執筆時点の米国レノボ直販では、Z13が2499ドル(単純換算で約33万7300円)から、Z16は3039ドル(約41万円)からとなっており、そこまでかけ離れた価格でもない……といったところです。
さて、この2モデルは、「従来のThinkPad(シンクパッド)シリーズとはひと味違ったデザイン」「AMD製最新世代Ryzenシリーズによる高速な処理性能」そして「環境負荷低減も配慮に入れた本体外装素材や梱包材採用」といった、新機軸を盛り込んだモデル。
レノボ側は「まったく新しいThinkPad」とも称します。
また本年は、初代ThinkPadこと『ThinkPad 700c』が発売された1992年から30周年の節目にもあたるため、この2機種はThinkPad 30周年記念モデルとしての意味合いも備えます。そうした点を受けてか、事前説明会では『次の30年を見据えた新シリーズ』との意気込みも語られました。
とくに外観デザインは、キーボードやディスプレイ面こそThinkPadらしいブラック基調ながら、外装は画面天面側のカメラが『コミュニケーションバー』として出っ張っているなど、昨今のYogaシリーズ(コンシューマー向け高級ノートPC)に似た印象を与えるものに。
カラーリングも上述のようにブロンズやシルバーグレー系など、ThinkPadとしては新しい趣向が導入されています。
なお、バーに搭載されたカメラも、フルHD解像度に対応した画素ピッチ1.4μmの(Webカメラとしては)大型のセンサーを導入。解像度だけでなく、暗所でのノイズといった面での画質も改善されています。
また新設計として目立つのが、画面周囲のナローベゼル(狭額縁)設計です。昨今のThinkPadは比較的ナローベゼル化を進めていますが、Zシリーズは新設計だけあって攻めた仕様に。画面占有率(ディスプレイ面全般と有効画面の比率)では、Z13では公称91.6%、Z16で92.3%と、他社モデルを含めても上位に位置する数値となっています。
ディスプレイパネルの選択肢は、Z13が3グレード。1920×1200/タッチなし/IPS液晶、1920×1200/タッチあり/IPS液晶、そして2560×1600/タッチ対応/有機ELとなっています。
Z16も3グレードで、1920×1200/タッチなし/IPS液晶、1920×1200/タッチあり/IPS液晶、そして3840×2400/タッチ対応/有機ELという選択肢。
最上位(有機EL)のみ解像度が異なり、Z16のほうが高くなっています。
また、キーボードの配列やタッチパッド部に関しても、『ThinkPad Classic』と呼ばれる定番モデルからいくつかの変更が。たとえば矢印キーはいわゆる『逆T型』からアップルMagic Keyboardに似た形状となり、矢印キー左には指紋センサーが位置するように。昨今注目のInsertキーも、ThinkPad X1 Nanoなどと同様Endキーとの兼用タイプです。
ただし一方で、日本語配列に関しては、Z13であっても、主要キーで変形比率のものがない仕様。ThinkPad X1 Carbonでも、2021年モデルからは(キーボード左右にスピーカーが移動した関係で)わずかながら変形比率のキーになった点を考えると、新設計ゆえにかなりの力が入ったものと窺えます。
またタッチパッド部は物理的可動部のない感圧式となり、幅120mmにまで大型化。ThinkPadの共通特徴であるTrackPoint(トラックポイント:アナログスティック状ポインティングデバイス)のボタンも、2014年版モデルのような一体型になっています。
さて、となると古くからのThinkPadファンはイヤな予感がするでしょうが、ここで紹介しておきたいのが、実際に触ってみると今回は、2014年版モデルのようなTrackPointボタンとしての使いにくさが大きく解消されていた……ということ。
筆者は一体型のThinkPad T440sを使っていたこともあり、実際に触るときに「覚悟していた」のですが、良い意味で裏切られた印象。現在では「これならば一体型でも行けるのでは」と思っています。ここはぜひ、店頭展示などで一度触れてみてほしいところです。
さらにTrackPoint自体にも新機能が。天面を「ダブルタップ」することで、『コミュニケーション クイックメニュー』と呼ばれる、マイクやカメラに関する設定画面が表示。マイクのミュートやWebカメラの画質調整などが素早く実行できます。
そして、拡張端子も見直しが。Classic系ではレガシーポートも多めですが、Z13ではUSB4 Type-C×2基(電源兼用)と、3.5mmヘッドセットジャックのみ。Z16はUSB4 Type-C×3基にフルサイズSDカードリーダー、ヘッドセットジャックと、かなりのシンプル設計です。
基本性能の面では、CPU(APU)には、AMDの最新世代であるRyzen PRO 6000シリーズを搭載。
ノートPC用のRyzen 6000シリーズは、現行の5000系からGPU性能が大幅に強化されており、AMD側は同クラスの5000系と比べて最高で2倍の性能を謳います。CPU側の設計も最新世代である『Zen 3+』を採用し、こちらは同クラス現行比で最大1.3倍の性能向上をアピールします。
さて、共通仕様となるのはここまで。というのも、実際の性能(に直結するTDP値=消費電力と発熱の設計目安となる値)に関しては、Z16のほうが高いため。
Z13では、基本TDPが15~28Wとなる『Uシリーズ』、そして最上位構成には、本シリーズにカスタムされた『Ryzen 7z Pro』を採用します。
対してZ16は、基本TDPが45Wと高い『Hシリーズ』を採用。本体の大きさから来る放熱性能の余裕を活かした設計です。さらにZ16のみ、単体GPUとしてAMDの『Radeon RX 6500M』を選択可能となります。
また、Ryzen 6000系の採用により、セキュリティチップもMicrosoftの最新仕様『Pluton』に準拠。現在使われているTPM 2.0よりも高い効果をもたらすPlutonに対応することで、今後OS側で導入されるより高度なセキュリティ機能にも備えています。
当然RAMやストレージも、高級機だけあってしっかりとしたもの。RAMに関しては最低16GB(LPDDR5タイプ)から、ストレージはPCI Express接続で512GBからとなっており、最大で32GB/1TBまでが選択可能です。
そしてもう一つの特徴である環境負荷低減に関して。レノボ側は、サステナビリティへの配慮として、大幅なリサイクル素材の採用をアピールします。
とくに力を入れているのが、本体外装に使われるアルミニウム合金。このうち70%をリサイクル由来としています。
となると、一方で心配なのが堅牢性ですが、高級機だけありもちろんこちらにも配慮。いわゆるThinkPad伝統のトーチャーテスト(拷問試験)はもちろん実施、パスしているだけでなく、昨今アピールの多い米国国防省調達基準『MIL-STD-810H』に対しても、12メソッド、計26プロシージャーに準拠と、多数をパスします。
そして製品の外箱には、使用後に堆肥化が可能な、竹とサトウキビの繊維素材を採用。塗装も控えめで「リサイクル素材の風合いを活かした」仕上げに。従来のThinkPadとはひと味違ったテクスチャーとなっています。
サイズ的にも梱包材としての仕様を満たしながらコンパクトにしているため、ブリーフケース的にも使えそうな設計です。
このように、ThinkPad Z13とZ16は、ThinkPadシリーズ高級機としての基本性能や堅牢性に対する配慮を備えつつも、Yogaシリーズやライバルメーカー(とくにHP)を意識したであろうデザインや素材、そしてThinkPadの新シリーズとしては珍しい「AMD製CPUオンリー構成」としている点など、端々に新たな挑戦を(確かに)感じさせる仕上がり。
そして短時間ながら実際に触れた印象は、良い意味で予想以上。正直なところCESの時点で数々のアワードを受賞した報を聞いたときには「え、そこまでの注目機種だったの?」とも感じたのですが、今回実機に触れて一気に納得感が得られました。
もちろんThinkPadの新趣向モデルということで、過去のモデルがそうだったように肌に合わないファンも当然いるはずですし、また価格帯が高価というビハインドもあります(レノボ製品だけあり、セール時の価格がどう転ぶか、読めないところではありますが)。
しかし筆者としては、そうした点を抜きにしても、機会があれば一度触って試してほしい、言い換えれば「食わず嫌いはあまりにも勿体ない」タイプのモデルである、という思いを強くした次第。
古くからのThinkPadファンにとっても、「必要な慣れのコストを超えれば、リターンは相応以上に大きい」「じっくり使っているとジワジワと手放せなくなる」タイプのモデルではないか――現状ではこう考えています。