先日、メガネ型ヘッドセットのHUAWEI Eyewearを評価したばかりだが、ファーウェイは本気でオーディオ事業を大きくしようとしているようだ。
予想外にまともなメガネだったHUAWEI Eyewearはオンライン会議の救世主になり得るか
ファーウェイには独自に半導体を設計する能力があり、(アプリ、デジタル信号処理、両面ともに)ソフトウェア開発の面でもOSやファームウェアのレベルから作り上げる技術も有する。ハードウェア設計でもトップクラスであることは、過去のスマートフォン開発での実力が示している。
スマートフォンのジャンルでは、独自設計の半導体を製造する手段やAndroidスマホ開発を行う上での制約などが課されたことから中国国外での競争力を失ってしまったが、オーディオのジャンルでは、スマートフォン向けほど最先端の半導体製造技術は必要ないこともあり、ファーウェイが活躍できる場が残されているようだ。
いわゆる”コンピュテーショナルオーディオ”。演算によるオーディオ領域の問題解決を「HUAWEI FreeBuds Pro 2」で施しているのだ。
コンピューテーショナルオーディオのトレンドを射抜いた新世代モデル
一方で幅広くオーディオ市場全体を見渡すと、近年は単純に音が良いだけでは勝負できない領域が増えてきた。デジタル信号処理のレベルが大きく進歩し、さまざまなマイク、センサーなどの情報をもとに音響処理を行うようになったことで、これまでの常識では考えられないような製品も登場している。
その中で最も成功しているのはAppleだろう。Appleのオーディオ製品は、いわゆるハイエンドオーディオとは無縁だが、使いやすさや自社製品との親和性、設置や導入のしやすさなどを独自の半導体、OS(ファームウェア)、アプリケーションなどを組み合わせて実現している。
ファーウェイは、そうしたApple的なアプローチで製品価値の拡大が行える数少ない企業の一つだ。半導体、ソフトウェア、ハードウェアにまたがった複合的な製品開発のノウハウで良い結果を引き出してきた。
平面ドライバユニット搭載完全ワイヤレスステレオのHUAWEI FreeBuds Pro 2もそうした同社の強みがよく出た製品だと感じた。半導体設計のレベルから開発に取り組むことで、同じTWSという商品ジャンルでも差別化を行えている。
たとえばTWSとしては珍しく2台までのマルチポイント接続が行える。この機能は2つの機器と同時に接続できるというもので、スマートフォンとパソコンの同時接続はとても便利だし、iPhoneとAndroidという組み合わせもできる。
「Adaptive Ear Matching EQ(AEM EQ)」は本体内に配置されたマイクが外耳道内の音響特性を検出する機能。個人差による聞こえ方の違いもあるが、装着ムラに対して安定した聞こえ方がするメリットの方が大きい。同様の機能はAirPods Maxが採用していたが、耳の形状などの影響がないイヤホンでどこまで効果的なのかはわからない。
とはいえLDAC対応なども含め、機能をてんこ盛りにできるのは、製品構築に必要な技術を包括的に持っているからと言えるだろう。
肝心の音質面も以前のモデルから比べて大きく向上している。これだけ本格的な作りができるのだから、ファーウェイはイヤホン、ヘッドフォンのジャンルで売上を確実に伸ばしていくことは間違いないだろう。
ただし、技術力の高さや音質へのこだわりの姿勢はあるものの、オーディオブランドとして付加価値のあるものに育つためには、まだ越える必要のある要素もいくつか見受けられた。製品そのものの出来は良いが、ブランド力を高めるためには改善しなければならない部分もある。
音質”潜在力”高いハードウェア
少しおかしな書き方かもしれないが、FreeBuds Pro 2の(音質面での)潜在力は高い。小さなデバイスに無線、デジタル信号処理、アナログ部などが混在する中で、うまくノイズを処理しており、完全ワイヤレスステレオ(TWS)としてなかなか鮮度の高い音を出してくれる。
その音質はフランスのデビアレが監修しているというが、その割にバランスは完璧ではない。60Hz程度のかなり低い周波数帯が膨らみ気味で、中高域から高域にかけてのヌケは(せっかくS/N感は良いというのに)今ひとつ。低域と高域のエネルギーバランスはイコライザなどで調整した方が良さそうだ。
きちんとしたメーカーの作る上位モデルの場合、大抵はデフォルトのフラット特性がウェルバランスになるものだが、本製品の場合はイコライザを積極的に使いこなした方がいいと思う仕上がり。
一方で基本のS/Nが(TWSの中では)よく、しっかり低音の量感を出せるため、うまくバランスを取れば、爽やかなヌケのよさとどっしりとした低域や厚みのあるヴォーカルを楽しめるようになる。
なお筆者が評価したパッケージの場合、セットアップから2回連続でファームウェアがアップデートされた。アップデート前と最後のアップデート後ではかなり音質が違い、特に中高域から高域にかけての印象が良くなっていた。なので、店頭で試す際には最新ファームになっているかどうかのチェックをした方がいいだろう。
また、イコライザでかなり良いところまで追い込めるものの、対応アプリのイコライザは操作が極めて繊細で、ほんの少しの調整がとてもやりにくい。この点はメーカーエンジニアに報告したので、あるいは近いうちに修正が入るかもしれない。
全体に音質チューニングが練り込まれたソニーWF-1000XM4に対しては全体のまとまりは及ばないものの低域再生能力は上、AppleのAirPods Proに対しては情報量、再生帯域などあらゆる点で上回るものの、音質チューニングには検討の余地ありといったところだろうか。
ソニーWF-1000XM4はTWSとしては音質面でトップの実力。それと比べるだけでも、”かなりよくなったのだな”と認識してもらえるだろう。
なおノイズキャンセリング能力は、ソニーがダントツで、本機はAirPods Proをやや上回る程度と考えていい(ただし周囲の音を取り込むアウェアネスモードの自然さでは他2製品に及ばない)。
AirPods Proそっくりの軽快な装着感
本機の長所としてもう一つ取り上げておきたいのは、AirPods Proそっくりの軽快さや圧力センサーを用いた操作性(+AirPods Proにはない軸の部分をスライドさせての音量調整機能もある)だ。
ただし、個人的にはこの部分に不満を憶える。なぜなら、せっかく素晴らしい技術力を有しているにも関わらずAppleの模倣に力を注いでいるからだ。
ファーウェイがこのジャンルに参入した時にまで遡ると、最初に発売されたHUAWEI FreeBudsからして、AirPodsのデザインや商品コンセプトを踏襲したものだった。イヤーチップのないソリッドなイヤーピースでありながらノイズキャンセリング機能があるのは大きな特徴だったが、見た目の近しさは隠しようがない。
ところが今回の製品はさらにソックリ。もちろん、似たような製品は他にもあるが、本機は充電器兼用ケースの佇まいや、そこから本体を取り出す際に手前に引っ張るようにするとスムースに抜けるといった細かな使い勝手までほぼ同じ。
簡単に脱着可能なイヤーチップの装着方法、圧力センサーを用いた誤操作しにくいユーザーインターフェイスなど、基本的なコンセプト、実装方法、見た目に至るまでよく似ている。
せっかく音質面でオリジナリティを出そうと優れたドライバユニットや半導体を開発しても、これでは消費者にファーウェイならではというブランドを感じてもらえないのではないだろうか。
とはいえそうしたデザインを傍に置くならば、FreeBuds Pro 2の装着感は軽快で快適だ。イヤーチップのフィットが適切かどうかを判別する機能まで、AirPods Proと同じように作り込まれており、またチップの柔軟性や楕円形状、製品全体の重量バランスなどが適切で、装着感に不満を覚えることはない。
独自の音作りをハードウェア設計から
さて最終的にFreeBuds Pro 2はどう評価すべきだろう。
ファーウェイは、独自に開発したマイクロ平面振動板を備えるドライバユニットと11ミリ振動板を持つ大きめのダイナミックドライバの組み合わせが、本機の音質を語る上での根幹にあるとしている。
マイクロ平面振動板ドライバは、バランスドアーマチュアに近い外観だが、内部はピエゾアクチュエータを用いるのではなく、微細なボイスコイルと4つのマグネットを用いた独自開発のものだ。
前述したように、FreeBuds Pro 2の音の特徴は低音の豊かさにあるが、もう少し全体を俯瞰してみると、このマイクロ平面振動板ユニットが高域の表現力を引き出せるからこそ高域の情報を引き出せたのだと思う。
最終的な音作りの方向は異なるが、大きなダイナミックドライバで低域を支え、その上に抜けの良い音場を作るという音質設計の考え方は、B&O Beoplay EXにも通じる部分がある。
異なるのはマイクロ平面振動板ドライバの歪み感を抑えながら高域まで伸ばせるドライバ性能(これはポジティブな面だ)と、その性能を活かしきれていない音作り面での追い込みだろうか。
筆者は本機のイコライザ設定を下の画面のように設定したが、本来ならばイコライザなど設定せずにストレートの音作りで納得したい。低域の量感を演出したいがために低域過多になり、高域の伸びやかさも少しだけ足りない。この辺りはイコライザによる粗い設定ではなくデフォルトの設定で整えて欲しいところだ。
好みの音調に調整してみると、最も印象に残ったのがキックドラム。キックドラムの”ハリ”を感じるのは、帯域が広いキックドラムの音が全周波数帯で同時に立ち上がるから。この気持ちよく抜けがいいキックドラムは、低域ユニットとマイクロ平面振動板ドライバの位相特性が丁寧に合わせ込まれているからだろう。
また、高域の情報を多めに拾えるよう微かにイコライザを調整したが、歪み感はTWSとしてはかなり少ない。この辺りもハードウェアの素性の良さを感じさせるところ。しかし、ここまでできるのであればデビアレのブランドに依存するのではなく、自らのブランドで音づくりをすべきではないだろうか。
一方でドライバユニット、SoCなど一般的なメーカーが手を出しづらい部分までをカバーしながら製品作りできている点は評価したい。完全に成熟しきれてはいないが、今後はライバルにとって、さらに手強いブランドになっていくに違いない。