生活雑貨から文房具、食品、おもちゃ、工具、趣味用品まで、あらゆるものが揃うと言っても過言ではないのが100円ショップ。昔は名前通りに全商品が100円でしたが、今は高額商品も増えてきており、1000円を超える商品も珍しくありません。
その代わり……というわけではないですが、安かろう悪かろうや、似て非なるパチモン風なものだけでなく、普通に使えるお買い得な商品が増えてきました。その最右翼と言えるのが、電気系のアイテム。乾電池やボタン電池はもちろんのこと、LEDライト、USB充電ケーブル、電源タップあたりは、誰もが1度は買ったことがあるのではないでしょうか。
最近だと電気系、特にPCやスマホなどの周辺機器の充実がなかなかのもの。550円(以下、価格はすべて税込)のモバイルバッテリーやBluetoothマウス、1100円の完全ワイヤレスイヤホンやBluetoothスピーカー、ワイヤレスキーボードなどは、ホントにこの価格でいいのかと驚いてしまうほどです。Amazon.co.jpのマケプレにある怪しい商品より安いですからね。
その中でもUSB電源系は充実していて、5V2.1Aでよければ330円で購入できます。最近はType-Cの製品も増えていて、5V3Aで550円の商品のほか、PD対応の20Wで770円なんてものもありますから、これを普段使いしているという人も多そうです。
こういった商品を見ていて気になったのが、ダイソーで売られていたUSB電源付きの延長コード。Type-Aのものなら以前からありましたが、Type-CでPD対応という点に非常に惹かれました。
ただし、仕様を見ると少々気になる点もあります。
特に不安を覚えたのは、PD対応としながら出力が5V固定になっていること。PDの魅力は高電圧による低電流充電だと個人的に思っているので、5Vだけというのは、それだけで魅力が半減します。とはいえ、機器間で合意した最大電流で充電できるという点では、5VだけであってもPD対応の意味はあるでしょう。きっと。
もうひとつ気になったのは、最大電流が3.4Aとなっていたこと。この3.4Aという値は、Type-A×2出力のUSB電源でよく見かけるだけに、「PD対応……だよな?書いてあるしな?」と不安になります。
ちなみに多くのPD対応電源では、3Aを超えて出力できるのは20Vの場合か、電圧が変動するPPSの場合くらい。この商品は5V固定ですから、この辺も少々不安になるところですね。でもまー、Type-AとType-Cの2ポートあるし、合計出力値なんでしょう。きっと。
まずは実機を使って機能・性能チェック
ごちゃごちゃと不安な部分を書きましたが、気になるなら試してみればいいだけのこと。ということで買ってきたので実験してみましょう。
まずは機能面。商品名に「延長コード」という名前が入っていますから、この機能から見ていきます。
プラグ部分は180度回転可能なスイング型。壁にピタッと沿わせることができるので、使い勝手がいいタイプです。また、半抜け状態でのショート、トラッキングによる火災などを防いでくれる絶縁キャップ付きなので、安全面への配慮もされています。
続いてコンセント側を見てみましょう。2口なのでサイズのわりに少ないですが、差し込み口にシャッターがあり、ゴミが入りにくいようになっているのが良いところ。わりと作りがしっかりした電源タップだという印象です。
ただし、材質を見ると本体はABS樹脂製。差し込み口部分が耐熱性に優れたユリア樹脂の製品と比べると、少々見劣りしてしまいますね。
USB出力部は、Type-AとType-Cが並んで配置されています。ポートの間隔が狭いように感じますが、結構太めのケーブルを挿してもぶつかることはなかったので、同時利用もOKです。
ちなみに裏面にはメーカー名として「MAKER co., Ltd.」とあり、しっかりPSEマークも刻印されています。ただしUSBの出力にはPDという文字はなく、5V 3.4Aとあるだけです。
ネジ穴が△の特殊なネジが使われており、専用のドライバーがなければ開けられないよう配慮されていました。
ここまでざっくり見た感じでは、特に問題らしい問題はナシ。普通の2口タップとして使えることも確認できたので、AC側は期待通りといったところ。ということで、DC側……つまりUSB電源としての性能を見ていきましょう。
実験したのは、実機を使った充電。スマートフォンとして「Pixel 6」、タブレットとして「iPad mini 5」を接続し、簡易電力計で何Aくらい流れるのかをチェックしました。なお、充電量はどちらの機器も50%台の時に試しています。
Type-Aのみ、Type-Cのみ、Type-AにPixel 6でType-CにiPad mini 5、Type-AにiPad mini 5でType-CにPixel 6という4パターンを試した実験結果が以下です。
単体では、どちらもType-Cでは2.7A以上と高速充電らしい電流値。Type-AではPixel 6は1.5Aとだいぶ下がっていましたが、iPad mini 5は2.3Aと高めなままでした。
Type-AとType-Cの同時利用では、iPad mini 5の吸い上げの強さが目立つ結果に。Pixel 6をType-Cにつないでも、Type-AのiPad mini 5に負けてしまっています。
この同時利用で気になったのは、合計電流が3.8Aとなっていたこと。仕様では最大3.4Aとされていますが、多少の余裕があるみたいですね。とはいえ、仕様外の状態で長時間使うのは怖いので、2ポート同時利用は避けた方が無難かもしれません。
ちなみに、これ以外にも「Nintendo Switch」とか「OPPO Reno3 A」でも試していますが、電流が若干低い2A前後となった以外はPixel 6と似たような結果だったので、割愛します。
2ポート同時利用に怪しい部分はありますが、5V3.4AのUSB電源としては十分な性能があるようです。
「PD対応」かどうかを調べるため、PDOをチェックする
ここまでのテストだけでは本当に「PD対応」なのかはわかりません。この疑惑を晴らすため、「AVHzY CT-2」を使ってPDOをチェックしてみましょう。
PDOは「Power Data Object」の略で、その電源が扱える電圧と電流の組み合わせが記述されたリストみたいなものです。電源から機器へとPDOを伝え、機器側がその中から選んで電源へと要求することで、合意の上で高速充電を開始できるという仕組みとなっています。電源が一方的に高い電圧をかけることがなく、機器を安全に充電できるわけですね。
ということで、このPDOを見れば電源の素性がわかるハズです。
終了。
えー、残念ながらPDOは読み取れず、少なくとも、現在PD対応とされる電源である可能性はほぼなくなりました。
そもそも5Vだけに対応したPD対応電源なんてあるのか? という疑問があるかもしれませんが、つい先日、たまたま借りていた第12世代Coreプロセッサー搭載NUC「NUC12WSHi7」のType-Cポートがまさにそれでした。PDOを見たのがこちらです。
さて、本題に戻ります。
PDOが表示されない時点で、このUSB電源付き延長コードはPD対応じゃないと言っていいと思いますが、もしかすると、PDに関する何らかの通信は行っているかもしれません。
ということでAVHzY CT-2の機能を使い、この製品とPixel 6との間で行われている(かもしれない)PDの通信を見てみました。それがこれです。
出てきたのは、「Hard Reset」のみ。電源と機器側のどちらが出しているのか不明ですが、Nintendo SwitchだとHard Resetが3回、OPPO Reno3 Aだと1回も出ていないことからすると、機器側によるものっぽいです。つまり、電源は何もしゃべらずだんまり。さすがにこれでPD対応というのはいただけません。
なお、PD対応の電源だとどうなるか気になると思いますので、冒頭でちょこっと紹介した20W PD対応電源を例に紹介しておきます。
メッセージの番号通りに、簡単に解説しましょう。ただし、偶数番号の「GoodCRC」というのは通信を受け取ったという返信なので、ここでは無視します。
1 電源「PDO送るよー」
3 機器「PDOの2つ目のヤツ(9V)がいいな」
5 電源「了解!(`・ω・´)ゞ」
7 電源「9Vに変更したよー」
といった感じです。バス情報を見ると、メッセージ番号7のときに電圧が5Vから9Vへと変更されているのが確認できます。
分解して中身を確認!答え合わせをしましょう
ここまでは間接証拠からPDに対応していないことを証明してきたわけですが、ここからは、直接証拠から証明していきましょう。はい、分解です。
このUSB電源の基板はネジ止めなどされておらず、簡単に取り外すことができます。基板の接続部がどうなっているかといえば……こうです。
そう、中身は3口の延長コードと同じで、その端にUSB電源の基板が直接挿してある状態。ケースは作らなければならないとはいえ、内部は流用品で実現できるという、大変効率のいい設計です。
「妙に縦長だなあ」とは思ってましたが、なるほど、こんな理由があったんですね。こういう既存品の組み合わせで新しい製品を作るアイディア、嫌いじゃない……というか、むしろ大好きです。
コンセント部のNと基板のNが合ってないとか、基板直のプラグは逆に製造コスト高そうとか、気になる部分がないわけじゃないですが、動けばOKです。
USB電源の回路はそんな特殊なものではなく、よくある構成のもの。ブリッジダイオードで交流から直流へと変換し、平滑。電源制御ICとトランスで5Vを作り、整流・安定化してから出力するといった流れです。
注目したいのは、出力段の部分。まずはType-Aですが、D+とD-が短絡され、抵抗を使って約2.7Vになるよう調整されています。
D+とD-を短絡するのはUSB BC(Battery Charging)のため。Android機ではこの設定で高速充電が可能になるものが多く、最大1.5Aでの給電ができるようになります。先の実験でPixel 6がType-Aでは1.5Aとなっていましたが、まさにこのUSB BCによる動作ですね。
これに対し、D+とD-に2.7VをかけているのはApple製品のためで、この設定では、最大2.4Aで給電できることになります。再び実験結果をチラ見してほしいのですが、iPad mini 5がType-Aで2.3Aとなっているのは、こちらの仕様によるものだとわかります。
なお、Apple製品ではD+とD-に加える電圧の組み合わせで、最大電流が変わります。例えばD+が2.7Vで、D-が2.0Vの時は、最大2.1Aといった感じですね。
ということで、Type-Aの方は実験結果と仕様がほぼ一致していることが確認できました。では、Type-Cはどうでしょうか。
Type-C出力は、垂直に立てられた子基板となっていたので、これを見てみます。
コントローラーとして採用されていたのは、「TSC2103」というIC。これはChengyi Semiconductors社によるType-C仕様の電源コントローラーで、概要を見ると、USB BC1.2対応、Apple対応、サムスン対応、最大3.6Aなどとありました。PDには対応していませんので、直接証拠としてもPD非対応が確定です。
結論:PD対応ではないが、そもそも5V出力なので実用上の影響はほぼナシ
「PD対応」の文字に惹かれて購入したUSB電源付き延長コードですが、残念ながらPD対応はウソだと言わざるを得ない結果となってしまいました。
とはいえ、USB BCとApple機器への高速充電には対応しているため、実用上は特に困りません。実際、スマホやタブレットを接続して2A以上流れることも確認できましたしね。
最初にもちょっと書きましたが、PDは高い電圧による低電流充電がメリットだと思っています。なのでPD対応にこだわるなら、9V以上の出力に対応した製品を選ぶべきでしょう。5Vのみの製品を選んでいる時点で、勝ちの目はなくなっているのです。
……いや、PD対応って書いてあるし、もしかしたら9V出たりするんじゃ?という淡い期待はしましたけども!